【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
厳冬期をふるさと・城陽市で過ごした福井県生まれのコウノトリ・ひかりちゃんは、2月8日を最後に和歌山県まで飛び去ったことが背中に装着されたGPSの発信記録から判明しました。
野生絶滅から復活を遂げて15年、人工飼育下で育ったコウノトリが再び自然界で繁殖し、全国各地に生息の場を拡げてくれることは日本国民すべての願いです。昔から瑞祥の福鳥と称された優雅で縁起の良いコウノトリ飛来の朗報は、絶滅の危機にある数多くの野生生物たちにも目を向け、保護への理解を深める機会になるものと情報公開し、マスコミでも報道されて先ずは公式記録となる文献資料を残すことができました。
そして、日本鳥学会の末席を汚すナチュラリストとして、コウノトリの初飛来の観察記録は当然の義務?と、城陽環境パートナーシップ会議の関係者たちと調査に乗り出しました。当初はこれまでの宇治市の巨椋池干拓田や京田辺市の池などで確認された状況と同様、通過の際のごく短期間の滞在と考えていましたが、12月の22日からの追跡調査で活動範囲も限られ、特定の箇所でねぐらをとって餌場も限定されるに至り、がぜん長期滞在の可能性が出てきました。
第二名神高速道路の建設が進むおよそ考えられない環境下でのコウノトリの越冬です。この機会を逃してはと、鳥人ナチュラリストに戻って喜々としてひかりちゃん詣でに明け暮れました。先ず、餌の乏しい季節の越冬生態として2月4日の立春までを目安とし、夜間のねぐらの確認と活動時間に採餌の場所や餌の確認、休憩時の頻度や姿勢など、とにもかくにも見たもの全てと聴取調査で得た情報を記録することに努めました。日の出前30分から日没後30分を昼行性のコウノトリの活動時間として観察しましたが、人や動物の影響を受けない夜間のねぐらから消え去ったこと2回、夜でも移動することが分かりました。
自身でも満足のいく越冬記録が残せ、最後に日の出前から日没後まで、終日調査で締めるべく2月の5日と7日に予定を入れ、トイレと食事の間の短時間だけでいいのでと共同調査員の二人にもお願いし、いよいよコウノトリ調査の最終章です。来るべき2月11日の「コウノトリ観察会」で、城陽市で越冬したことがどれだけ特異で貴重な記録であり、今後のコウノトリ定着に至るヒントにもなるであろう…との解説で区切りとする予定でした。
そして迎えた終日調査も、ねぐらから日の出と同時に餌場に飛来して採餌行動を始めるも、この日に限って農家の作業があって別の場所へ転々と移動し、それまでの生活史とは異なった記録となりました。仕切り直しの7日も、日が昇ってもねぐら搭から飛び立たずしばし…。お昼前に高く高く舞い上がる姿が観察され旅立ちの時が来たことを感じていました。
そして早速、翌2月8日を最後に和歌山市への飛来が判明し、奇跡のリターンを願っての観察会も、主役抜きでの報告会となりました。そんな中で迎えた2月17日、『ひかりちゃんが戻ってきた!』との信じられない連絡を受けました。前日まで和歌山市にいたまぎれもないひかりちゃんで、今度は定着かと狂喜しながら調査仲間たちと再会を喜び合いました。当洛タイ新報と京都新聞でも「希望のひかり」を報じていただき、翌日には再び旅だったひかりちゃんが、また戻ってくることを確信する出来事に心穏やかにその日を楽しみに待つ日常生活が始まりました。
そしてそして4日後の2月22日、今度は二羽のコウノトリの情報が入り、いつもの餌場とねくらの近くでの確認から、ひかりちゃんが相棒を連れてUターン飛来したものと誰もが思いましたが…。よもやの急展開でまだまだ続く城陽市・コウノトリ物語。
新天地からの飛来報告にはやる気持ちを抑え、前回に引き続いてのひかりちゃん滞在記・エピソード2に紙面を譲ります。笑顔の連鎖の環が拡がるフォトアルバムからのコウノトリシリーズ第四弾は、「希望のひかり」報告の続編です。福鳥の四方山話にお付き合い下さい。

◎活動報告・フォトアルバム

飛来から滞在二週間目、12月の暮れには文化パルク城陽近辺の水張り花卉栽培の田んぼでザリガニやタニシなどの採餌行動が定着化し、休息や夜のねぐらも特定の電波塔などでとっていました。(写真①②③) かつて本城隆志・市議(写真④右)からコウノトリ飛来の報告を受けながら、駆けつけた時には飛び去ってしまって京都府南部初飛来の記録を逸した残念な思い出も、ゆかりの福鳥との記念撮影が叶って笑い話となりました。
また、電波塔で眠るコウノトリのねぐら姿を、満月を背景にして撮れないものかとお願いした西尾長太郎さん(写真⑤左2)の作品が、共にベテランカメラマンとして実績のある山中十郎さん(同右2)に田部富男さん(同右)も大絶賛する出来ばえで、早速城陽環境PS会議で三氏の作品を絵はがきにして啓発活動に役立てたことはご報告の通りです。その後日談が、西尾さんの写真は修正加工の疑惑を招くので、その前後の撮影写真を消去しないようにとのお達しです。その内の1枚を紹介し、西尾さんの強運を物語る奇跡の写真を讃えるものです。(写真⑥)
コウノトリフィーバーに絵はがき効果もあり、城陽環境PS会議主催の古川自然観察会への参加者は、今年は50人を超える盛会となりました。(写真⑦) 午後の部のコウノトリ観察会は中止となりましたが、それでも10数人の人たちが一縷の望みを託して現場に来られました。こうした熱い思いの人たちへ届けるべく、大好評だった絵はがきの増刷と「城陽生き物ハンドブックDVD版」にひかりちゃんの映像資料を追加すべく奮闘中の昨今です。

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