【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
新型コロナウィルスの猛威で暗い幕開けとなった2021年、遅ればせながらも1月29日にコウノトリ・ひかりちゃんが今年も城陽の地に飛来してくれたことで、「瑞祥の福鳥」のご利益てきめんのハッピーライフで充実のときを過ごしました。
今回は10日余りの滞在で物足りなさもありましたが、野生復活を遂げて生息地を拡げつつあるコウノトリが、城陽市の特異な環境を餌場として認識し、再飛来・リターンの記録を留めることができたのは大きな成果でした。そして、昨年来の「城陽環境パートナーシップ会議」の調査メンバーと新たな協力者や情報提供者とのネットワークで、今年もニューフェイスの飛来を確認して豊岡市生まれの2歳のメスとの個体識別に至った経緯こそ、コウノトリの町・城陽市を物語るエピソードとなりました。
昨シーズンからの城陽市に於けるこれらの記録は、全国注視のコウノトリの生息状況の基礎資料となるもので、一過性の迷行記録ではなく、移動コース上の一時的な羽休めの場であっても、安全で良好な給餌場を得ることで長期滞在も可能であることを教えてくれました。道路建設が進む住宅地と近鉄電車に囲まれた花卉栽培の水田で採餌するひかりちゃんの記録写真は、コウノトリの未来の縮図といえるものです。
こうして越冬地の条件を充たした城陽市に、季節を通して定着の期待から、やがては繁殖に至る可能性を夢みる背景には、2005年に兵庫県豊岡市の「コウノトリの郷公園」に於いて5羽のコウノトリが野外に放たれて以来、2017年に100羽の大台に達成し、昨年には200羽を突破して現在は野外で生息する個体が220羽を数えるまでになった朗報が挙げられます。
僅か3年の間に100羽を超す雛鳥の誕生は、3歳から繁殖を始めるコウノトリたちのさらなる繁栄を物語るものです。昨年、関東で半世紀ぶりにコウノトリの繁殖が叶った栃木県と、昨シーズン城陽市に飛来した「藍ちゃん・和ちゃん」の生まれ故郷・徳島県以外では、福井県から島根県の日本海側5府県でしか繁殖していないコウノトリですが、淡路島で繁殖を始めた朗報や京都府南丹市など繁殖の為の巣搭を設置した所からも巣材運びなどの嬉しい報告が相次いで届いています。
ふたたびひかりちゃんの名前が話題となった城陽市のお宝鳥で、国の特別天然記念物・コウノトリの魅力を存分にとらえた調査仲間たちの自慢の記録写真と詳細記録もほぼ出揃いました。2月10日に滋賀県高島町に飛び去り、現在は石川県七尾市にいるひかりちゃんのカムバックは期待薄も、新たなコウノトリ情報に期待している昨今です。
今回、コウノトリがつなぐ数々のエピソードを振り返り、自然と頬が緩むナチュラリストが今シーズンの福鳥飛来を振り返っての報告です。今年も秀作揃いの写真をお届けできることを嬉しく思っています。

◎コウノトリ日記

「京都府レッドデータブック2015」において、それまでは一時的な飛来の迷行扱いでリスト外だったコウノトリが、放鳥地の豊岡市に隣接する地域で定着するようになり、京丹後市に於いての繁殖を機に「絶滅危惧種」に新規掲載されました。その後、天橋立近くで新たに巣材運びをしているコウノトリのペアがいるとの情報で2017年の3月に視察に行きましたが、京都府2例目の繁殖に至ることなく現在に至っています。
この年、6月17日に野外コウノトリ100羽達成!と8月12日に秋田県に飛来し、全国47都道府県への飛来の朗報がありました。(写真①) 現在もコウノトリの飛来はそれだけで価値ある記録ですが、実はこの時、城陽市に於ける未公認記録の報告にコウノトリの郷公園に出向いています。昨シーズン、京都府でコウノトリ飛来16番目の自治体と記録された城陽市ですが、その2年半も前に城陽市寺田の水田で本城隆志さんによって2羽のコウノトリが目撃されています。その時は、連絡をいただくもすぐに駆け付けられず、千載一遇の機会を逃した残念な思い出がよみがえります。
そして今回、コウノトリ情報の第一報が入るや真っ先に本城さんに連絡し、共に望遠鏡による足環の確認からひかりちゃんのリターン記録の現認者に登録です。城陽中学校の校歌にも謳われし鴻ノ巣山ゆかりのコウノトリ調査仲間で、中学高校の後輩でもある本城隆志・市議(写真②右)には、同じく城陽市のお宝生物・ダルマガエルの調査や保護活動でも協力いただいている頼もしいナチュラリスト仲間です。この日は、第一発見者の呉松暁美さん(写真③右)共々、ひかりちゃんが餌場とする花卉栽培の水田を有する杜若園芸の岩見悦明社長さん(同左2)を訪ね、現状報告と農薬の影響の少ないことがコウノトリ飛来の一番の要因となっていると、ひかりちゃんファンを代表してお礼を述べています。
今年のコウノトリギャラリーを飾るカメラマンの面々もフィールドに勢揃いしました。(写真④) 新たな情報提供者もたくさん増えて、ナチュラリストのネットワークには日々ひかりちゃんの活動記録が寄せられました。西尾長太郎さん(同右2)のネグラとする電波塔への飛来(写真⑤) 田中義則さん(同左3)の足環も鮮やかな採餌シーン(写真⑥)
そして、複数羽の情報が寄せられて5日目、田部富男さん(同右3)の道路建設の上空を舞う2羽のコウノトリの実証写真(写真⑦)の相方も、奥田睦和さん(写真⑧右)が電柱に止まる個体を発見し、撮影した写真の足環から豊岡市生まれの今年2歳となるメス・J0251であることが判明しました。(写真⑨)
これらの記録がどれほど価値あるものか、コウノトリの新たな歴史が語り継いでくれることでしょう。城陽市のコウノトリ日記、素晴らしい写真と共に続編をお楽しみに。

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