【第339号】愛鳥月間トピックス④ ケリの続々々報

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【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
久御山町立東角小学校のグラウンドで、ケリが繁殖失敗し、残された卵の孵化を願う子供たちの想いを報じた本紙の記事は、愛鳥月間にふさわしい話題を提供してくれました。筆者も当フィールド日記でその経過を取り上げ、久御山町の鳥・ケリの生態や研究成果などを記す機会となり、相次ぐイベント中止のコロナ禍の中にあってライフワークとする啓蒙活動の一端となったことは何よりでした。
そして、託された卵の孵化に期待できず、言い訳がましい予防線を張っての前号の報告でケリの話題から希少鳥類たちへの話題転換を考えていました。愛鳥月間の季節がら、珍しい渡り鳥たちの記録から、猛禽類の繁殖など、この時期の調査課題は山積していて話題も豊富です。6月の環境月間に入っても続く野鳥の報告に、貴重な写真も用意しての草稿中に、またもや東角小学校からの朗報・続々々編が届きました!
何と、ケリが今度こそばかりとグラウンドに再々産卵し、近づく者に威嚇するなど、これまで以上に巣卵に固執している様子が伺えました。学術的にも大変貴重な生態記録が得られる機会でもあり、何より、子供たちの願いが天に通じた「東角小学校のケリ物語」が美談で終わらず、命誕生の終章を迎えられることを願って見守っています。
公式イベントのコロナ禍停滞は残念ですが、フィールドが賑わう最高の季節を迎えて楽しい野鳥観察を続けています。足掛け3年をかけ、和束町の野生生物生息調査を続けてきた集大成「和束の生きものガイドブック」も完成し、宇治田原町・南山城村に続いて里山環境にある隣接地の環境資料の作成で貢献できたことを嬉しく思っています。残された時間、あとどれだけフィールドワークを続けられるか寂しい不安がよぎる中、今一度ふるさと城陽市の希少野生生物の生息状況の把握で、保護の提言と生息環境保全の基礎資料の充実をめざして、「城陽環境パートナーシップ会議」の仲間たちと楽しい活動を続けていきたいものです。
早くも梅雨入りを迎え、両生・爬虫類の季節到来に、木津川川漁師のスッポン漁と昨年和束川で発見した新種の淡水魚・ナガレカマツカの追跡調査も始まります。5月の愛鳥月間最後の野鳥トピックス第4弾は、ケリと共にバードウィークの紙面を飾った希少旅鳥・ソリハシシギと野鳥カメラマンの話題をお届けします。写真を趣味の被写体としての野鳥では、生態系や自然環境の豊かさを表す野鳥の存在価値も分かりません。鳥たちの魅力と科学的な興味を拡げてくれる1枚の写真、1羽の鳥のエピソードに耳を傾けて下さい。

◎フォトレポート

先ずは新展開を迎えた久御山町の鳥・ケリが、東角小学校のグラウンドで再々産卵に至った大変珍しい貴重な記録実証の写真をご覧下さい。(写真①②) 自然な振る舞いで通り過ぎる人には意に介せずのケリの親鳥も、のぞき込もうと巣に近寄る子供たちには激しく鳴き叫んで威嚇し、遠ざかるや直ぐに抱卵に戻る巣への執着から、虎視眈々と狙うカラスにも屈せず無事雛鳥が誕生することを期待しています。幸い、外部からの人の侵入は遮断されていて、好奇心旺盛な子供たちにもしばらくは遠巻きに見守ってもらい、特異な環境下でのケリの繁殖成功!の朗報発信ができることを祈っていて下さい。
やはり水田耕作で2度にわたって巣卵が破壊され、田んぼの水入れ・田植えで繁殖地を失ったケリが駐車場で産卵し、こちらも無事に孵化することを願って観察を続けています。(写真③) 当情報提供者の鳥垣咲子さんはじめ、「城陽環境パートナーシップ会議」の野鳥調査班のメンバーと協力者たちからは、定期的に観察した野鳥や生き物たちの記録が届けられます。田中義則さんからは、東角小学校で再現を願うほほえましいケリの親子の写真が届けられました。(写真④) また、コウノトリが飛来していた時期に、城陽市のお宝生物のひとつとして記録写真をお願いしていたチョウゲンボウの交尾シーン(写真⑤)を撮影され、貴重な生態写真が城陽環境PS会議の野鳥名鑑に加わりました。
そして、本紙でも「30年ぶりの旅鳥・ソリハシシギ発見!」と大きく報じていただいた西尾長太郎さん(写真⑥)は、「城陽生き物ハンドブック」が縁で、野鳥観察と撮影を始められたナチュラリストの啓蒙活動にドンピシャはまったオールドルーキーで、これまでにもホームランを連発しています。野鳥写真家の山中十郎さんをして脱帽の満月を背景にしたコウノトリの「月影」(写真⑦)は、生態写真にして芸術作品といえるものです。
そんな西尾さんが京田辺市の草内で撮影されたソリハシシギ(写真⑧)は、1989年に京都新聞社から発行された「京都の野鳥図鑑」に巨椋池干拓田でたった一度だけ記録された筆者の写真が掲載されている珍鳥です。絶滅危惧種の希少性はもとより、海浜性の渡り鳥のソリハシシギが内陸で観察される記録の重要性を考えれば、野鳥を被写体の写真にも天と地の開きがあることが伺えます。
やはり本紙に於いて、過去30年間で2~3回しか記録がなかったコシャクシギが巨椋池干拓田に飛来した今春の報道にも西尾さんが写真提供され、2年連続してシベリアの繁殖地から城陽市の青谷梅林へ越冬の為に飛来したことの実証となる標識足環をしたシロハラの撮影にも成功されています。(写真⑨)
こうした頼もしい調査協力者たちに支えられ、バードウィークの探鳥会に太陽が丘の水棲昆虫観察会、城陽市のカエルの観察会に木津川や和束川の生き物観察の野外実習授業といったコロナ禍のイベント中止の5月も、実りある楽しいフィールド活動を続けてこられました。先日の事故に遭ったメスキジも、期待の鳥少年・福井惇一君(写真⑩中)によって骨格標本の教材としてよみがえりました。爬虫類派ジュニアメンバーの松井優樹君の季節到来、新メンバーの千田真大君(同左)を交えてフィールド探査も衣替えの6月も楽しみです。

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