【第328号】ネガティブ・下り超特急 歯止め祈願!

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【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】

京都府に緊急事態宣言が発令され、日々猛威をふるう新型コロナウィルスの報道に眉をひそめながら、単独・時短のフィールド探査でストレス解消…とまでは到底いかない不完全燃焼の生活を送っています。厳冬期でなければ、木津川詣での快適な疲労感が平穏な日常のバロメーターとなっていますが、念願のコウノトリ・ひかりちゃんの再飛来も期待薄となりつつあるこの時期、車でのフィールド巡りも単なる習慣となって感動を得られる成果も全くない寂しい状況です。
かつては、今日はどんな鳥との出会いや発見があるのかと、ワクワクしながら野鳥観察を続けていたバードウォッチャーが、日々の小さな変化も記録することで様々な疑問や課題に向き合うようになり、フィールド調査に目覚めて野鳥から野生動物全般へと興味が拡がりました。これまでの研究成果も、決して義務や仕事では成し得ないと豪語してきたナチュラリストですが、そこには明確な目標があり、可能性を信じてフィールド探査を楽しむポジティブ思考の背景がありました。
そして現在、ロートルの自覚もなく、まだまだフィールドの夢を追い求め、自然保護に役立つ郷土の環境資料を後世に残す使命感に燃え、自然観察会も野鳥保護や生息環境保全の啓蒙活動の柱と位置付けているナチュラリストにとって、コロナ禍に於ける全てのイベント中止はネガティブ路線へ一直線の下り超特急です。フィールド探査と共に、列車の旅とミュージアム巡りの趣味を超えた生き甲斐も制約を受けて一年間、空元気のシュプレヒコールもだんだんと色あせてきました。
それでも何とか、インドア・ライフワークの野鳥や生き物たちの情報から、緊急事態宣言下の重苦しい生活にも憩いのひと時を過ごしています。今回も、希少生物に関する話題から、取り留めのない生き物四方山話にお付き合い下さい。

◎野鳥ギャラリー

今年の初詣では、正月3日に京田辺市草内の咋岡(くいおか)神社に参拝しました。(写真①)田園地帯の社寺林は、一年を通して野鳥たちの貴重な生活の場となっていて、周辺一帯は自然観察会も開催される優れた探鳥地として知られています。当地をフィールドに熱心な野鳥観察を続ける福井惇一君(同右)は、今年も早速、絶滅危惧種・クイナの越冬場所を見つけて京都府初となる標識記録への期待が高まっています。
そんな鳥類標識調査も自粛勧告の緊急事態宣言で中止となった「城陽環境パートナーシップ会議」主催の「古川自然観察会」で、参加者に進呈予定だった資料と絵はがきをご覧下さい。富士鷹なすびさんのイラスト、城陽市の鳥・白鷺が表紙を飾る冊子には、澤江里恵子さん撮影のタウナギを捕食するコウノトリ・ひかりちゃんの写真を掲載しています。(写真②) 絵はがきには、山中十郎さんライブラリーからチョウゲンボウにカワセミ、ケリといった古川フィールドゆかりの野鳥たちを選定しましたが、笑顔の返礼が遠ざかる結果となって誠に残念です。(写真③)
さて、毎回好評の野鳥写真ですが、前回の山中さんのタンチョウもお正月に最適と喜んでいただきました。そこであらためての作品をお届けします。解説さえ必要としないこれらの秀作は、前号で紹介したカレンダー・ワイルドライフに優るとも劣らない芸術写真であることがお分かりいただけることでしょう。(写真④~⑥)
今やネット検索でこれら野鳥の写真や解説も手軽に見ることができますが、間違いも多々あります。タンチョウでも、「日本の固有種」との記載が見受けられますが、学名が「日本の鶴」であるタンチョウも、ロシアから中国・朝鮮半島に生息しています。また、「ニッポニアニッポン」の学名を持つトキ(写真⑦)も、日本産の野生個体絶滅後に、大陸産個体の人工飼育で野生復活を果たしています。
ひかりちゃんもトキと同様、ロシア産のコウノトリの日本育ちの祖先がルーツです。これら特別天然記念物の希少鳥類たちは、日本だけに生息・繁殖する固有種ではありません。城陽市青谷「くぬぎ村」の定点カメラに2羽が映って話題となった世界に1000羽しかいないと云われる大珍鳥・ミゾゴイ(写真⑧)では、夏鳥として日本に飛来する渡り鳥で、現在日本でしか繁殖確認されていない準固有種との表現も見られました。
そして最近、相次いで『ヒヨドリが日本の固有種ですか?』との問い合わせや間違いの指摘の報告がありました。その出展先はともかくも、日本の鳥類の固有種は11種類が知られています。奄美のルリカケス(写真⑨)や沖縄のヤンバルクイナ、小笠原のメグロなど限られた島の固有種が多く、本土ではキジやヤマドリにアオゲラ、最も身近なところではセグロセキレイがいます。また、亜種レベルで区分された固有種には、ニホンイヌワシなどもあります。
一年中見られるヒヨドリも、実は渡り鳥で夏に日本で繁殖する個体はツバメと同じく東南アジアで越冬し、冬に見られるヒヨドリはサハリンなど北方で繁殖することが鳥類標識調査などで実証されています。専門家をして見解が分かれることが多い自然科学の分野ですが、ヒヨドリの日本固有種説は何かのかん違いだったのでしょう。以下、次号で。

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