【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】

10月を迎え、地元が誇る「洛南タイムス」と「城南新報」の歴史と実績を引き継ぎ、『洛タイ新報』の船出を迎えました。多様化する情報社会の中、あらためて新聞の存在価値を知らしめる紙面の充実で、これからも多くの読者に支持される身近な情報紙として更なる発展を願っています。
地元の「城陽環境パートナーシップ会議」と「環境生物研究会」を活動母体に、南山城地方の野生生物と外来生物の生息状況を把握し、希少生物の保護と生息環境の保全を目的とした啓蒙活動をライフワークとするナチュラリストにとって、文献記事となる新聞報道は欠かせない資料となっています。これまで両紙で掲載いただいた幾多の報道記事は、日本鳥学会や日本爬虫両棲類学会といった学術会議での研究発表の際の配布資料や、京都環境フェスティバル・城陽市環境フォーラムなど、各種イベントで活用してきました。
木津川で天然記念物の淡水魚・イタセンパラの発見や日本一の大スッポンの捕獲、青いアマガエルに黄金のオタマジャクシ、瑞祥の霊亀・ミノガメに珍蛇タカチホヘビ・シロマダラの発見にオオタカの保護放鳥等々。過去30余年間にわたって数多くのフィールド成果を発信していただいたこれら郷土の環境資料たる記録は、今後も文献資料として調査・研究に役立ってくれることでしょう。
こうした責任の所在がはっきりとしていて、大衆の目を経た公的意義の大きいマスコミ報道は、公式資料として認められる条件を満たす反面、誤報や扱いによっては信用を失う結果を招くことにもなりかねません。かつて全国紙で報じられた希少鳥類の写真が、他所で撮られたものや飼い鳥であった顛末など、明るい話題が一転する報道には落胆させられました。また、それぞれの受け止め方がある野良猫たちに餌を与える心優しき人の話題など、報道側の扱いも注目されるところです。
紙面一新を機に、幾人もの方々から問い合わせや連載継続のエールをいただき、あらためてナチュラリストの本分である野鳥や自然保護に役立つ資料提供で貢献できることを願っている昨今です。『郷土の自然財産・野生生物の代弁者たれ!』との原点を想い起して、新しい読者の皆様にも身近な生き物をはじめ、希少生物や生態系を攪乱する外来生物の現状を知っていただくべく心新たに筆をとっています。
再スタートの自己紹介を兼ねてのフィールド日記は、ナチュラリストゆかりの生き物たちの写真で綴るフォトレポートをお届けします。フィールドでの宝探しにいざなう生き物たちの魅力の一端をお伝えできれば幸いです。

南山城地方のお宝生物たち

生き物たちの希少性は、天然記念物やレッドリストと呼ばれる絶滅指標のランク付けをした絶滅危惧種や要注目種などの指定に見ることができます。また、色素異常の突然変異個体や日本最大・最長など、先天的・後天的な要素による天文学的数値を射止めた奇跡の命をもつ生物の他、本来の生息分布や生息環境にない生き物たちにも当てはまります。
天然記念物の淡水魚では、1991年に城陽市の木津川でイタセンパラ(写真①)を発見しましたが、その昔に先代川漁師の父・中川朝清が木津川にもアユモドキが生息していることを発見し、当時の琵琶湖文化館の研究者を現地案内して確認してもらっています。父子二代、木津川でスッポン漁を行ってきましたが、2011年には甲長38・5㌢、体重7・3㌔の日本一の大物を捕獲し、水族館での展示後に博物館で学術標本となっています。(写真②)
また、スッポン漁の外道でも、1987年に旧山城町で86㌢のオオサンショウウオを引き揚げ、1999年には蓑亀と呼ばれる甲羅に緑毛が生えたカメを捕獲しました。(写真③) 中国では龍・鳳凰・麒麟と共に四大幻獣神と崇められる瑞祥の神亀で、甲羅の緑毛は天然記念物の阿寒湖のマリモの仲間であり、北海道で国際マリモ会議が開催された折に主催者からの要請で提供した標本が展示されています。
逆に漁具のモンドリを喰い破る被害甚大な歓迎されない外来生物のヌートリア(写真④上)も、まだまだ稀だった2000年当時は、外傷も無い溺死体は学術標本に最適であると国立科学博物館や京大総合博物館からの依頼に応えて屍を提供していました。今や木津川でも最優占種となったミドリガメが大きくなったミシシッピアカミミガメ(同右3個体)を初めて捕獲したのが昭和38年5月のことなど、後に日本爬虫両棲類学会の門を叩くカメの研究者にとって、幼少時代からの木津川詣では生涯の財産となる経験でした。
こうした木津川スッポン漁の副産物では、京都市の天然記念物・ミナミイシガメの捕獲確認による生息・繁殖の実証や、ブルーギル・ブラックバス(同左)の定着・繁殖に至る歴史の証人となっています。また、城陽市の今池川ではミナミイシガメとクサガメの交雑個体を、京都市ではミナミイシガメとニホンイシガメの交雑個体を発見し、関連学会で報告しています。レッドデータブックの調査に関連して招聘を受けた2000年の平安神宮の調査では、ミナミイシガメの生息と共にウンキュウと呼ばれる30㌢ものイシガメとクサガメの交雑個体に黄金のスッポンを引き揚げて話題となりました。
2008年からの南山城村の調査では、京都府では野生絶滅したと思われていたカワバタモロコを発見し、京都水族館で繁殖成功した個体が展示されています。同じく絶滅寸前種のホトケドジョウ(写真⑤)も捕獲確認し、現在もスジシマドジョウアカザや希少タナゴ類の生息調査を継続しています。
本来は鳥類研究者のナチュラリストも、宇治田原町の野生生物生息環境調査に携わった2005年度に珍蛇・タカチホヘビの発見を機に両生・爬虫類に目覚め、ジムグリ・シロマダラ(写真⑥下)の相次ぐ発見と、カスミサンショウウオやダルマガエル(同上)といった京都府の条例で希少野生生物に指定の絶滅寸前種の生息調査に奔走しています。また、宇治田原町でのタガメやゲンゴロウ調査が活かされ、南山城村で絶滅種のコガタノゲンゴロウ(写真⑦右上)を74年ぶりに再発見し、京都市の深泥池で18年前に記録が途絶え絶滅が危惧されていたヒメミズカマキリ(同左)や、夜久野町など京都府北部でしか生息記録のないマルガタゲンゴロウ(同右下)などの発見を果たしています。
ローカルナチュラリストの、ふるさとのお宝生物を巡るエピソードは尽きません。とりとめのない雑多な生き物たちの話題で綴る続編にご期待下さい。

【第283号・PDF版はこちらへ】