【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
いよいよ平成のカウントダウンが始まりました。
振り返れば、昭和天皇が崩御された1月7日と翌・平成元年の初日も、巨椋池干拓田でコミミズクの観察と冬鳥調査で歴史的な一日のフィールド状況を記しています。「令和」改元の初日も、ライフワークとする郷土の野鳥と野生生物たちの生息状況の把握を目的としたフィールド探査で新時代の幕開けです。
昭和に生まれ育ち、平成の世をナチュラリストとして駆け抜けて迎える令和の新時代、人生の第四コーナーを過ぎても尚、全力疾走で悔いのない笑顔の終焉ゴールを迎えたいものです。終着点がないエンドレスな自然環境保全と啓蒙活動の区切りに、平成の鳥類目録と野生生物の生息リストのファイナル資料の作成で、未来のナチュラリストたちにフィールドの夢を託したいと願っています。
この30年間、南山城地方の希少生物の生息環境保全のアピールとなる研究成果を、日本鳥学会や日本爬虫両棲類学会など権威ある学術会議に於いて発表し続けてきたことがローカルナチュラリストの何よりの自慢です。そして、地元では教育現場や行政主管による環境教育の実践と自然観察会などの指導に携わり、環境大臣表彰の栄誉をいただいたご恩に報いる想いが現在の活源となっています。
また、当紙面での連載記事は、所属学会や各種イベントに欠かせない配布資料として活用するナチュラリストの啓蒙活動のアイテムになっていますが、そのきっかけも、希少野生動物の国際取引に関する「ワシントン条約」の締約国会議への参加レポートで、それぞれのテーマごとに詳細資料を添えた掲載記事は、当時の「日本動物植物専門学院」の指導教材として活用してきました。大衆の目を経たマスコミ記事は、資料としても公的意義を有するものであり、以後、貴重な紙面の提供に応えて自然環境保全と野生生物への理解を求める啓蒙活動の柱と位置付けてきました。
ナチュラリストの平成の歴史年表は、巨椋池干拓田でコミミズクという1羽の鳥との出合いから鳥をめぐる人たちとの信頼の環で始まり、現在の幅広い分野の郷土の生き物たちのファイナル資料の作成で時代の区切りとなる時を迎えています。雑多な思い出を懐かしみながらの平成の回顧録にお付き合い下さい。

◎平成の歴史年表

平成元年が始まった1989年1月、前年度の日本鳥学会大会で研究発表した巨椋池干拓田のコミミズクがNHKの科学番組で取り上げられることになり、2週間の日程で撮影が始まりました。それまでにも、顔で個体識別をして確信を得た「毎年同じ個体が越冬の為に飛来している」との自説を実証した環境庁の標識足環の確認記録など、野鳥に関する全国版ニュースは幾つかありましたが、やはりコミミズクの生態が最新機材の映像で記録され研究成果を裏付ける資料となるとその思いも格別です。
愛車・ジムニーの後部座席を取っ払い、ガラス窓を外してのスタンバイで、夜間の赤外線カメラも大活躍しました。スタッフ3人が我が家に泊まり込むことで、時間のロスもなく何よりのチームワークで貴重なシーンの数々を収めることができました。現在は絶滅危惧種でまず観察することができないコミミズクの越冬生態の中でも、捕獲した野ネズミを一時的に隠し、後に引き出して丸呑みする「貯食行動」のスクープ映像は特筆ものです。
その当時、カラー紙面が珍しかった新聞紙上で、一面カラー版の組み写真でコミミズクの特集記事が毎日新聞で紹介され、TBSの「ワクワク動物ランド」からの取材オファーを頂きましたが、放映時間も短く期待に応えられませんでした。そして迎えた待望のNHKでコミミズクの生態を余すことなく記録していただきましたが、30分間枠の放送時間内に入り切らなかった映像も多々ありました。
そのひとつが、2ヶ月ほどかけてゆっくりと近づいて人慣れさせ、遂には30㌢の距離で語り合うコミミズクとのツーショット映像です。後に「BS野鳥百景」でもコミミズクが選定されましたが、この時には京滋・京奈バイパスの開通による影響で激減し、とてもそんな状況にはありませんでした。そうしたお蔵入りのお宝映像も、テレビ大阪の科学番組「美しい科学・シグナス」で放映していただき陽の目をみています。
このシグナスでは、巨椋のコミミズクや学研都市のオオタカと共に、宇治市の鳥・カワセミ編も放映されています。宇治市市の鳥制定委員として、3年間にわたって調査や研修会にイベントの開催等に携わり、平成2年3月1日に市民の投票で選ばれたカワセミの制定を見届けました。
宇治市の鳥にカワセミが決まった時、当時の科学雑誌・平凡社の「アニマ」誌上でその経緯を伝えています。権威ある動物写真の「アニマ賞」で知られる雑誌にも、コミミズクが縁で「フィールド通信欄」で情報発信をしてきました。時同じくして、洛南タイムス紙上で地元版の「フィールド通信」の連載をいただき、以後、タイトルの変遷を経て当「ナチュラリストのフィールド日記」まで途絶えることなく活動報告と生き物トピックスを発信してきました。
これら紙上報告の記録ひとつひとつが、ナチュラリストの平成の歴史年表に刻まれています。学研オオタカ問題にカスミ網の根絶と和鳥の飼育、コアジサシのリターンといった国を動かした活動成果から、フィールドの女神に愛されしナチュラリストの希少生物の発見の数々。天然記念物の淡水魚・イタセンパラの発見に絶滅種・コガタノゲンゴロウの再発見、瑞祥の霊亀・蓑亀に黄金のスッポン、タカチホヘビ・ジムグリ・シロマダラの珍蛇3種類、カワバタモロコ・ホトケドジョウにヒメミズカマキリにマルガタゲンゴロウ…。外来生物も含めてナチュラリストゆかりのお宝生物たちの話題は尽きることがありません。
そんな自由奔放にライフワークに励んでこられたのも、周りの理解ある人々に支えられての賜物と感謝しています。12年前には心筋梗塞に倒れ、絶望の淵からフィールド復帰を果たせた喜びで人生観も一変しました。その後に両親を看取り、『恩を忘れたらあかんで…』環境大臣表彰の祝賀会の報告に涙を流して喜んでくれた母に、最後の親孝行を果たせました。その2年後に鬼籍に入った父には、木津川で日本一の大スッポンを引き揚げ、「となりの人間国宝さん」で『お父さんがスッポン獲りの師匠』と放映されて恩返しとなりました。
令和の新時代も、人々に夢を与えられる朗報発信ができることを願っているニュー・ロートルナチュラリストの、歴史年表・新章にご期待下さい。

写真①②一羽ずつ異なる顔を持つコミミズク。平成元年2月、NHK「タモリのウオッチングで放映されるや、巨椋池干拓田は大賑わいとなった。
写真③シグナスで放映されたコミミズクとのツーショット映像は、やらせ説も囁かれた。
写真④平成初版本の「アニマ」1989年2月号は、「京都発・越冬コミミズクに異変あり」のフィールド通信と共に、畑正憲・ムツゴロウ師匠の特集が掲載されている記念号に。
写真⑤⑥⑦2010年、環境大臣表彰授与。当時の小沢鋭仁・環境大臣と、祝賀会を開催いただいたナチュラリスト仲間たち。お祝いの記念品にも、コミミズクのオリジナル絵皿が。
写真⑧2012年放映の関西テレビ「よ~いドン!」の人間国宝さんでは、初代川漁師の父に最後となる親孝行ができた。

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