【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】

本紙新春号「ナチュラリストからの年賀状」に引き続き、あらためておめでとうございます。今年は爬虫類派を公言するナチュラリストにとって縁起の良い巳年を迎え、幻の怪蛇・ツチノコの発見に、憧れの白蛇とアカジムグリの紅白お宝蛇との再会を夢見ている2025年の幕開けです。今年もよろしくお願い致します。

さて、昨年の辰年は年男でもあり、鉄道マニア必携アイテム・青春18切符で名古屋の白龍神社に和歌山県の白龍大明神など、各地の龍神初詣巡りとローカル列車の旅を楽しみました。そして迎えた今年の巳年は、コロナ禍で足が遠のいている山口県岩国市の「白蛇神社」を筆頭に、東京の蛇窪神社や栃木県の白蛇辨財天、近場の三重県の玉三稲荷神社や奈良桜井市の大神神社をピックアップしていましたが、京都東寺の縁日・弘法さんで一足早い白蛇詣でを果たし、お正月は地元の荒見神社に水度神社、巨椋神社の三社参りでツチノコ発見の初夢祈願の三が日を過ごしました。

古来より白蛇は弁財天の使徒と崇められてきました。これはアオダイショウの色素欠乏の突然変異個体で、黒いメラニン色素が欠乏した完全アルビノは目が赤いのが特徴です。対して白変種と呼ばれる目が赤くないものは他の色素欠乏によるもので、岩国の白蛇にも目が黒いものに黄色やオレンジ色の体色もみられます。ペットショップで人気のコーンスネークの紅白蛇もこうしたアルビノ個体で、一昨年閉園した神戸市立須磨海浜水族園でのオオアナコンダや群馬県のジャパンスネークセンターのビルマニシキヘビなど、迫力ある大蛇のきれいなアルビノは一見の価値ありです。

かつて京都駅前にあった丸物百貨店屋上のペットショップや新京極にあった京極ペットでは、ヘビやカメレオンにワニなどの爬虫類も展示販売されていて、学校帰りに足しげく通ったものでした。当時、初めて見たミドリガメのアルビノ個体に感激し、2000円の値札がついていて悩むもの、時給120円のガソリンスタンドのバイト代2日分をつぎ込む覚悟で再訪するや、ひと足早く売れてしまったほろ苦い思い出がよみがえります。

こうした半世紀も前のできごとも、当時からの生き物への興味とこだわりから現在のライフワークにつながっていることを実感する歳となりました。また、最近の活動報告に、山城大橋開通前の渡し舟や川砂利採取のドレージャーと呼ぶ巨大な車が作った大きなすり鉢状の堀跡に、昭和40年を最後に閉鎖された木津川水泳場の話題などを盛り込みました。そして、蛇の俗称・クチナワや、「毒流し」と称した小川での魚採りに雑多なふるさとの生き物たちの遠い昔の記憶が、思いのほかたくさんの人たちと共有する思い出として残っていることも分かって会話も弾みました。

昭和世代のロートルナチュラリストが、昭和100年に当たる今年はローカル色満載の回顧録で生き物たちの話題をお届け致します。2月1日の京都環境フェスティバルで完成披露の「城陽生き物ガイドブック・外来生物編」も印刷所から届くのを待つばかりで、自慢のガイドブックの活用に向けて意気上がるナチュラリストの巳年最初のフィールド日記、蛇にまつわる四方山話にお付き合い下さい。

◎2025年お正月日記

かつては『今年もトリ年!』を新年のご挨拶としてきた鳥人ナチュラリストも、2008年度からは爬虫類派ナチュラリストを冠にしています。それまでもカメ類の調査結果を「日本カメ会議」などで発表を続けてきましたが、珍蛇御三家と呼ばれる幻の蛇たちの発見を機に「日本爬虫両棲類学会」での研究発表を年間最大行事としてきました。

