脇坂英弥(環境生物研究会・巨椋野外鳥類研究会)

【東角小学校の校庭に営巣したケリ】
今シーズンも、ケリを捕獲して足環をつけて放鳥する標識調査を行なったものの、放鳥数はいまひとつでした(写真①)。それでも新たな環境で繁殖を試みるケリに出会うことができたことは、本種を研究する者として貴重な経験でした。
中川宗孝先生の連載・フィールド日記において「東角小学校・ケリのハッピーバースデイ物語」で紹介されているとおり、久御山町立東角小学校の校庭に営巣したケリが、児童や先生方に見守られながら6月20日から21日に無事4羽のヒナをふ化させました。その後、中川先生の指導のもと、ケリ親子を隣接する水田へ移動させたとの報告をいただきました。その翌日の22日に現地にかけつけた私は、末っ子と思われるヒナに環境省の金属リング(8A-36147、写真②)を装着することができました。優しい農家の方々が見守る、安全な田んぼへ引っ越しできたケリ親子。ヒナのその後の成長が楽しみです。

【城陽市内の月極駐車場に営巣したケリ】
城陽市内の月極駐車場の砂利の上に巣をかまえたケリ。抱卵の様子を継続的に観察されているのは、城陽環境パートナーシップ会議・調査員の鳥垣咲子です(写真③④)。ケリの卵が、車や人に踏みつけられないかを心配しながら見守り続けた鳥垣さんの温かい愛情を受けて、4羽のヒナが無事にふ化。その報告を受けた中川先生は、餌も水もほとんどない駐車場でヒナが成長するのは困難であろうとの判断から、ヒナ4羽を隣接する水田へ移動させました。
その後、6月24日には、親鳥とヒナが城陽市立西城陽中学校の北側にある水田へ移動していることが確認されました。連絡をいただいた私は現地にうかがい、ヒナ1羽に環境省リング(8A-36148、写真⑤)を装着しました。その後も鳥垣さんの観察は続けられ、親子の無事が確認されています。7月20日には大きくなったヒナ3羽が翼をばたつかせているとのこと。ヒナたちの今後の成長が気になるところです。

【奈良学園の校庭に営巣したケリ】
5月30日、奈良学園の理科の先生から「校庭にケリが営巣している」とのご連絡をいただき、中川先生、岡井昭憲先生らと共に現地へお邪魔しました。ケリの巣はサッカーコートのほぼ中央にあり(写真⑥)、踏みつぶされないようにと5本の白いコーンポストが目印として立てられていました(写真⑦⑧)。巣は芝生や草本類の茎を集めただけの簡素なもので、親鳥は人目を気にするそぶりもなく抱卵を続けていました。当校の自然再生研究会の生徒さんや先生方が定点カメラを設置して継続観察を行なったところ、6月13日の夕方から14日の早朝にかけて2羽のヒナがふ化に成功したことが判明。その知らせをメールでいただいた私も感激しました。
しかし、自然はときに野生動物に厳しいものです。7月5日にいただいた連絡によれば、激しい雷雨に見舞われたせいで、ヒナ2羽は冷たくなって死亡していたとのことでした。
東角小学校や駐車場で営巣したケリの場合、幸いにも周囲が農地であったことから、本来の生息環境へ速やかに移動させることができました。一方の奈良学園の場合は、周囲に農地はなく住宅や商業施設などが立ち並ぶ市街地となっています。ケリ親子を移動させることは現実的ではなく、校庭内でヒナを育てさせる選択しかできませんでした。とは言え、校庭の中だけでヒナが成長するのに充分な餌と水を得ることは難しく、残念な結果に終わったことは仕方のないことです。
その後、奈良学園の先生からうかがった話では、ケリは昨年も同じ場所に産卵していた可能性があるとのことでした。もしかしたら、まだ繁殖経験の浅い若いペアなのかもしれません。来年こそは、ふ化後のヒナがのびのび成長できる場所に巣をかまえてほしいものです。

