【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
新型コロナウィルス緊急事態発令下の中、城陽市に飛来したコウノトリが昨シーズン長期滞在した「ひかりちゃん」であることを確認し、瑞祥の福鳥との再会でコロナ鬱も吹っ飛び、寒風の中のフィールド探査も自然と口元がほころぶ充実の時を過ごしました。
そして今回も、たくさんのひかりちゃん仲間たちからの情報を得て、城陽市に於けるコウノトリ滞在の記録を残すことができました。昨年の2ヶ月間に比べると、12日間の滞在は物足りなさもありますが、先ず再飛来のリターンであることと、餌場としての認識を裏付けるダイレクト飛来の記録が光ります。そして、昨シーズン同様の電波塔でのネグラに特定の採餌場といった定着条件への要素を充たす観察記録もしかりです。
早春に繁殖期を迎えるコウノトリにとって、繁殖ペアのテリトリーからの移動を余儀なくされた若鳥や非繁殖個体が分散する時期でもあり、今年になってのマスコミ報道でも、ひかりちゃんが滞在していた兵庫県加古川市の溜池に20羽のコウノトリの飛来や、福井市で11羽の群れといった記事が見られます。ひかりちゃん飛来の前日、京都市嵯峨野の広沢の池で3羽のコウノトリが観察され、城陽市近辺でも複数羽の目撃情報が続いて、2月7日には豊岡市の森川巣塔生まれの個体を足環確認から新登録しています。
昨年、関東で初繁殖した栃木県のペアのメスが亡くなった訃報も、新たな伴侶を得て抱卵…との嬉しい報道も見受けられます。こうした全国注視のコウノトリ情報、今年一番の朗報は何といっても淡路島に於いての繁殖行動でしょう。兵庫県ではこれまで、放鳥地のコウノトリの郷公園のある豊岡市周辺の但馬地方でしか繁殖していなかっただけに、今後を占う大変貴重な記録として期待されています。
また、左脚の半分を失って保護されたコウノトリが、義足でのリハビリに励む姿も大きな反響を呼んでいます。こうした保護されるコウノトリは、この16年間で147羽に上り、電線への衝突や防鳥ネットなどでの負傷が大半を占めています。この内、89羽は兵庫県内ですが、隣接する京都府が23羽と続いています。
2017年に野外コウノトリが100羽に達し、昨年には倍増の200羽超えと順調に個体数増加を続ける一方で、こうした傷病鳥の現実は野生復帰を果たしたコウノトリも自然界の厳しい生存競争にさらされていることに他なりません。2017年には、島根県で子育て中のメスのコウノトリが有害鳥駆除の際にシラサギと間違えられて射殺されるという痛ましい事件などは論外ですが、コウノトリゆかりの地方自治体や環境保護団体には、せめて人為的な弊害のない生息環境を整える努力を期待したいものです。
2月10日に城陽市を飛び去ったひかりちゃんでしたが、その後も多くの人たちからの情報をいただき確認に奔走しましたが、ついぞ朗報発信の続編が叶わぬまま3月の声を聞くに至りました。それでも、城陽市のお宝鳥としての認識も定着しつつあり、コウノトリがつなぐ人の環の拡がりを何よりの成果と実感するひかりちゃんの再来でした。
これからも、ふるさと城陽にひかりちゃんたちコウノトリの飛来が年中行事となり、いつの日か「鴻ノ巣山の夢」を願って綴るコウノトリ報告・終章をお届けします。
◎コウノトリ・フォトレポート
3月の声を聞いてもコウノトリ情報は続き、田んぼに降り立ち直ぐに南の方に飛び去ったとの城陽市久津川での目撃情報や、木津川でもカワウやサギと一緒に2羽がいたとの報告も受けています。野鳥カメラマンやバードウォッチャーからも、八幡市や京田辺市、木津川市での観察記録の報告が届いて、これまで京都府南部では希な迷鳥とされていたコウノトリも、定期的な飛来が期待できるまでになってきました。
一般の方からの情報では、アオサギやシラサギとの見誤りなども考慮に入れ、観察の際の記録写真が求められるところです。こうした中、人を介して送られてきた画像と観察記録の情報から、複数のコウノトリ飛来を実証するのに役立った事例も3件ほどありました。
中でも、校区の富野小学校を背景に蓮田で採餌するコウノトリ(写真①)の情報は、尾野和広先生を介して画像提供いただいた香川さん他、地元の森西さんや北村さんからも詳細報告を受けています。都合3日間出現した水田に張り込み、当地でのコウノトリ確認中に他所でも記録されており、複数羽の飛来を実証できたことで課題のひとつをクリアしました。(写真②)
ひかりちゃんは例外ですが、本来、通過や一時的な羽休めのコウノトリにあって、個体を判別する足環の確認は困難を極めます。今回、そんな課題もクリアできた幸運な成果の伏線に、調査協力者たちのネットワークの情報網があったことは喜ばしい限りです。
今回のコウノトリの第一発見者・呉松暁美さん(写真③左2)に、和泉悟さん(同右)たちあらたな調査メンバーの参加を得て、脇坂英弥君(同右2)共々コウノトリ滞在記録の情報収集に努めました。欠かせない記録写真は、今年もネイチャーカメラマンの田中義則さん(同中)に西尾長太郎さん(写真④右)、田部富男さんと奥田睦和さんが担当で、本紙でも紹介された新規確認個体と2羽のコウノトリ飛翔写真の撮影で期待に応えてくれています。
今一度、ひかりちゃんの優雅な舞(写真⑤西尾長太郎さん撮影)にザリガニの捕食をとらえた生態記録(写真⑥田中義則さん撮影)、そして待ち望んだランデブーの光景をご覧下さい。(写真⑦田部富男さん撮影) 単独で飛来のひかりちゃんも、今年で繁殖可能な3歳を迎えます。鳴き声を持たないコウノトリの求愛は、クラッタリングと呼ばれる首を曲げてクチバシを鳴らす行動が知られていますが、その兆候も田部さんのカメラは捉えています。(写真⑧)
ひかりちゃんが伴侶を得て、かの地で繁殖するのもそう遠くはないでしょう。城陽の地が、一過性の羽休めの通過場所ではないことを教えてくれたひかりちゃんに続いて、毎年コウノトリの飛来で賑わうふるさとであって欲しいと願っています。郷土の自然財産である希少野生生物たちの保護を考える機会となったコウノトリ報道はまた、懐かしいナチュラリスト仲間との再会を演出してくれました。30数年来の「カモシカの会」の仲間・斎藤文美さん(写真⑨右)と菅谷幸子さん(同中)の来訪を受けるも、ひと足違いで飛び去ったひかりちゃんの絵ハガキを奥田睦和さんから進呈され、ゆかりの電波塔を背景に記念撮影です。
コロナ緊急事態宣言も解除され、ウグイスの初音で迎えた春本番、瑞祥の福鳥・コウノトリからもらったパワー満タンのナチュラリストからの朗報発信にこうご期待下さい。