惨禍の教訓 どう生かす/東日本大震災10年
「Shake・Hand(シェイク・ハンド)3・11inおおつち」に出展する個性豊かなサケのマスコット(城南菱創高)

東日本大震災は来月11日で発生から丸10年を迎える。被災地では復旧・復興への確かな歩みが進む一方、津波被害や原発事故に直面した人々の日常の回復や〝心の復興〟には課題が多い。自然災害は忘れず、必ずやって来る。記憶の風化が叫ばれる中、惨禍の教訓を安全なまちづくりに生かしていく手掛かりを、被災地に思いを寄せる地元の人々の取り組みや心のつながりから学びたい。
学び舎に個性豊かなサケのマスコットが並んだ。宇治市小倉町の府立城南菱創高校美術部の部員たちが東北ゆかりの鮭(サケ)のマスコットを装飾した〝デコ鮭〟だ。東日本大震災の被災地支援のチャリティー展に出品する。
チャリティー展は、岩手県大槌町の手芸グループ「おおつちおばちゃんくらぶ」が主催する「Shake・Hand(シェイク・ハンド)3・11inおおつち」。震災で故郷を離れざるを得なかった人々が、サケが生まれた川に戻るように、家族と近々一緒に暮らせるように―との願いから始まった企画。5回目の今年は3月8日~14日に当地で行われる。
同くらぶが縫製した無地のサケのマスコットを出展者が1匹200円で購入し、自由にデコレーション。加飾されたマスコットのチャリティー販売の収益が、被災地に寄付される。同校美術部は前身の慈善展示から参加してきた。

思いを込めてデコ鮭を作製した美術部の部員たち

1~3年生19人と國松万琴顧問で計20匹作製した。鮮やかなオレンジ色のイクラを模した細工を施したり、干支にちなんで牛柄にしたり、スパンコールできらびやかに仕上げたり―。コロナ退散へ、疫病除けの伝説がある妖怪「アマビエ」をモデルにした作品も並ぶ。
部長の辻本紫衣茉さん(2年)は、色染めして図柄を描いた6枚の布をサケの土台に組み合わせた。震災は「忘れてはいけない記憶」といい、「(作品を)気に入って買ってくれた人が、元気が出たり、明るい気持ちになったりしてもらいたい」と期待を込める。
國松顧問は「自分が作ったものが役に立つ―という〝つながっている〟気持ちが出ている。卒業しても記憶として残り、別な形で復興支援につながっていけば」と話し、デコ鮭作りの腕を年々上げる部員たちに目を細める。
◇  ◇
津波・原発事故に遭った福島県では、今でも天気予報で放射線量が速報される。
同県郡山市出身のFMうじパーソナリティ、喜田晶子さん(51)=宇治市広野町=は故郷の近況について「『まだ10年』という感じ」と語り、記憶に残るかつてのまちの様子とのギャップを痛感する。
震災後、新しい建物ができて都会化した。その一方で、黒い土のう袋に入れられ、県内各地から集積される放射能で汚染された土の処理など、放射能問題はいまだに影を落とす
喜田さんは自身が担当している番組で、被災地の生の声を継続的に紹介してきた。
2014年には、宇治市と同県広野町で同名の「広野中学校」の縁でつながった生徒たちのラジオドラマの制作にも携わった。その中で、福島の生徒たちが20歳になる8年後のまちについて「ショッピングモールができてたくさんの人が来て、震災前より人が多くなった」と語り合うシーンが登場した。地元には現在、生徒たちが願っていた施設ができたという。
喜田さんは「こんな町になってほしい―という、みんなの夢は叶っている」と喜ぶ。そして、今後の復興について「福島の良さ、東北の良さが生かされたまちになったら。東北にしかない良い所を生かしつつ復興し、海や山など故郷を残してほしい」と願う。