【タマシギの巣づくり開始】
すっかり田植えの終わった南山城地方の田んぼ。今シーズンのケリの繁殖も終わりを告げ、飛べるようになった幼鳥たちが集団を組むようになりました。次に田んぼで繁殖を始めるのがタマシギ。7月1日、八幡市内里の田んぼでは、オスがイネの隙間をゴソゴソと動きまわり、巣づくりに忙しそうです(写真⑨)。一方のメスは、畦の上に立って「コーコーコー」とよく響く声で鳴いていました(写真⑩)。
タマシギは一般的な野鳥の雌雄と役割が逆転していて、メスが鳴いてオスに求愛し、交尾後に産卵したメスは、卵を置いたまま巣を離れます。その後、抱卵とふ化後のヒナの面倒をみるのはオスの仕事で、その間のメスは新たな独身オスをもとめて、日没から早朝にかけて鳴き続けます。
メスはのんきでいいね、と思いきや、そうでもありません。子育中のオスが増えると独身オスを見つけるのが難しくなるため、タマシギの世界は慢性的なオス不足になるのだとか。オスよりも体格のよいメスは、肉食系女子として夜な夜なオスを探し続ける、そんな変わった生態をもつ野鳥です。

【会社ビルで繁殖したチョウゲンボウ】
京都府レッドリスト2002年度版では準絶滅危惧種だったチョウゲンボウですが、最新のレッドリスト2015年版では絶滅危惧種にランクアップしました。というのも、冬鳥だった本種が春夏でも見られるようになり、やがて繁殖を始めたことがその理由です。
今シーズンも、城陽市内の会社ビルの排気口(?)でヒナを育てているチョウゲンボウのペアを確認しました(5月30日、写真⑪)。府内の各地で繁殖を試みているチョウゲンボウは、JRの駅や商業施設のほか、近鉄電車の高架や第二京阪道路の高架を巣場所として利用しているとの報告もあります。巣づくりをしない本種にとって、捕食者や雨風の入りにくい空間をもつ人工構造物はありがたい営巣環境なのでしょう。加えて高い位置にとまってスズメやカワラヒワなどの小鳥や、バッタやカマキリなどの昆虫を狙うことも可能で、市街地やその近郊の農地、河川敷は彼らにとって住み心地の良い場所と言えそうです。

【珍鳥続々! シラコバト・オオハシシギ】
じつは今年、年明けから数々のホットニュースが満載でした。それらをまとめなくてはと思いつつ・・・。筆が遅くてすみません。
福井惇一さん、日野田星さん、中川宗孝先生の観察により、少なくとも今年1月19日から1月30日に京田辺市の農地に滞在したことが明らかとなったシラコバト(写真⑫)。本種の観察記録は京都府初となる快挙で、学術的にも貴重な記録です。続いて、2月11日には珍鳥・オオハシシギ(写真⑬、岡井勇樹氏撮影)を古川調査隊の皆さんと観察することができました。こちらは京都府ではかつて3例の記録しかない貴重な観察例となりました。
珍鳥ではありませんが、最近増えてきたチョウゲンボウの動きも気になるところ。可能であれば、幼鳥を捕獲してカラーリングをつけて個体識別をし、追跡調査をしたいとも考えています。本種は電柱や鉄塔によく止まるので足環が確認しやすく、加えてさほど人を怖がらないので近距離での観察にも適しています。本種の移動や分散に関する知見はほとんどなく、これからの研究材料として打ってつけだと考えています。
一方、チョウゲンボウが、田んぼを歩くケリのヒナを空中からさらっていくところを目撃したことがあります。チョウゲンボウの増加がケリやタマシギなどの田んぼで繁殖する野鳥にどんな影響を与えるのか、そんな視点からの興味も尽きません。
さぁ、いよいよ夏本番です。引き続き、フィールドからお届けする熱い報告にご期待ください。