脇坂英弥(環境生物研究会・巨椋野外鳥類研究会)

【城陽市環境フォーラム開催】

2020年11月21日に開催された「第19回城陽市環境フォーラム」。講師としてお声かけいただいた私は「コウノトリが教えてくれた城陽市の生物多様性」というタイトルで講演する機会に恵まれました(写真1・2)。

昨年12月に飛来し、それから約2か月もの間、城陽市の農地に滞在したコウノトリ「ひかりちゃん」の越冬記録を振り返り、その情報を公の場で市民や関係者の皆様と共有できたことは、大変光栄なことでした。通常なら来場者を前にお話をするスタイルなのですが、今年度は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、YouTubeの城陽市公式チャンネルで生配信するとの説明を受けました。

初めての経験で何をどう準備すればよいのか戸惑っていましたが、城陽市環境課と城陽環境パートナーシップ会議の方々の丁寧なフォローのおかげで、すぐにその不安も払拭され、講演準備はそれなりにはかどりました。それでも当日に会場に入った途端、場内にピンと張り詰めた空気にのまれましたが、むしろほどよい緊張感のなかで本番に臨めたと振り返っています。

今号では当日の講演内容を引用しながら、城陽市に生息する魅力的な野鳥たちをご紹介したいと思います。 よろしくお付き合いください。

【城陽市で越冬したひかりちゃん】

近鉄線や住宅地、商業施設などに囲まれた農地に突然姿を見せたのは、2018年5月に福井県で生まれたコウノトリ・ひかりちゃんです。右脚に黄・青、左脚に黄・黒のカラーリングをつけ、背中に発信機を背負ったひかりちゃんは、2019年12月から2020年2月までの2ヶ月間、寺田駅近くの農地に滞在しました。その間、城陽市は市民総出での歓迎ムードに包まれ、大いに盛り上がりました。そして連日大勢のカメラマンが押し寄せ、「水鏡」(写真3:田部富男氏撮影)や「月影」(写真4:西尾長太郎氏撮影)といった奇跡の作品が生まれたのでした。

日中は田んぼや蓮田、花卉栽培の農地などの湿地で餌を探し、日没時には電波塔のてっぺんへ移動して眠りについたひかりちゃん。餌場となった農地ではアメリカザリガニ、スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)、タウナギ(写真5:澤江里恵子氏撮影)など外来生物を中心に捕食していました。実際、ひかりちゃんのいない隙に餌場の農地を探索すると、食べ残したザリガニのハサミがあちこちに落ちていました。

ハスやショウブなどの花卉栽培が盛んな城陽市は、冬であっても市内各地の農地に湿地が見られます。飼育下のコウノトリは一日に400~500gものエサを食べる大食漢と言われていますが、エサの乏しい冬であっても水生動物が多数生息している城陽市の農地は、ひかりちゃんには魅力的な越冬場所であったに違いありません。

【農地の野鳥】

日本に生息する633種の野鳥のうち、城陽市には209種もの野鳥が生息しています。海岸や標高の高い山地もない内陸の城陽市において、これほど多種類の野鳥がみられるのは、市内に様々な環境が残されている証と言えます。市内の環境を大別すると、農地、河川敷、丘陵地、市街地があり、それぞれの環境には魅力的な野鳥が生息しています。順にご紹介しましょう。

農地を利用する野鳥は多く、しかもケリやタマシギなど希少性の高い種が生息している特徴があります。とりわけ田んぼに巣をかまえて繁殖するチドリの仲間のケリは、耕起や代掻きなどの農業活動にともなう撹乱で巣や卵が破壊されることが多く、いかにこの撹乱を回避するのかが繁殖成功の鍵になっています。

一妻多夫制のユニークな繁殖生態をもつタマシギは、以前ならケリのヒナを探すついでに見つけられた野鳥でしたが、今ではめっきり姿を見なくなりました。京都府の希少野生生物に指定されているものの、現在の生息実態は不明であり、保全策すら立てられない状況です。知らないうちに個体数を減らし、気がついたら京都府では絶滅していたというシナリオは避けたいもの。本種の生息調査は急務と言えるでしょう。