それまで、鳥類標識調査員として京都府南部の市町村や主要フィールドの鳥類目録の作成をライフワークに、教育現場での環境学習指導や自然観察会・研修会などの啓蒙活動の成果を「日本鳥学会2007」で発表直後の11月末、よもやの心筋梗塞を発症して死の淵を覗きました。半年間のリハビリ生活で、フィールド復帰への希望となったのが指導する子供たちからのお見舞いの手紙と、当時南山城地方では生息記録も無かった珍蛇・シロマダラがお隣の枚方市で目撃されて調査依頼の朗報でした。宇治田原町の調査でタカチホヘビに続いてジムグリを発見し、「シロマダラも必ずや生息している!」と公言していただけに励みにもなった結末が、リハビリ最終日に持ち込まれた地元城陽市の木津川河川敷で見つかった巡り合わせの妙に、新聞報道されるやその日に和束町で生きたまま捕獲される奇跡の展開に、がぜん元気を得て今日の完全復活に至っています。

以後のイベントや環境学習指導の教材に自慢のヘビたちが加わり、先入観のない子供たちの眼に忌み嫌われるヘビも魅惑の生き物として映ることで、子供の頃に遊び心で散々殺してきたヘビやカエルたちへの蛮行の償いの供養となることを願っています。さて、巳年の今年はコロナ禍で久しくご無沙汰の日本爬虫両棲類学会大会での研究発表を目標に掲げましたが、台湾での他国開催とあって思案中です。元来お足には縁がない蛇マニアの貧乏ナチュラリスト、賞金総額3億円のツチノコ発見の願掛けを兼ねて京都東寺の21日の縁日・初弘法に再び弁財天の使徒とされる白蛇詣でで金運アップのご利益を祈念してきました。(写真①)

昨年は南山城村で撮影された白いタヌキの話題で始まりました。古来より白い生き物は神の使いとされ、元号の白雉や続日本書紀の白鼈の記載も珍しい白いキジとスッポンに由来するもので、時の帝に献上されたとあります。色素異常の突然変異個体の発生率は10万分の1や100万分の1といわれ、目立つことから外敵に捕食され生存率は天文学的な数字となります。また、白以外に黄色や青など様々な体色が現れ、宇治田原町では黄金のオタマジャクシに青いアマガエルが見つかっています。

自身も山城町で生まれた白いツバメに環境省の標識足環を装着した記録に、平安神宮の調査では黄金のスッポンを発見しました。その他、セグロセキレイやベニマシコなどの野鳥では、アルビノや部分白化と呼ばれる色素変異個体の確認は十指に余ります。これらふるさとのお宝生物を代表するヘビたちの記録をご覧下さい。

巳年の紅白のお守りは、白蛇と共にアカジムグリとの再会祈願のグッズです。幻の怪蛇・ツチノコ発見祈願の我が家の鏡餅は、アルビノ仕様の白ツチノコです。(写真②③) 水度神社では白蛇の絵馬に紅蛇祈願をし、荒見神社には「城陽環境パートナーシップ会議」の盟友たちとの寄せ書き絵馬を奉納しました。(写真④⑤) 荒見神社の青山浩然宮司さん(⑤左)は生き物にも造詣が深く、アナグマやキツネの情報からフクロウなど野鳥の保護でもお世話になっていて、一昨年にはゴキブリホイホイにかかったヒバカリを託され無事野外に放った美談を紙面報告しています。

ここ荒見神社では古くから白蛇が目撃されていて、『Kさんが白蛇を殺して気がふれた』などまことしやかな話も残っています。これまでにも、拝観者が白蛇を見られたと三度も連絡を頂きましたが、駆け付けたるも確認できない経緯があっていずれ出会えるものと楽しみにしています。スマホの時代、写真や動画で記録願いたいものです。そして昨年、青山宮司さんから驚きの情報をもらって今シーズン楽しみにしていることがあります。いつもの生き物談義の中で、『この前、青い蛇を初めて見ましたわ。』の発言には仰天しました。それこそ白蛇やアカジムグリにも勝るとも劣らない珍しいヤマカガシの青色型個体です。(写真⑥)

