脇坂英弥(環境生物研究会・巨椋野外鳥類研究会)

 

【思い通りのケリ調査ができず】
今シーズンは完全にスタートダッシュでつまずきました。京都府の久御山町をメインに宇治市、城陽市、京田辺市、八幡市にかけての広範囲でケリの標識調査とカラーリングの装着を行なう予定でした。加えてケリにGPS発信機を装着して行動を追跡するという調査計画も立てていましたが、機材購入費が想像よりも高額になると知り計画の練り直し。次の機会をうかがうこととしました。ケリにカラーリングをつけて個体識別をし、それぞれの観察記録を蓄積することは、アナログな方法ながら本種の移動状況や生態学的な研究を行なうのに最も有効と考えています。少しでもたくさんの個体にカラーリングをつけることで、バードウォッチャーやカメラマンなど多くの方々に発見してもらえるチャンスが増えます。
本格的なケリの繁殖期に入った4月、巨椋池干拓地で偶然に観察されたセイタカシギ(写真①)や、すでにふ化していた愛らしいケリの雛(写真②)に誘われるように調査を開始したのですが、残念ながらコロナ騒動により標識調査を自粛せねばならなくなりました。複数人が集まり車に同乗したり公共交通機関を使用したり、はたまた調査地で出会う方々に不快感を与える可能性もあるわけですから仕方のない判断です。緊急事態宣言の解除を待って調査を再開しましたが、すでにケリの繁殖は終盤戦に入っておりベストな調査時期を逃したようでした。
今年、カラーリングをつけて放鳥できたのは成鳥2個体、幼鳥1個体の計3個体です(いずれも久御山町)。今シーズンのルールとして右脚に「緑・白・金属足環」をつけて放鳥しており(写真③~⑥)、栃木県の標識調査員・河地辰彦氏が右脚に「赤・金属足環」をつけて放鳥したケリと区別しています。

【SNSから嬉しい発見!】
コロナ騒動のなか、自宅でテンションの上がらない日々を過ごしていたところ、突然に滋賀県にお住いのバードウォッチャー・梅村僚介氏から嬉しい知らせが届きました。カラーリングのついたケリの写真が、とあるツィッターに掲載されているというのです。ツィッターを使えない私は、梅村氏に依頼してSNSの発信者にコンタクトをとってもらいました。するとそのケリは2020年4月7日に彦根市の農地(滋賀県立大の周辺)で観察され、足環の組み合わせは「右脚に金属足環・白、左脚に赤・緑」との情報が得られたのでした(写真⑦)。
なんと、このケリは間違いなく私が放鳥した個体で、それも2007年5月18日に巨椋池干拓地で放鳥した成鳥(足環番号:8A‐24595)であることが分かりました。巨椋池干拓地から彦根市へ約70㌔を移動し、しかも少なくとも13年は生きていることが判明したのです。その後の6月に、梅村氏が彦根市でこの個体を探してくれましたが見つからず、周辺に他のケリもいなかったと報告をいただきました。本個体が繁殖したのかどうか気になるところ。来シーズンにはこの地へ探索に出かけなくてはなりません。もしかしたら、また巨椋池干拓地へ帰ってくる可能性もあり、今後の動きに注目したいと思います。

【日本野鳥の会に感謝】
「ケリを見ていたら足環がついてたよ」という情報を、ときどき日本野鳥の会京都支部の方からいただくことがありました。足環のついたケリに興味をもってくださり、しかも情報を提供してくださることは大変ありがたいことです。
野鳥に足環をつける標識調査はどうしても捕獲をともないます。もちろん安全にケガをさせないように注意をはらって捕獲に臨むわけですが、捕獲そのものがかわいそうだと感じる方も少なくはなく、標識調査をしていることや足環のついた野鳥の目撃情報を求めていることをどのように広報してよいかが分からず、つい遠慮がちになっていました。
そんな矢先、日本野鳥の会京都支部の編集担当の方から「ケリ調査の記事を支部報に投稿してくれないか」とのメールが送信されてきました。嬉しさのあまり「もちろんです。足環つきのケリを探してほしいので、そのことも書いていいですか?」と質問すると、「会員に呼びかけてください」との願ってもないお返事をいただきました。こうして、「カラーリングのついたケリ探しにご協力ください」というタイトルの記事が、支部報「そんぐぽすと:2020年6‐7月号」に掲載されたのでした。
さらに嬉しいお話がありました。今度は日本野鳥の会の本部が発行している「野鳥:2020年8月号」にも掲載可能とのメールが、日本野鳥の会の川島賢治レンジャー(豊田市自然観察の森担当)より届きました。原稿の締め切りは1週間以内とタイトでしたが、「もちろん間に合わせます」と回答したことは言うまでもなく、「色足環のついたケリを探しています」というタイトルで写真つきの記事を掲載していただけることになりなりました。
カラーリングのついたケリがどこで見られるのか、そんなアナログな情報を集めるには多くの方々の協力が必要不可欠です。そのための広報の機会をくださった日本野鳥の会には感謝の気持ちでいっぱいです。これを機に多くの皆様から情報が集まるものと期待しています。もちろん集まった情報は、本誌含めて皆様にご覧いただけるかたちでまとめるとともに、本種の季節的な移動や繁殖生態、寿命などを解明する資料として役立てる考えです。

【憧れのミヤコドリ】
都鳥と聞けばユリカモメが頭に浮かぶ方も多いかもしれませんが、実際に和名としてミヤコドリとついた野鳥がいます。この鳥をずっと見たいと思っていたのですが、私のフィールドではなかなか姿を見せてくれません。そこで思い切って向かったのが、探鳥スポットとして名高い、千葉県船橋市にある三番瀬の干潟です。6月20日の干潮時をねらって訪れたのはいいのですが、潮干狩りを楽しむ人々の数に圧倒され、探鳥どころではありません。諦めて帰ろうとしたその時です。晴れ渡る青空を背景にミヤコドリの群れが飛来し、見てくれと言わんばかりに目の前の干潟に舞い降りたのです(写真⑧)。
さらに嬉しいことが続きます。歓喜の声をあげながら1羽ずつ観察していたら、そのうちの1羽の左脚にフラッグ(黒・黄色、T6との刻印)がついていることに気づきました(写真⑨)。もしかしてこれは…。下記のサイトを調べてみると、どうも2019年7月にロシアのカムチャッカ半島で放鳥された幼鳥である可能性が高そうではありませんか。自分自身が放鳥した足環つきの野鳥を見つけるのはもちろんですが、他の研究者が放鳥した足環つきの野鳥を発見して移動ルートの一端を知るというのは格別の喜びがありますね。
●参考サイト
http://www.yamashina.or.jp/hp/p_release/images/20191219_prelease.pdf

【タマシギはどこに?】
今シーズン、ケリに続いてのライフワークとなっている「タマシギ」の繁殖期の調査がスタートしました。ベテランのバードウォッチャーから「昔はたくさんおったぞ」との声を聞きますが、今では探しても探してもなかなか見つかりません。
京都府の希少野生生物に指定された鳥類(ヒメクロウミツバメ・オオタカ・タマシギ・コアジサシ・ブッポウソウの5種類)である本種の生息状況はほとんど分かっておらず、その解明が進まないと保全策も立てられません。まずは生息分布が多いと思われる府南部を中心に、協力者からの情報提供をいただきながら確認場所・個体数・生息環境・繁殖状況などのデータ収集に努めています。合わせて、調査状況やそれにまつわるホットなエピソードをご報告できるものと考えていますので、引き続き、次回の里山通信にご期待ください。