【木津川の野鳥】

城陽市の西側を流れる木津川は、コアジサシやチドリ類(シロチドリ、イカルチドリ、コチドリ)が繁殖する場として知られていますが、とくに注目してほしいのは、京都府では一年中見られるイソシギです。木津川や宇治川などの大河川はもちろん、京都市内を流れる桂川や鴨川などの都市河川、小規模な農業用水路などでも比較的簡単に見ることができます。単独でいることが多く、尾羽を上下に振りながら餌(小さな水生動物)を探すかわいらしいシギの仲間です。

ところが、これほど身近な野鳥であるにもかかわらず、これまで京都府内のどこで繁殖しているのが明らかになっていませんでした。そこで2002~2003年に、中川宗孝先生と共同で木津川の河川敷を調査し、京都府で初めての本種の繁殖記録を得ることができました。その記録をまとめた論文は、以下よりご覧いただけます。

◆京都府木津川における繁殖中の イソシギ成鳥 とヒナの標識記録

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbba/18/2/18_AR134/_pdf

【丘陵地の野鳥】

青谷クヌギ村において、城陽生きもの調査隊の設置した無人カメラによって撮影されたミゾゴイのホットな話題は、本紙にも紹介してきました。城陽市の東側にある丘陵地には、梅林や落葉樹林が広がり、森林を好む野鳥の貴重な生息場所となっていると思われますが、本格的な調査はこれからです。

ミゾゴイを探しているときに、フクロウの雄の鳴き声が確認されたこともあり、嬉しい課題は増える一方です。まずは冬季にアオバズクやアオゲラなどが利用できる巣箱をいくつか設置し、じっくり状況をみたいと考えています。

【市街地の野鳥】

最近、アーバンライフにはまりつつあるチョウゲンボウが、城陽市にある会社の建物で繁殖を始めました(写真6)。かつて京都府では冬鳥だった本種が、春夏の繁殖期にも見られるようになり、今ではすっかり留鳥の仲間入りです。

11月下旬に宇治川河川敷の上空をペアで旋回するチョウゲンボウを見かけたときに、都会を好むチョウゲンボウの生態解明のため、足輪をつけて個体識別ができないだろうか、と頭に浮かびました。またまた嬉しい課題です。今冬、チョウゲンボウを効率的に捕獲して足環がつけられるかどうか試してみようと考えています。

【ひかりちゃんとの再会に期待】

2月8日に城陽市を旅立ったひかりちゃんは、その後、奈良県、和歌山県、千葉県など国内を気ままに飛び回っています。そして最近のひかりちゃんは、岡山県、香川県を経て、どうも兵庫県姫路市に滞在しているとの情報を得ています。若い雌なので、日本各地でパートナーを探しているのかもしれませんが、少しずつ京都府南部に近づいている気もします。近鉄電車の車窓から寺田駅周辺の農地を見るたびに、ひかりちゃんフィーバーに湧いた昨冬の光景が思い出されます。ひかりちゃんとの再会はあるのか、期待して待っていようと思います。

さて、城陽市環境フォーラムの様子は、YouTubeの城陽市公式チャンネルで配信されています。私の講演は、再生開始から1時間13分後に始まります。もしよろしければ、ご視聴いただけると幸いです。

◆2020年11月20日京都府城陽市環境フォーラム

https://www.youtube.com/watch?v=KM1HbI94vXE

このたびの講演に際し、多くの方々にお世話になりました。フィールド調査でご指導くださっている中川宗孝先生・竹内康先生・岡井昭憲先生をはじめとする城陽パートナーシップ会議の皆様、そして温かい目で調査活動を見守り、応援してくださっている市民の皆様と城陽市環境課の皆様に心から感謝申し上げます。