全長617m「トンネル貫通」/天ケ瀬ダム再開発事業
トンネル貫通により、反対側の光がもれ出た掘削現場

天ケ瀬ダム(宇治市)の放流能力を現在の毎秒900㌧から、同1500㌧にアップさせる再開発事業。天ダム左岸側で実施している全長617㍍のトンネル式放流設備が、22日に貫通した。今後、さらに工事を進め、2022年2月に完成予定。大雨に備えてダム湖の水位をあらかじめ低下させる「事前放流」などに活用する。
天ケ瀬ダム再開発事業は、上流の琵琶湖周辺や下流の宇治川での浸水被害を踏まえ、洪水調節機能を強化するために計画。ダム本体に放流ゲートを増設する案など紆余曲折を経て、天ダム左岸側にトンネル式放流設備を整備することになった。
トンネル式放流設備は全長617㍍、内径10・3㍍の巨大な構造物で、放流能力は毎秒600㌧。ダム本体の放流能力が同900㌧(非常用ゲート除く)であるため、合計で同1500㌧に引き上げる。
2013年9月にトンネル式放流設備の工事に着手した。地下約40㍍エリアでの作業で、特に宇治川の水を取り込む流入部では、大きな水圧がかかる中での難工事。7年近い歳月をかけて、22日午後3時前、無事にトンネルが貫通した。

水勢を弱めるため直径約26㍍の「減勢池部」

国土交通省の琵琶湖河川事務所は貫通の瞬間を報道陣に公開した。最後となった厚さ約1・5㍍の岩盤を、反対側から掘削。大きな音がトンネル内部に響き渡る中、約6分で穴が開き、向こう側の光がもれ出ると、関係者から大きな拍手が沸き起こった。
今後も工事を進め、完成は22年2月を予定している。平行して放流ルールを定める運用基準を検討。基本はダム本体を優先させるが、場合によってはダム本体から一切放流せず、トンネル式放流設備のみ放流するケースも出てくるという。
完成後は最大で毎秒1500㌧放流が可能。放流先となる宇治川は、同1500㌧を流せるよう、河床掘削などの改修工事を昨年6月に完成させている。
人工的に毎秒1500㌧放流が可能となることで、大雨が予想される場合、あらかじめダム湖の水位を低下させる事前放流でも最大限の能力を発揮する。13年9月には天ダムへの流入水量が多く、ダムに入ってきた水を、そのまま流す「緊急放流」を初めて行った結果、宇治川の水位が上昇し、周辺地域の約6万2000人に避難指示が発令される事態に。洪水調節機能のアップで、緊急放流を避けやすくなる。
また、下流域での洪水の危険性が去った後、琵琶湖の水位を低下させるための「後期放流」にも能力が生かせる。
なお、トンネルの入口は天ダム上流の鳳凰湖で、出口は天ダム下流にある白虹橋付近となる。総事業費は約660億円で、想定よりも大きかった破砕帯の追加対策、環境基準値を超過したヒ素が検出された影響で、当初予定の2倍に増大。完成年度も当初は15年度としていたが、6年遅れており、ようやくゴールが見えた。