【脇坂英弥(環境生物研究会・巨椋野外鳥類研究会)】

 ◆姫路市・夢前川でカモ調査

野鳥にとって春は繁殖期という大切な季節です。多くの野鳥が春に巣を作り、卵を産み、卵を温めるのは、ヒナが誕生する時期と餌になる昆虫の発生量が最も増える時期とを合わせているからだと考えられています。巣立ちまでの間、ヒナには大量の餌が必要になるわけですから繁殖を始める時期はとても重要なのです。

野鳥の繁殖の準備はすでに冬の間から始まっており、どうやら日本で越冬するカモの多くが、この日本の地でつがい相手を探していると言われています。カモたちは溜め池や河川でのんびり過ごしていると思いきや、よく観察してみると、オス同士で追いかけあったりメスに求愛したりと忙しそうです。

この冬は、日本野鳥の会などから調査協力の話があり、兵庫県と京都府でカモやシギ・チドリ類などの水鳥を観察する機会に恵まれました。今回は調査の様子を中心に、冬のフィールドでの話題をお届けしたいと思いますので、どうぞお付き合いください。

 

112日、日本野鳥の会ひょうごより依頼を受けて、兵庫県姫路市に位置する夢前川(ゆめさきがわ)でカモ調査をおこないました。私が担当したのは河口から上流5kmの範囲で、その中で観察されたカモ類とカワウ・オオバンの個体数を記録しました。予定では自動車で調査地内をまわるつもりでしたが、山陽電車の夢前川駅が調査地のそばにあることや、河川敷にサイクリングロードが整備されていることから、駅から歩きながら調査することにしました。

河口にはホシハジロの群れが多く見られ、ヨシなどの水草が茂るところにはコガモやヒドリガモが羽を休めている姿が目にとまりました。もちろん調査対象のカモ類をメインに探しているのですが、ついそれ以外の鳥にも目が向いてしまいます。川岸のカワセミや河原のイカルチドリの姿を目にするや、それらの行動を双眼鏡で追いかけてしまい、調査が脱線することもしばしばです。実家のある明石市に立ち寄るついでに調査を引き受けたのですが、脱線しながら調査をするものですから、1日がかりになってしまいました。

調査後はリニューアルされた姫路駅に立ち寄り、正面にそびえる国宝・姫路城を眺めながら、ちょっと一服。普段は出かけることのないフィールドで鳥を見るのも刺激があって面白いものです。また来年も是非ともお手伝いしようと思っています。

 

南丹市・日吉ダムでカモ調査

続いて113日は日本野鳥の会京都支部からのご依頼で、南丹市にある日吉ダムでもカモ調査をおこないました。さすがに広大な湖をひとりで調査をするのは大変だなと思っていたところ、有難いことに中川宗孝先生(写真①左)と、岡井昭憲先生(右)、鳥垣咲子さん(中)、松井優樹君が手伝ってくださることに。ひとりで調査となると気も重いものですが、大人数になれば趣味のバードウォッチングに様変わりするのですから、楽しい方がいいに決まっています。当日の早朝に城陽市のアイドル・ひかりちゃん(写真②)の観察ポイントで集合して、いざ日吉ダムへ出発です。

日吉ダムの湖面は谷が複雑に入り込んだ地形にあるため、できるだけ野鳥を見落とさないように、水辺が臨めるポイントを車で移動しながら5人で手分けして調査しました。観察されたのはマガモ・カルガモが多く、それにオナガガモ・コガモ・ヒドリガモが少数見られました。もちろん狙い通りのオシドリもごく少数ながら確認することができました。

結局カモの生息を確認できたのはダムサイト周辺と上流側に限られ、意外にもダム湖の中央部には鳥の姿がほとんどありませんでした。京都市内を流れる鴨川なら、人の顔を見るなり餌をもらおうと近寄ってくるカモも少なくないのですが、さすがに日吉ダムのカモは警戒心が強く、こちらの気配を感じるやいなや一目散に飛び立ってしまうこともありました。

そのほか対岸の尾根上の鉄塔にとまっているミサゴを見つけたり、鳴き声をたよりに空飛ぶ宝石のカワセミの姿(写真③)を探したりと、ついカモ以外の野鳥に気を取られるのは仕方ありません。「ヤマセミとクマタカが見たい」と道中の車内で話していましたが、残念ながらその期待には応えられず。それでも快晴の空のもと、さわやかな気持ちで調査を終えることができました。

 

亀岡市でコウノトリに出会う

日吉ダムからの帰りです。せっかくここまで来たのだからと、亀岡市の有名な探鳥ポイントである平の沢池へ立ち寄ることにしました。途中道に迷いながら細い山道を抜けると、そこには水の抜かれた大きな池があり、そこに白い大きな鳥が見えました。

