【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
両生・爬虫類派ナチュラリストが待ちに待った水温む季節の到来です。
本来は冬眠中の両生・爬虫類にあって、厳冬期に産卵するアカガエルの卵塊発見と、同じくこの時期が繁殖期の京都府の希少野生生物に指定されているカスミサンショウウオの生息確認を目的として正月明けからフィールド探査に励んできました。
やはりカスミサンショウウオはおいそれとは見つかりませんが、ニホンアカガエルの卵塊は2月の第一週に城陽市と宇治田原町で発見するや、宇治市から南山城村に至る南山城地方全域で2月半ばまでに産卵を確認しました。また、近似種のヤマアカガエルでは3週間ほど遅く繁殖することも分かりました。引き続いては、昨年3月に井手町の大正池で卵塊を見つけたヒキガエルの繁殖確認に努めていますが、メイン調査地の大正池周辺へは通行止めの憂き目に肩を落としています。
爬虫類では、トカゲに次いで冬眠明けのシマヘビとも再会し、昨年の日本最大級165㌢を上回る大物の捕獲に期待しています。また、今年も岐阜大学で繁殖実験を行うスッポンの供給の依頼に応えて、こちらも日本一の大スッポン捕獲のリベンジを果たしたいと願っています。今年も宇治田原町で5年連続となる黄金のオタマジャクシの前代未聞の記録や、憧れの白蛇との出合いを夢見て本格的なシーズンの幕開けに気力充実の昨今です。
かつての鳥人ナチュラリストも、爬虫類への宗旨替えもあって日本鳥学会大会での研究発表の題材も途絶えて三年が経ちました。もはや鳥類分野では、ライフワークの南山城鳥類目録改訂に関しての継続調査以外に新たな課題もみつからず、台頭する後継者のサポート役として気楽なバードウォッチングを楽しんでいましたが、思わぬ珍鳥の発見で久しぶりに鳥仲間たちとホットで楽しい調査を行うことができました。
年度末を迎えた区切りの活動報告に先だって、充実のフィールド日記からナチュラリスト自慢の仲間たちとの最新活動報告の機会としています。野鳥との出合いが人の環を拡げ、尊敬する先生方に信頼できる仲間たちや多くの理解者に支えられ、チュラリストの本分を果たすべく希少野生生物と生息環境保全の啓蒙活動に携わってもう40年目にさしかかろうとしています。卒業式シーズンの3月、天から見守っていてくれる恩師を偲びながら綴る元気なロートルナチュラリストのフォトレポートにお付き合い下さい。
◎ナチュラリストの仲間たち
一部既報のとおり、「城陽生きもの調査隊」の活動拠点・くぬぎ村の定点カメラに、全世界でも生息数が千羽に満たないとされる大変貴重なミゾゴイの姿が昨年の春に一ヶ月にわたって記録されました。(写真①) そして、筆者が写真鑑定を受けた時には時期すでに遅く、来シーズンへの持ち越し課題となりました。
そして迎えた今年、「城陽パートナーシップ会議」の自然観察会のWメイン講師を務める鳥類学者の脇坂英弥君と野鳥の識別能力では随一の岡井勇樹君(写真②右)を中心に、管理者の田部富男さん(同右2)に竹内康先生(写真③中)・岡井昭憲先生(同右)たちと調査を始めました。先ずは繁殖の可能性を求めての古巣の探索調査では、平日もアカガエルの卵塊探しに同行の熱心なジュニアメンバー・松井優樹君(写真④)もひと役かってくれました。
1月27日には鳥類標識調査の実施と自然観察会を開催して、くぬぎ村の豊かな自然環境を次代に引き継ぐことの重要性をアピールしました。その日の夕刻には、前日に優樹君と宇治田原町でのアカガエルの卵塊調査の折に発見したやはり全国的に希少なアオシギの追認調査に赴き、みんなでその姿を確認することができました。
宇治田原町は、巨椋池干拓田と木津川河川敷と共に鳥類標識調査の主要フィールドとして環境省に登録の筆者ゆかりの地です。自慢の愛弟子・脇坂英弥君が、くぬぎ村と共に鳥類標識調査の実施で得られる公式な記録の積み重ねは、願ってもない郷土の環境資料です。
残念ながら、今回はお目当てのアオシギの捕獲標識は叶いませんでしたが、カワセミやオシドリなどを間近で見ていただく機会となりました。
脇坂君は、環境省から支給されているカスミ網の他、猟師の藤林治雄さん(写真⑤左2)から無双網を披露していただいて鳥類標識調査における捕獲対象種の幅を拡げようと考えています。もう15年も前、宇治田原町のレッドデータブック作成のため、野生生物の生息調査に奔走していた筆者の元に藤林さんからモグラ捕獲の情報が入り、脇坂君と現夫人の啓子さん(同右)と共に確認に訪れ顎の形状からアズマモグラ(写真⑥)の発見に至りました。
京都府初と思いきや、美山町で生息記録があってやや残念も、南山城地方にも知られざる野生生物がいることの実証例となった経験は、やはり東日本に生息するアズマヒキガエル(写真⑦)の発見につながり、昨年にはアズマヒキガエルと共にニホンヒキガエルとのハイブリッドの存在が京大でのDNA鑑定によって判明しています。
その当時、もう30年来生息が途絶えていたクロゲンゴロウを脇坂君が発見し、やはり幻になりつつあったゲンゴロウの幼虫も姫路市立水族館からお墨付きを得て、宇治田原町のレッドデータブックに貢献しています。やはりこの時の経験が役立ち、2009年には南山城村の野生生物生息調査において、絶滅種のコガタノゲンゴロウに代表される希少な水生昆虫を脇坂夫妻や竹内先生たちと見つけています。
そして昨年来、宇治田原町と南山城村に隣接する和束町で野生生物の生息調査を始めました。鳥類標識調査を取り入れ、両町で記録のある鳥や生き物たちの確認作業は、不動のナチュラリスト仲間たちとの歴史の繰り返しです。小学校4年生になる松井優樹君(写真⑧)の参加は、やはり小学校低学年の頃からお父さんの岡井昭憲先生と共に自然観察会に参加し、ケリやコアジサシの調査で貴重な戦力として活躍していた勇樹君に重なります。
和束町の自然観察会では、やはり20余年来のナチュラリスト仲間である山村元秀先生(写真⑨)が植物担当の講師として参加いただいています。利害関係のない自然と生き物たちへの想いを同じくする世代や立場を超えた人たちの協力を得て、まだまだ自分にしかできない成果を残さなければと考える春到来です。新年度の夏同姓化にご期待下さい。
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