【第324号】コロナ禍の師走、福鳥再来を期待して

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【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】

今年も一年を振り返る師走を迎え、未曾有のコロナ禍に翻弄された2020年は、東京オリンピックの中止に代表される文明社会の停滞から崩壊を招く不吉な予兆となって、コレラやペスト、スペイン風邪といったかつての感染症の教訓を活かした防衛対策と祈願の特効薬開発も新年へ持ち越しです。人類の英知が、マスクを必要としないかつての日常生活を取り戻し、2021年の漢字と流行語大賞に、再び歓びの「密」がノミネートされる明るい新年を迎えられることを願っています。
さて、ナチュラリストにとっても苦い想いのコロナ年でしたが、あらためてフィールドや啓蒙活動を考える機会となり、マイナス要因ばかりではなかったことを実感しています。例年12月には「京都環境フェスティバル」が開催され、活動母体の「城陽環境パートナーシップ会議」に於ける年間活動成果の発表の場と位置付けていましたが、やはりコロナ禍の影響で9年目にして中断の憂き目です。
所属する学会の全国大会も同様で、今年ばかりは公に発表する機会を逃したナチュラリストですが、城陽環境PS会議主催の「第19回城陽市環境フォーラム」をリモート発信ながらも無事開催できたことは何よりでした。全国的にも稀なコウノトリの越冬生態の記録を、環境人間学博士の脇坂英弥君が城陽市の自然環境に則して解説し、希少生物たちの生息記録と共に郷土の公的資料として残す機会を得たことで来年度に向けての活動にも光明が見えてきました。
脇坂英弥君とは、1999年度の日本鳥学会大会で発表した「南山城鳥類目録」を30年間にわたって追補・改訂を重ねて、現在は公的機関から京都府南部域の鳥類の生息状況と記録の報告を託される研究者として、「城陽生き物ハンドブック2010」の制作時からのアドバイザーとしても携わってくれています。今年も、野生生物の生息調査が一段落した和束町の鳥類目録の完成とガイドブックの草案に、新たな調査協力を求められた巨椋池干拓田に隣接する宇治川河川敷・源内の鳥類調査で大忙しの師走を過ごしています。
昨年の同時期に飛来したコウノトリ・ひかりちゃんが、今シーズンも厳しい季節を過ごす越冬場所に城陽の地を選んでくれることを願って、爬虫類派ナチュラリストもこの時期は第一発見者をめざして毎日がバードデーの昨今です。今回、自慢の愛弟子・脇坂君たちとのフィールドからのハッピー野鳥情報の発信です。瑞祥の福鳥・コウノトリ再飛来!の朗報の呼び水となることを願ってのフォトレポートにお付き合い下さい。

◎フィールドからのホットニュース

今年最後にして唯一の公的イベント「第19回城陽市環境フォーラム」で、脇坂英弥君(写真①左)が『コウノトリが教えてくれた城陽市の生物多様性』と題したリモート講演を行い、永年にわたってフィールド活動の成果を発表してきた「環境生物研究会」の年度報告を途絶えることなく郷土の環境資料として残せたことは何よりでした。ライブ発信された環境フォーラムのもようは城陽市の公式チャンネルで見ることができ、米田あゆみさん(写真②中)の名司会によって華が添えられた脇坂英弥君の講演をいま一度ご覧いただきたいものです。
参加人数制限の中、絵はがきとなった話題の秀作「水鏡」(写真③)の撮影者・田部富男さん(同右)の参加がありました。「城陽生きもの調査隊」のくぬぎ村の管理をされている田部さんからは、監視カメラに映った世界的な珍鳥・ミゾゴイや、環境省の足環を装着した冬鳥のシロハラが再び戻ってきたスクープ情報をいただいき当紙面でも紹介しています。ネイチャーカメラマンの田部さんには、和束町の生き物ガイドブックなどにも活用できる写真の提供もお願いしています。
今年、生き物調査の区切りを迎えた和束町では、新種の淡水魚・ナガレカマツカや絶滅寸前種のコキクガシラコウモリの発見などで期待に応えられましたが、野鳥分野でも胸を張れる成果を得ています。絶滅危惧種のオオタカやヤマセミなど、レッドリストに記載されている和束町の希少鳥類たちの観察記録は折にふれ報告してきましたが、環境省の標識足環を装着し、渡りや移動、年齢といった野鳥保護に欠かせない基礎データの収集と、地域や特定種の調査・研究の為の「鳥類標識調査」も実施しています。
捕獲確認した野鳥の詳細記録を、環境省と山階鳥類研究所に報告するバンディングと呼ばれる調査は、視認観察を補う公的意義を有するものです。和束町で3年目を迎える今年、冬鳥のアオジ(写真④撮影・Y山中十郎氏)が昨年に続いて再捕獲されたリターン記録は、小さな渡り鳥が2000㌔?もの旅をして再びかの地に戻る生命の営みを教えてくれたバードマン冥利に尽きるロマンです。
また、野外観察では記録できなかったノゴマ(写真⑤Y)なども捕獲確認でき、レンタカーで京都市内から早朝5時には調査地に駆けつける脇坂英弥君の熱意が天に通じました。11月で調査を終える予定のこの日、和束町教育委員会町史編さん室の尾野和広先生(写真⑥右)も現地視察に来られ、放鳥にも立ち会っていただきました。(写真⑦)
11月21日の環境フォーラムを終えるやいなや、脇坂君と新調査地の宇治川・源内に直行し、翌日からの鳥類標識調査の準備に入りました。和束町からの主要メンバー、岡井昭憲先生と共にジュニアメンバーの福井惇一君と松井優樹君も標識調査に学んで貴重な戦力に育っています。(写真⑧) 現地で希少猛禽類のオオタカやハヤブサなどと共に、岡井先生がアリスイ(写真⑨Y)を発見して次回のメインターゲットとしています。
今回、龍谷大学を退官された植物学者の土屋和三先生(写真⑩中)が、希少植物を発見された区域の保全の為に、鳥類や野生生物のリストなどの情報提供の要請を受けたことに端を発し、当地でオグラヌマガイやイケチョウガイといった絶滅したと考えられている淡水貝の発見と希少生物の生息確認を目的とするナチュラリストの思わくが合致しての新プロジェクトの始動です。畑違いの土屋先生とは、アホウドリの長谷川博先生や日本爬虫両棲類学会元会長の疋田努先生など共通の知人も多く、1990年にオオタカ問題で揺れる関西学研都市開発予定地に於いて、筆者がトキソウ・サギソウにモウセンゴケの群生を見つけてマスコミ報道でお世話になって以来の交流が続いています。
12月6日のこの日、案内された植物は名前も覚えきれませんでしたが、狙いどおりのアリスイにホオアカなどレッドリストの希少鳥類たちの標識に立ち会ってもらえました。師走の寒風とコロナ鬱を吹き飛ばす、フィールドからのホットニュースはまだまだ続きます。

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