【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
例年なら梅の便りとウグイスの初音に心も弾む季節を迎え、冬眠から目覚めた生き物たちとの再会に春の到来を実感するナチュラリストも、今年はコロナウイルス騒動でのイベント中止など、新年度の予定も先行き不安な状況の中で過ごしています。そんな中、特異な環境下で餌の乏しい季節を過ごした生態学的にも大変貴重な「城陽市でコウノトリ越冬!」の当紙面での調査報告と共に、活動母体である「城陽環境パートナーシップ会議」のホームページでも記録を残すべく始動しました。
当初からの調査仲間と共に、地元の愛好家の方々からも情報や資料の提供を受け、「城陽生き物ハンドブックDVD版」に映像を追加し、タイトルカバーもコウノトリに一新しての改訂版を予定しています。また、2月11日の観察会で配布した城陽環境PS会議作成の限定版・コウノトリの絵はがき3種類も要望に応えて増版予定です。いつの日か「鴻ノ巣山」にコウノトリが巣をかける城陽市民共有の願いを込めてのこれら「希望のひかり」の完成発表をお待ち下さい。
コウノトリに装着された標識足環から福井県生まれの「ひかりちゃん」であるとの個体識別ができ、GPSの発信記録からも様々なことが判明したことで、より身近な存在に感じられました。そうした相乗効果もあって、喜々として観察を続ける見守り隊員たちの期待に応え、ひかりちゃんも厳冬期の2ヶ月間を城陽市の住民として過ごしました。2月18日に再飛来の城陽市を飛び立ち、現在は昨年の越冬地・千葉県鴨川市に滞在しています。野外放鳥から1年5カ月、ひかりちゃんの移動経路の掲示板に、50日以上の滞在を示すマークが鴨川市近辺と共に遠く離れた城陽市にも印されることは、未来に夢を託す歴史的な第一歩が刻まれる特筆すべき朗報です。
そのひかりちゃんが飛び去って間もない2月22日、今度は2羽のコウノトリ飛来の情報が入り、3月に入っても目撃情報が届けられています。新たな発見の報告に背中を押されながらも、今回は一羽のマドンナ鳥が残してくれた人の環ネットワーク・幸の鳥(コウノトリ)エピソード続々編をお届けします。主役を豆粒大の背景に追いやった記録写真から、ひかりちゃんの姿をご確認下さい。
◎ひかりちゃんのリターンを願いて
12月9日に城陽市に飛来したひかりちゃんは、2週間目を迎える頃には文化パルク城陽近辺の花卉栽培の水田を餌場に、休憩場や夜のねぐらの鉄塔も定着化してきました。年末から1月まではほぼ毎日確認でき、このまま居ついてくれるのではと期待していましたが、繁殖年齢の3歳までは広範囲に飛び回って一ヵ所に定着しないコウノトリの習性どおり、2月の8日を最後に和歌山県に飛び去ったことがGPSの発信記録から分かりました。
この日の城陽市滞在最後の瞬間も、幸運にも写真記録に留めることができました。大学時代の親友・山本順次君の来訪を受けても、先ずはフィールド案内で近鉄電車の高架上に止まるコウノトリとの記念撮影です。(写真①②) そして、通常は深夜のねぐら見回りも、この日は遠来の友と酌み交わすために早めに出かけたのが功をなし、20時半に闇の夜空に飛び発つ瞬間を確認することができたのでした。(写真③) GPSの発信記録を補う城陽市滞在の最終記録で有終の美・美酒となりました。
この時は状況も分からず、相変わらず翌日もひかりちゃん探査に奔走しましたが、ほどなくGPS情報から和歌山県へ飛び去ったことが判明し、2日後に予定している「コウノトリ観察会」が中止の憂き目で大慌てです。返す返す残念な観察会中止に、それでも何人もの人たちが来られてコウノトリ解説と絵はがきの進呈で取りつくろいました。(写真④) 慰めにもならない『また飛来する可能性もありますので期待しましょう!』との脇坂英弥君(同左上)の言葉が、なんと1週間もしないうちに現実のものになりました。
目の前の田んぼでコウノトリを観察してきた丸山令子さんは、夜明け前から出没している不審者の筆者の素性も分かって以来、日々ひかりちゃんの情報提供でお世話になってきた調査協力者です。2月17日の午後、『ひかりちゃんが戻ってきた!』との通報を受け、その日の午前中まで和歌山県に居たことが記録されていたまぎれもないひかりちゃんであることを確認し、功労者の丸山さんと歓喜の記念撮影です。(写真⑤)
この日は仕事帰りの鳥垣咲子さん(写真⑥中)に、やはりご近所の調査協力者でコウノトリの写真提供をいただいている田中義則さん(同左)たち調査仲間全員がひかりちゃんとの再会を果たせ、マスコミでも奇跡の続報が報じられて貴重な資料記事の追加で幕引きとなりました。その夜もねぐらのひかりちゃんを見届け、翌18日早朝に京田辺市草内の常盤苑の池に飛来し、高く遠く舞い上がって飛び去るのを見送りました。(写真⑦⑧)
そして4日後の22日、今度は2羽のコウノトリが確認され…。以下次号。