【脇坂英弥(環境生物研究会・巨椋野外鳥類研究会)】

竹林と梅林に囲まれるようにひっそりとたたずむ「くぬぎ村」は、城陽市の青谷梅林のすぐそばにあります。城陽生きもの調査隊のメンバーが中心となって建てられた竪穴式住居や自然体験の活動ができるスペースがあり、まさに子供の頃に憧れた隠れ基地のような心躍る場所です。
さて、くぬぎ村では最近、希少な野鳥の生息記録が集まりつつあり、これを機に今年から詳細な野鳥調査を始めることになりました。まずは調査始動のオープニングイベントとして、1月27日に野鳥観察会が開催されましたので、そのときの様子を中心に、野鳥情報を紹介したいと思います。
当日の朝。前夜に降った降雪で、くぬぎ村のところどころも薄っすらと雪化粧。冷たい風が頬をさし、指先の感覚がなくなるほどの冷え込み。それでも参加者は元気いっぱいで、双眼鏡とカメラを首にさげて準備万端です。主催者である生きもの調査隊の竹内康先生から、イベントの趣旨の説明と参加者紹介があり、いよいよ野鳥観察会が始まりました。
今回の野鳥観察会は2本立て。ひとつは岡井勇樹さんが担当のバードウォッチング入門と、もうひとつは私が担当する鳥類標識調査の見学です。
岡井さんは野鳥を見つける名人。とにかく羨ましいほど観察眼が素晴らしく、中川宗孝先生をしてとてもかなわないと絶賛しています。岡井さんは次々に野鳥を探しては望遠鏡で鳥の姿をとらえ、参加者に見てもらいます。柿の木に集まってきたメジロを題材に「鶯色とはどんな色か」とのクイズを出題したり、2種類いる身近なカラスを見分けるポイントについて解説したりと、野鳥案内人としての腕前を存分に発揮されていました。
私の担当する鳥類標識調査の見学では、捕獲した野鳥の右脚に環境省の金属製リングを装着する様子を見ていただきました。捕獲用具や鑑札は、環境省から鳥類標識調査員に特別に与えられたもので、カスミ網と呼ばれる捕獲ネットは、一般には使用はもちろん所持すら違法の禁制の猟具となっています。
今回の調査で捕獲・標識されたのはルリビタキ、シロハラ、アオジの3種類。すぐ近くで野鳥を見ながら性別や年齢を判断するポイントのほか、謎に満ちた野鳥の渡りについて解説しました。野外では観察できない細かい斑紋や、羽毛をかき分けて皮膚ごしに見える頭骨の状態から、昨年生まれの幼鳥であることなど、標識調査ならではの記録を披露しました。また、熱心な子供たちには、野鳥たちの種名にリング番号、全長など各部の測定値などのデータを記録用紙に記入するお手伝いをしてもらいました。
鳥類標識調査では鳥の確実な生息を確認できるほか、渡りルートや寿命を知る手がかりとなるデータを得ることができます。くぬぎ村で放鳥された野鳥たちがいずれどこかで再捕獲されれば、貴重なデータとなることでしょう。そして何より、真剣な眼差しで野鳥を観察する子供たちの中から、将来、野鳥研究を志すキッズが誕生すれば、そんな嬉しいことはありません。もう25年も前、当時小学校5年生だった岡井勇樹さんと一緒に中川宗孝先生に連れていただいた福井県にある環境庁・鳥類観測織田山ステーションで、野鳥の見分け方や年齢などを教わった懐かしい思い出がよみがえりました。
今回の観察会で確認されたのは、ツグミ、メジロ、シジュウカラ、ヤマガラ、コゲラなどの小鳥や、ヨシガモ、ハシビロガモ、ミコアイサなどの水鳥。これからは渡り時期や繁殖期にも鳥類標識調査とルートセンサスと呼ばれる調査を定期的におこない、くぬぎ村周辺部の鳥類相をきちんと把握することを課題にしています。また、城陽環境パートナーシップ会議の自然観察会や研修会にも講師として呼んでいただいています。関心をお持ちの方はぜひこれらのイベントに参加していただきたいものです。
なお、本レポートの写真は、主催の城陽生きもの調査隊の田部富男先生にご提供いただきました。この場をお借りしてお礼申し上げます。

【写真①】カキの木にとまったメジロを観察しながら、野鳥の解説をする岡井勇樹さん(写真左)と参加者の皆さん。岡井さんは野鳥案内人として活躍されています。 双眼鏡で動く野鳥を追い、その姿をカメラでとらえるのは骨が折れますが、それが楽しいのです。
【写真②】メジロは野鳥界を代表する「甘党」で、甘い果実には目がありません。 熟したカキをついばんだり、ベランダに吊るした輪切りのミカンを食べたり。さらにはツバキの花の蜜を顔中花粉だらけにして吸蜜する姿が見られることも。メジロの行動は見ていて飽きません。
【写真③】鳥類標識調査の見学の様子。筆者(写真右)の手にはルリビタキがいて、その個体の右脚に番号の刻まれたリングをつけているところです。 参加者の子供たちには、データ(リング番号・種名・性別等)の記入を手伝ってもらいました。
【写真④】調査用のネットを使って捕獲されたルリビタキ。右脚に金属製のリングを装着しました。くぬぎ村で放鳥したルリビタキがどこかで再捕獲されれば、この鳥の移動ルートが少しずつ解明されていきます。

野鳥調査トピックス

今回のくぬぎ村においての野鳥観察会と鳥類標識調査の実施は、今後大きなプロジェクトに発展する可能性を秘めたイベントです。その発端は、くぬぎ村に設置された自動定点カメラに、昨年の4月から5月の一か月間にわたって、地球上で千羽に満たないといわれている大変貴重な鳥でレッドデータブックにも最高ランクの絶滅寸前種に掲載されているミゾゴイというサギの仲間の夏鳥です。
中川宗孝先生が写真の鑑定をした時すでに遅く、生息の現認と繁殖の可能性は次シーズンに持ち越されました。そして迎えた今シーズン、ミゾゴイが記録されたくぬぎ村周辺部の野生生物生息環境調査の実施となりました。やはり中川先生と岡井勇樹さん、竹内康先生たちとの宇治田原町に南山城村での調査では、数々の希少生物の発見があり今回も幸運な発見で朗報発信できることを期待しています。
今や両生・爬虫類がメインの中川先生も、和束町での鳥類標識調査に巨椋池干拓田のケリとシギ・チドリの生息調査、やはり希少な宇治田原町のアオシギの調査などにも同行されていて、活動記録写真をいただいています。ご覧ください。