「あれって、コウノトリ!」

車内で全員が声を揃えて叫びました。浅い湿地状の池には、泥に嘴をつっこんでタニシと思われる貝類をパクリと採食する2羽のコウノトリの姿がありました(写真④)。双眼鏡とフィールドスコープ(望遠鏡)を駆使して足環の色を確認できないかと試みますが、泥まみれの両脚に足環が装着されていることは確認できても肝心の色が分かりません。近づくことのできない私たちを気にすることもなく、2羽は悠々と餌探しに勤しんでいました。以前から亀岡市に複数羽のコウノトリが滞在しているという情報は得ていましたが、具体的な場所は知らなかったので、偶然にもコウノトリを観察できたのは幸いでした。道に迷った甲斐があったというものです。何より、中川先生たちひかりちゃん調査グループの人たちに、予定されていた亀岡のコウノトリ視察が事前情報もなしに実現した幸運は何よりの収穫でした。

夕暮れ近くになり、楽しみな探鳥スポットの平の沢池に到着。そこには様々な種類のカモが500羽以上も羽を休めていましたが(写真⑤)、もう誰もカウントしようとはしません。日吉ダムでの調査で湖周を動き回って疲れもピークの中、先の池でまさかのコウノトリ確認ではしゃいだ後では、調査担当地外での報告義務もない一般的な水鳥たちの記録はスルーしてのんびりとバードウォッチングとヌートリア観察(写真⑥)を楽しみました。

 

全国シギ・チドリ類一斉カウント調査に参加

次は、東京都にある「NPO法人バードリサーチ」が主催して実施している「全国シギ・チドリ類一斉カウント調査」に協力するため、29日に巨椋池干拓地を中心に調査をおこないました。

シギ・チドリ類の多くは、日本の水田や干潟をよく利用する渡り鳥です。彼らは、春はシベリアなどの北の地域で繁殖し、冬に東南アジアなどに移動して越冬するものが多く、その通り道にある日本の湿地は、移動中の春と秋に羽を休める絶好の中継地となっています(一部は日本で越冬します)。世界湿地の日に合わせて実施するという今回の冬期調査は、現在どのくらいのシギ・チドリ類が日本で越冬しているのかを明らかにするためのもので、全国の調査地で一斉に調査されています。当日は自動車で巨椋池干拓地全域をゆっくり走りながら田んぼ一枚一枚を丁寧にチェック。その結果、ケリ・タゲリ・ムナグロ・タシギ・クサシギの5種の生息を確認することができました。

調査中に嬉しい出会いもありました。電線にずらりと並ぶミヤマガラスを双眼鏡で観察していたときのこと。中川先生が56羽のミヤマガラスが「ある鳥」を追いかけているのに気づきました。

「おい、あれはなんだ?」

なんと双眼鏡に映った「ある鳥」はコミミズクです。フクロウの仲間であるコミミズクは日没後がメインの活動時間であり、昼間に見られることは珍しいこと。恐らく草地にじっと潜んでいたところをミヤマガラスに見つかり追い立てられたのでしょう。ご存知のとおり中川先生はコミミズクの研究者。かつて巨椋池干拓地には複数のコミミズクが越冬のために渡来しており、それぞれの個体を顔で識別するというユニークな研究をなさっておられました。永年、中川先生と鳥類調査をしていますが、じつは二人が同時にコミミズクを観察したのはこれが初めてでした。ミヤマガラスに追われていたコミミズクは、まっすぐに宇治川の方へ飛び去り、やがて空に紛れて姿が見えなくなりました。

かつて野鳥の宝庫として全国的にも有名であった巨椋池干拓地も、近年は観察される野鳥の種類や個体数も極端に減少しています。京滋バイパス開通にともなう環境の変化と交通量の増加、圃場整備にともなう乾田化など思いつく要因はありますが、直接的な野鳥減少との因果関係を示すことは難しいものです。それでもかつての研究対象であり、ご自身の代名詞ともいえるコミミズクをこの地で観察できたことは、中川先生にとって感慨深いものがあったに違いありません。

「コミミズク舞う巨椋池干拓地の風景」がいつまでも続いてほしい、そんなことを願いながらシギ・チドリ類の調査を終えたのでした。

 

木津川ハーフマラソンに参加

いつもは野鳥観察をする場である木津川ですが、まさかここでランニングすることになろうとは、以前なら考えることもありませんでした。昨年にハーフマラソンの応援にお邪魔した折、選手のみなさんの達成感に満ちた爽やかなお顔を拝見するうちに「来年は参加したい!」との思いが募り、今年の大会は妻を道連れにランナーとして迎えることになりました。言うまでもなくタイムは散々たるものでしたが、なんとか完走はできましたので、これを機に来年も参加しようと意を決しています(写真⑦)。

 

ようやく待ちに待った春が来たというのに、新型コロナウィルスに絡む暗い話題が続く今日ですが、せめてフィールドからは明るくホットなニュースをお届けできればと考えています。私の方は、本誌の里山通信を通してNHK番組「さわやか自然百景」の取材に協力することになったり、城陽パートナーシップ会議で開催される環境ミニフォーラム、兵庫県立人と自然の博物館で開催されるシニア大学において、それぞれ基調講演をさせていただく機会を頂戴したりと、新年度から充実した日々を送らせてもらっています。ライフワークとなっているケリの繁殖期の調査もスタートし、かわいいヒナ誕生の報告や色足環をつけた成鳥の観察記録など、話題提供には事欠きません。春のフィールドは嬉しい発見に満ちています。引き続き、次回の里山通信にご期待ください。