京都府での記録は皆無と思われるほど希少で、この写真は兵庫県姫路市の環境学習センターのレンジャーだった脇坂英弥氏によって撮影されたもので、蛇類研究の第一人者、日本爬虫両棲類学会の徳田龍弘先生のサイトで紹介されています。また、両生・爬虫類の著書数十冊に及ぶ川添宣広さんの「日本の爬虫類・両生類 生態図鑑」でも、兵庫県で撮影された青色型のヤマカガシの写真が掲載されています。毒蛇のヤマカガシは生体展示や飼育はできませんが、一時的な確保で京都府での生息の実証記録を残せることを願っています。

動物園やペットショップでも先ず見ることができないシロマダラとジムグリを、ハンドリングと呼ぶヘビに負担を与えないスキンシップの映像は筆者自慢のカットで、2010に発行された「城陽市生き物ハンドブック」の表紙を飾る写真の1枚に選定されています。(写真⑦) 元来生息個体数がごく少なく、爬虫類食のシロマダラに哺乳類食のジムグリは共に餌に付きにくく飼育が困難なこともあって、白蛇やアルビノビルマニシキヘビ(写真⑧)の生体展示がある日本蛇族学術研究所・ジャパンスネークセンターでさえ、タカチホヘビ共々珍蛇御三家はパネル解説だけでした。

かくして、爬虫類派ナチュラリストの啓蒙活動のイベントに欠かせないアイテムにヘビが加わり、スネークファッションもブレザーからベストにトレーナー・Tシャツ、バンダナにループタとチョウカーはオリジナルの特注品です。(写真⑨⑩⑪) シマヘビと共に手にしたカラスヘビは、シマヘビの黒化型個体で神聖な白蛇とは対極にあり、「さした指が腐る」ので指を靴で踏む厄払いのまじないもありました。カラスヘビは気が荒く、カミツキヘビや追っかけヘビと呼ばれ毒蛇とも思われていましたが、扱い次第ではこの通りそんなに危険な奴でもありません。

科学教室のなどのイベントでは、咬みついて離さないスッポン芸やカメの雌雄判別チンチン芸など、ともすれば動物愛護法に抵触する大受けパフォーマンスを披露していますが、蛇では「鼻ブラ蛇―」のとっておきネタがあります。(写真⑫) 仔蛇に鼻を咬ませてぶらぶら芸はさすがに女子供への披露は考えもの、R12指定でノリのいい中高生の授業においてのひとコマで、自分では撮れない貴重なカットが残っていました。

さて、先入観のない子供たちは、ヘビとのスキンシップで彼らを魅惑の生き物として受け入れ、笑顔のツーショットの感動の記録はかつて蛇蝎と忌み嫌われてきた生き物たちが冤罪を晴らした姿にも映ります。(写真⑬⑭) こうした差別や思い込みのない科学的なものの見方と、自身で考え価値判断ができるきっかけとなる体験となればと願っていて、教育現場の理科離れやいじめの問題の解決にも大きな糸口となるものと期待しています。

この20年間、母校の城陽市立・富野小学校では、地元で発見されたジムグリやシロマダラをはじめ、ヘビたちも教材としてたくさん持参してきました。4年生のみんなと計測したシマヘビが1m65cmあり、日本最大級であることが判明したことや、やはり2mもあるシマヘビの抜け殻が発見された時にも、日本爬虫両棲類学会での発表を前に「生き物クラブ」のみんなに披露しました。(写真⑮) 今でも語り草となっているのが、先生方の研修会のその日の朝にツバメの巣を襲って捕らえられたアオダイショウを持参し、腹のふくらみは飲み込まれて消化されていないツバメの…と解説の時、口から無残な現物が吐き出されて悲惨な状況になりました。

コロナ禍以降、そくな社会人講師として教育現場に招かれることもごく稀れとなり、母校の生き物クラブもついに消滅の憂き目です。昭和38年の5年生で創立90周年を迎えた生き物好きな少年が、昭和100年に孫世代の後輩たちへ故郷の生き物たちの変遷を伝える機会を無くしたことは誠に残念至極です。

巳年のヘビ語り、シーズンを前にこれからも雑多な蔵出しネタをお届け致します。