【第304号】新たな扉を開く…城陽コウノトリ物語・終章

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【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
希少野生生物の保護とその生息環境の保全を願って活動するナチュラリストの原点は、木津川最後の川漁師と称された父・中川朝清との少年期の体験に始まり、北海道の「ムツゴロウ動物王国」で畑正憲先生の下で学んだ経験が、後の鳥類研究や現在の両生・爬虫類の調査・研究に活かされ、広く環境問題を考える基盤となっています。
生き物好きのナチュラリストといえど、こうした調査・研究の成果も私利私欲に走ればいわゆるマニアの世界です。一昨年の「日本爬虫両棲類学会大会」の席上、マスコミに取り上げられている希少野生生物を捕獲して高額な値段で売買している専門学校の講師や、さも研究機関や学術団体の如く思わせる動物輸入業者の実態が問題提起されていました。「絶滅の危機に瀕する幻の生物発見!…10万円也!」の放映が、感性豊かな子供たちをマニアにいざなうことのないよう願うばかりです。
さて、ナチュラリストにとっての楽しみのひとつが、生き物好きなエコキッズや若き研究者たちの成長を見守ることであり、自身がたくさんの人たちからの応援を受け、師と仰ぐ先生たちに朗報を届けるべく頑張れた経緯もあって、自然観察会や研修会の開催には特に積極的に携わってきました。未だ絶えないメジロなどの野鳥を違法飼育する人やドバトに餌を与える人たちは論外としても、生態系の攪乱や農業被害著しい外来生物や有害鳥獣の駆除に異議を申し立て、果ては学術調査の標識足環やマイクロチップ・GPSの装着にも「可哀そう」との理由で反対する愛護論者も、科学の眼で生態系と保護を考える真の愛鳥家となって欲しいものです。
今回飛来したコウノトリも、瑞祥の福鳥と呼ばれた絶滅鳥が野生復帰を果たしたプロセスに、個体識別の標識足環から分かった一昨年に福井県で生まれた♀の「ひかりちゃん」。そしてGPS発信記録からは驚嘆の飛来ルートが判明するなど、年明けをはさんで城陽市から新鮮で明るいふるさとの鳥情報を発信することができました。
そしていよいよコウノトリの繁殖期を迎え、厳冬期を城陽市で過ごしたひかりちゃんも、来るべき嫁ぎ先を求めて大移動の旅に出ました。時系列のひかりちゃん日記も、再飛来の2月18日に京田辺市草内の池で採餌後の11時、空高く舞い上がって飛び去るのを見送り鳥人ナチュラリストのコウノトリ調査も終焉の時を迎えました。
そうした中、4日後の2月22日に2羽のコウノトリ目撃情報が相次ぎ、ひかりちゃんがお相手を連れて戻ってきたものと胸を躍らせました。果たして、今度は昨年に徳島県鳴門市で野外繁殖した藍ちゃん姉妹?と判りました。さらに3月1日と2日にも目撃情報が届くに至って、ひかりちゃんの飛来が一過性の記録ではなく、これからも優雅で縁起の良いコウノトリが観察される可能性を物語るものです。
城陽環境パートナーシップ会議では、絵はがきの増刷と生き物ハンドブックDVD改訂版の作成に、早くも6月27日の総会後のフォーラムを「コウノトリ特集」とすることが決まりました。調査協力者の方々から提供を受けた貴重な記録写真と共に、お気に入りのキャッチコピー「希望の光・幸の鳥物語」最終章をお届けします。

◎フォトアルバム

先ずは2月23日に撮った城陽警察署とマクドナルドの上空を舞う2羽の鳥の写真をご覧ください。(写真①②) コンパクトカメラで撮影した記録写真ですが、紛れもなくコウノトリであることがお分かりいただけるでしょう。かつて全国紙で報道された野鳥写真家のスクープ記事が、後に撮影地を偽ったねつ造と発覚したこともあり、こうしたフィールド調査に於ける記録では、たとえささいなことであっても公式資料となる条件を充たすべく心掛けてきました
今さらながら、この時たまたま自転車で通りがかって一緒に観察した文化パルク城陽近くにお住いのお母さん、遠藤さんをフィールドノートに現認者として記しています。そんな配慮も、京田辺市の中学生バードウォッチャー・福井惇一君(写真③)のお手柄で報われています。前回観察に訪れるも見られず、ひかりちゃん再飛来の新聞報道もあって訪れた福井君は、コウノトリが2羽鉄塔にいるのを確認しコンパクトカメラで撮影しました。
2羽の記録を留めた福井君は、望遠鏡越しに足環の撮影を試みています。これらのことを、城陽市役所環境課にfaxで送ってくれましたが、土曜日のことで当方に知らされたのは月曜日のことでした。また、別に2件の情報と問い合わせがあり、半信半疑でいた22日に鳥仲間から筆者の連絡先を聴いたと本人からも連絡があり、幸運な写真撮影につながりました。
その後、岡井昭憲先生(同左)たちと合流し、一緒に足環の検索をして昨年に徳島県鳴門市で巣立った♀の愛ちゃん(写真④右脚黄・青、左脚緑・青)だろうとの結論に達しました。お連れは姉妹の和ちゃんと思われます。こちらは野外繁殖個体でGPSは取り付けられていませんが、その2日前までの鳴門市での画像がYouTubeにアップされていて、足環装着時のシーンまでも観られ感激しました。
6月の「コウノトリフォーラム」で、将来が楽しみなジュニアバードウォッチャーからの報告を要請いたしますので楽しみにしていて下さい。同じく、今回の調査にご協力いだいた田中義則さんも貴重な記録写真共々紹介したいと考えております。田中さんのひかりちゃんミニアルバムでシリーズコウノトリ報告の締め飾りです。【写真説明】⑤近鉄・しまかぜと ⑥ザリガニ捕食! ⑦焚火も意に介さず ⑧ハウス内も餌場に
ありがとうひかりちゃん。すぐまた緊急報告ができるのを期待し、爬虫類派ナチュラリストの冬眠明け活動報告でも幸運な発見があることを願っています。

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