【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
昨年の12月半ば、ふるさと城陽市に舞い降りた瑞祥の福鳥・コウノトリの朗報は、爬虫類派を冠とするナチュラリストを鳥類研究の道に引き戻し、冬眠生活返上の追跡調査で自身でも満足のいく越冬生態の記録を残すことができました。野生絶滅したコウノトリの自然復帰から15年目、愛鳥家ならずとも見ることもままならない希少で優雅な縁起鳥の定着は、悠久の時を経て繁殖に至る可能性を秘めた万人の願いです。
希少野生生物の保護とその生息環境の保全の啓蒙活動をライフワークとするナチュラリストにとって、未来に託す夢多き郷土の環境資料の作成で貢献できることは実に光栄なことです。早速、「城陽環境パートナーシップ会議」を中心とする調査仲間の連携で、日々コウノトリの活動状況の把握に努め、情報の収集に奔走しました。
そして、マスコミ報道された記事は、後々まで文献資料となりうる公的な記録であり、その内容の精度と貴重性も問われるところです。先ずは城陽市役所環境課を通じて、コウノトリの個体識別ができる標識足環の写真を添え、福井県で放鳥された愛称・ひかりちゃんの飛来報告をマスコミ各社に報じていただきました。こうしてたくさんの人たちに見守られ、観察者のマナーも保たれ地権者の理解もあって今回の長期滞在の伏線となっています。また。マスコミへのリークと共に、当連載における12月のコウノトリ飛来報告と1月末の調査中間報告の紙面を資料配布し、幸運な福鳥の飛来をアピールして希少鳥類保護の理解の環を拡げるべく活用しています。
餌の乏しい季節を城陽市で過ごしたコウノトリも、フィールドが賑わう生命の春を迎える頃には飛び去ってしまうことでしょう。それでも、再び飛来してやがては定着に至る可能性に期待する鳥人ナチュラリストにとって、リアルタイム・一日一日の越冬生態の記録は、今後に活かされる資料であるとの想いで調査を続けてきました。
またその間も、コウノトリが数羽飛来していて繁殖も期待される亀岡市への視察に赴き、兵庫県立人と自然の博物館へ足を運ぶなど、厳冬期をホットな想いで過ごした立春明けの2月11日、待望の「コウノトリ観察会」を開催して報告会とする予定でいました。果たして、2月8日を最後に和歌山県まで飛び去ったことがGPSの記録から判明し、2ヶ月にわたるひかりちゃんフィーバーも終焉の時を迎えました。
全国的にも特異なコウノトリの越冬の記録を残すべく、城陽環境PS会議でホームページの作成など次なるステップへのその最中、なんと2月17日に和歌山県から戻ってきました! たった一日、ゆかりの調査メンバーたちに挨拶に立ち寄り、お気に入りの田んぼでゆっくりと眠りについて、翌日には滋賀県を経由して三重県鳥羽市にまで飛来しています。時に夜明けから深夜まで、誰よりもひかりちゃんを観続けたロートルナチュラリストに、まだまだ元気でこれからも見守って下さいとのメッセージを贈られたものと受け止め、ふるさと城陽市での再会を期待している春待ち人です。
語り尽せないコウノトリ物語、貴重な動画や生態写真もたくさん提供を受けています。今回、ひかりちゃんをめぐる人たちと滞在記録・エピソード1をお届けします。

◎活動報告・フォトアルバム

12月半ば、城陽市役所環境課にも市民の方々からコウノトリの目撃情報や問い合わせが相次ぎ、城陽パートナーシップ会議で確認調査に乗り出しました。様々な情報が交差する中、木津川市在住のバードウォッチャー・門田由香里さんが文化パルク城陽の近くの田んぼで発見された12月15日を「初認日」として公表しましたが、後にGPSの記録によって12月9日に城陽市に飛来したことが分かりました。
我々の調査グループでは、21日の早朝に鳥垣咲子さんがやはり文化パルク城陽東側の田んぼで発見し、まちがいなくコウノトリであることを確認しました。通過の際の一時的な滞在であっても、2005年に絶滅から野生復活を遂げた国家プロジェクトの希少鳥類の貴重な確認記録は、広く情報提供が求められています。
大陸から飛来した野生個体でない限り、野外で繁殖したコウノトリにも個体識別用のカラーリングの標識足環が装着されています。それでも、警戒心が強いコウノトリの足環確認は、高倍率の望遠鏡をもってしても容易なことではありません。そんな中、西尾長太郎さんによって撮影された一枚の写真から、個体を特定することができ様々なことが分かってきました。(写真①)
右脚には上下に黄色と青、左脚には黄色と黒のリングの組み合わせから、2018年5月10日生まれの個体番号J0205・愛称「ひかり」の♀で、9月17日に福井県越前市で放鳥された若鳥であることが判明しました。速報では、越前市湯谷町の研究施設で生まれ、同所にて放鳥されたとしていますが、生まれ育った飼育施設は越前市中野町とのことで改めています。背中に見えるGPSの発信機の記録からは、放鳥後11日目の9月28日、滋賀県長浜市を9時に飛び立ち、大津市・宇治市を経て12時41分には城陽市を通過し、その後も京田辺市から奈良県生駒市を経て、大阪府を南下して和歌山県境19時までの大移動が記録されています。
コウノトリは繁殖年齢の3歳を迎えるまでこうした移動を繰り返し、一日500㌘もの動物食の餌を必要とする大食漢の彼らが、子育てするに十分な環境が整っている地を選んで定着・繁殖に至ります。全国的にもごく限られた地域でしか繁殖していないコウノトリが、京都府でも京丹後市で繁殖確認されたことから、京都府のレッドデータブックでも2015年の改訂版より「絶滅危惧種」に掲載され、情報の提供が求められています。
2005年9月24日、兵庫県豊岡市のコウノトリの郷公園で5羽が自然界に放たれて以来、「南山城鳥類目録」の編者である筆者には初飛来確認の課題が架せられ、市町村やフィールド別鳥類目録にコウノトリの記載が追加される日を楽しみにしていました。これまでにも、京田辺市と地元城陽市で目撃情報を受けるも、既に飛び去って確認に至らず、写真もなくコウノトリの正式な記録を逸する残念なエピソードを当紙面でも報告していました。
コウノトリの郷公園では、野外の個体の目撃情報や飛来市町村が紹介されていて、今回の城陽市は京都府内16番目の自治体記録となっています。(写真②③④) 南山城地方では、宇治市と京田辺市に、木津川市・久御山町もコウノトリの飛来地に追加されていますが、見ることも困難だったこれら一過性の記録に対して、個体識別がなされ、餌の乏しい厳冬期に2ヶ月間も滞在していた城陽市のひかりちゃんの記録は、いかに得意で貴重であるかがお分かりいただけることでしょう。
当初は広範囲に飛び回っていたひかりちゃんも、正月を前にネグラや採餌場所もある程度限られ、このまま居続けてくれるのではないかと思うほど風景にとけこんだ身近な存在になり調査もはかどりました。城陽市のシンボル・文化パルク城陽を背景に、第2名神高速道路の建設工事が進む隣接の水田で餌を採るコウノトリのひかりちゃん。(写真⑤) 電車の通過も意に介さず、田んぼ一枚を隔ててゆっくり観察できるなど、他では考えられない幸運なことです。(写真⑥) 以下次号。

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