【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
古来より「瑞祥の福鳥」と称される特別天然記念物のコウノトリは、生息環境の悪化などから野生絶滅した暗い歴史がありましたが、現在は人工飼育によって放鳥された個体と野外で繁殖したものを合わせ、日本国内でも200羽のコウノトリが生息しています。
そんな1羽が昨シーズンに城陽市に飛来し、これまで近隣の市町村で観察されたように一時的な滞在と思われていましたが、厳冬期の2ヶ月間を城陽市で過ごし大きな話題となりました。他のコウノトリたちは、安全で自然豊かな餌が豊富な場所を求めて複数で冬越しする姿を観察するのが通常ですが、第二名神高速道路の建設が進む近鉄電車と住宅地に隣接する花卉栽培の水田を主な餌場とし、電波塔や線路の高架をネグラとしていました。
こうした他に類を見ない特異な環境での越冬生態という学術的な興味と共に、標識足環による個体識別とGPS発信から得られた出生や放鳥日などの記録に移動経過、そして「ひかりちゃん」の愛称が人々により身近な存在として受け入れられ、コウノトリという希少鳥類が自然環境保全のアピールに大きく貢献してくれました。昨年11月21日の「第19回城陽市環境フォーラム」に於いて、鳥類学者の脇坂英弥君が『コウノトリが教えてくれた城陽市の生物多様性』と題した講演でこれらの記録を残すことができました。
そして、城陽市のこうした特異な環境で越冬したことで、『来シーズンの飛来も十分に期待できます!』と結んだ脇坂君の予言通り、遅ればせながらも1月29日にひかりちゃんの飛来が確認され、昨年来の調査仲間と協力者たちも集結してフィールドワークを楽しんでいます。週末には、本紙での速報をご覧いただいた読者の人たちもたくさん観察に来られ、サービス精神旺盛なナチュラリストは、望遠鏡で足環や背中のGPS発信機を見ていただいてはハイテンション解説でコロナ禍の暗雲を吹き飛ばしています。
ようやくナチュラリストの日常が戻ってきました。初日こそ、ひかりちゃんの夜のネグラが見つからずに朝を迎えましたが、早朝に餌場でたたずむ姿を確認した時は涙が出るほど嬉しく一斉ラインで朗報送信しています。主要調査メンバーの西尾長太郎さんと田部富男さんには、7時になるのを待って電話をし、餌場前の丸山令子さん宅に声をかけては一緒に観察しています。以後、ネグラ入りを見届け、早朝一番にその姿を確認してはフィールドチェンジの、ナチュラリスト待望生活で溜飲を下げています。
新コロナウィルス緊急事態宣言が解除され、大手を振ってフィールドを駆け巡る春の到来も、もうすぐのことと信じています。ひかりちゃん報告第2弾、ナチュラリストの仲間たちに感謝のフィールド活動報告・フォトレポートのお届けで、福鳥の幸運のお裾分けです。

◎ひかりちゃんと調査仲間たち

先ずは冒頭から、謝罪と訂正です。
前号で、コンパクトな簡易カメラについての表現が、不適切であったことで、ご迷惑をおかけした関係者にお詫び申し上げます。城陽環境パートナーシップ会議の盟友・岡井昭憲先生から知らされ、活動報告の配布資料とする折には白塗りにすることになりましたので、ここに報告して謝罪致します。今後このようなことのなきよう気を付けます。申し訳ございませんでした。
そしてもうひとつ、ひかりちゃんの足環の報告で、「左脚の黒・青」は「黄・黒」の誤りでした。信頼に関わる大切な基本情報での誤記は、日頃から科学的なデータの重要性を唱えるナチュラリストにあってはならない凡ミスでした。重ね重ねすみません。
さて、気を取り直しての活動報告にお付き合い下さい。
飛翔能力の高いコウノトリ(写真①山中十郎さん撮影)は、三年前に全国47都道府県への飛来を達成し、韓国や台湾・中国への渡来も確認されています。今シーズンの飛来が期待薄となった昨今、観回りも形式的になっていた1月29日の午後に第一報が入り、電波塔に止まるコウノトリの標識足環から、調査メンバーの田中義則さん(写真②右)たちと共にひかりちゃんであることを確認し、リターンの実証ができたことを前回お伝えしました。
早速、見学に訪れた人々に望遠鏡で縁起の良い城陽市のお宝鳥をドアップで観てもらい、城陽市の公式チャンネルの「環境フォーラム」にアクセスしてもらえば、昨シーズンの詳細な記録の講演を見ることができますとのアピールも付け加えています。(写真③) その講演者・脇坂英弥君(写真④)とは、その日の早朝にも秘かな野鳥調査を行っています。さらに前日も、時差出勤の前の時間帯を利用して、京都市内から寸暇を惜しんで駆け付ける脇坂君は、将来が楽しみなジュニアメンバーの日野田星君(写真⑤左)と福井惇一君(同右)が発見した希少鳥類の確認で、岡井勇樹君(写真⑥左)と岡井昭憲先生(同右2)と共に学会発表を見据えたプロジェクトチームで調査活動を始めた矢先の朗報でした。
かくして大忙しのフィールド巡りで、充実の毎日が始まりました。5月には城陽市の花・カキツバタが咲き誇る杜若園芸さんの花卉栽培の水田(写真⑦)で餌をとり、近鉄電車の通過も意に介せず(写真⑧田中義則さん撮影)、夜もネグラとしていた電波塔に戻らずに夜を過ごしていることを確認しています。(写真⑨) 3日目の夜となる31日には、仕事を終えた鳥垣咲子さん(写真⑩右)が駆けつけてくれ、ひかりちゃんのおやすみを見届けました。
たのもしいオールスター調査員が勢揃いし、日夜ひかりちゃんを見守ってくれています。一日も長い滞在で、みんなを楽しませてくれることを願っています。

【第330号・PDF版はこちらへ】