【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
令和元年の暮れも押し迫った12月の半ば、地元城陽市の市民の方々からサギよりも大きい白い謎の鳥の情報や問い合わせが市役所に相次いで寄せられました。ひょっとしてコウノトリでは?と、城陽環境パートナーシップ会議の環境課事務局も期待を胸に周辺部を探しましたがその時は見つかりませんでした。
そして22日の早朝、野鳥調査グループの鳥垣咲子さんによって発見!の報告をもらって現地に駆け付け、まちがいなくコウノトリであることを確認しました。この時は標識の足環を特定することはできませんでしたが、同じく調査グループの西尾長太郎さんか撮影された写真と追跡調査によって、右脚には上下に黄色と黒、左脚には黄色と青のリングの組み合わせであることが分かりました。
コウノトリに装着された標識足環により、福井県で放鳥された個体番号 J0205の♀であり、愛称を「ひかり」ちゃんということが分かりました。2018年5月10日に福井県越前市湯谷町の研究施設で生まれ、同年9月17日に同所にて放鳥されました。両足への観察用標識足環と共に、GPS発信機を背中の羽根に装着されています。発信機は、野鳥の生活に負担のない大きさ・重量で、換羽と称する羽毛の生え変わりの時期に自然と落下します。こうして、放鳥したその年生まれの若鳥の移動と生存率のデータを得ています。
ひかりちゃんは、10月に三重県多気郡明和町に飛来し、11月には愛知県日進市に飛来、以後は千葉県館山市に長期滞在し、地元で大歓迎を受けていた記録などが福井県のホームページに掲載されていて、コウノトリの郷公園への報告を経て、早速、城陽市への飛来が掲載されています。かつて野生絶滅したコウノトリの最後の生息地が兵庫県豊岡市であり、この地での保護増殖の取り組みが実を結び、野生復活を果たしてから15年が経ちました。
兵庫県の県鳥としても知られていますが、今回のひかりちゃんのふるさと・福井県も、豊岡市と共に1971年に最後の1羽が保護されたゆかりの地で、現在のツグミに改めるまで、コウノトリが福井県鳥でした。飼育下の雛鳥放鳥と同じく、野外で自然繁殖した雛鳥にも巣立ち前に標識足環が装着されます。また、日本にもう一ヵ所ある千葉県野田市のコウノトリの研究施設では、生息環境に順応させてから野生復帰させる「ソフトリリース」を行っているとのことです。
これまで京都府南部では、巨椋池干拓田に飛来した宇治市と久御山町の記録の他、京田辺市と木津川市でのみコウノトリが記録されていて、今回の城陽市は府内で16番目の自治体記録となりました。尚、2年前の5月に、生き物調査の協力者でもある城陽市議会議員の本城隆志さんから、2羽のコウノトリが自宅の近くの水田に飛来している!との情報を得ましたが、確認に赴くも目的を果たせず、写真も撮られていなかったことから公式記録を逸していた背景がありました。
今回の記録により、城陽環境パートナーシップ会議が誇る『城陽生き物ハンドブック』の鳥類目録にも、胸を張って209種類目に追加を記すことができます。国の特別天然記念物にして国際希少鳥類のコウノトリの飛来で、城陽市鳥類目録における一過性の「迷鳥」から、冬越しをして「冬鳥」への昇格記載へ、更には定着して「留鳥」の仲間入りを果たし、将来的には繁殖地となる可能性の第一歩が記され夢が拡がります。
一度は日本の空から消え去ったコウノトリが野生復帰を果たし、今またいにしえの福を呼ぶ瑞祥の鳥の生息に由来するふるさと城陽市の「鴻ノ巣山」に、悠久の時を経て巣が架けられ新たな生命の誕生が期待される令和元年年末の朗報です。
コウノトリの郷公園にゆかりが深い鳥類学者で城陽環境PS会議のアドバイザーの脇坂英弥君に、今後の動向を見守り、詳細報告を託しますが、今回は縁起の良い年越しのクリスマスプレゼント・待ちに待った福鳥飛来の朗報の緊急報告です。文化パルク城陽からアルプラザにかけての水田地帯と、西部の古川・木津川辺りでも観察されているマドンナ鳥のホットな情報が年を越しても途絶えることのないよう願っています。
城陽環境PS会議に寄贈された野鳥カメラマンの山中十郎さんの秀作と、地元の野鳥133種類目をゲットされた野鳥調査の記録員・西尾長太郎さんの足環が読み取れるスクープ写真で綴るコウノトリ・フォトレポートをお楽しみ下さい。この一年間、ご愛読ありがとうございました。良いお年をお迎えください。

【写真説明】
①優雅なコウノトリの飛翔。松に鶴は、樹に巣を架けるコウノトリで、ツルは地面に巣を創る
②城陽市に飛来したコウノトリ。水田を餌場としている
③電柱や鉄塔などの高所が休息場となっている
④足環が確認できた! 昨年に福井県で生まれた♀のひかりちゃんと判明。12月25日現在、ほぼ毎日鑑札されている
⑤背中にGPS発信機が装着されているのが見える
⑥コウノトリはダイサギより大きく、翼の先が黒い
⑦日本最大のサギ・アオサギと比べてもコウノトリの大きさが分かる
⑧滋賀県塩津で確認されたコウノトリ6羽の小群。大食漢の彼らは、餌が豊富な自然環境豊かな所でしか生息できない

【第299号・PDF版はこちらへ】