鳳凰堂扉絵に、保全新手法/平等院
扉絵の前で白い色調の部分を示す荒井経教授

国宝・平等院鳳凰堂の扉内部に描かれた絵の一部に、チタニウムホワイトと白土を混合した20世紀の新画材(商品名=「チタン胡粉」など)が用いられている可能性が高いことが分かった。18日、神居文彰住職と、調査に当たった荒井経・東京藝術大学大学院教授(保存修復日本画研究室)が鳳凰堂で記者発表した。
鳳凰堂の扉は全部で12面あり、うち8面は1966~71年にかけて扉絵を復元模写し新造された。平安期に描かれた元の扉絵は収蔵庫に保管されている。

絵が連続していながらも、右縦框は鏡板部分と明らかに違う白く明るい色調で残っている

新画材が用いられていると分かった扉絵は、北面の向かって左扉の絵。上下左右のヒノキ製「框」(かまち)に同素材の「鏡板」がはめ込まれ、空や山などが連続して描かれている。ただ、右側の縦框の一部がその他の部分よりも明るい色調で白色を帯び、明らかに異なっている。復元時点での模写にはこのような違いはないことから、設置から約50年間の経年変化によるものと考えられる。
荒井教授らは、蛍光エックス線分析という科学的手法で使用画材の元素を調べた。その結果、右縦框の白い部分から、他に使われていないチタンと銀が検出された。
復元模写を行った松元道夫氏画伯(90年没)による記録はまだ見つかっていないが、荒井教授は「板のヤニやアクなどから顔料を守るために、銀箔を貼り、その上に、変色せず被覆力が極めて高いチタン胡粉を下地として塗ったのでは」と推測した。

荒井教授が作成した3種の下地見本。真ん中が用いられたと推測される

一部分だけに施した理由として荒井教授は、画伯が残した新聞記事のスクラップなどから、画伯が当時の大気汚染や観覧客の増加など現代的な劣化要因から「扉絵を守らねばならないという切実な思いがあったのでは」と考え、そのための「現場実験だった」とし、「私たちは50年後の今、その成果を受け取ることができている」と話した。同画材が指定文化財の復元模写下地に用いられている例は、全国的にも見当たらないという。
絵の保全に対する効果について荒井教授は、「関係各所による評価がこれから集まってくる」と述べつつ、「一定の理はある」とした。今後の文化財保全に、新たな1ページが加わったと言える。
鳳凰堂の扉絵は全体で「九品来迎図」が描かれており、今回調査した北面扉はその内の「中品上生図」。
調査結果は「鳳翔学叢・第17輯」(平等院ミュージアム鳳翔館開館20周年特別号、平等院刊)に詳しく記されている。同冊子は、同ミュージアムまたはオンラインストアで入手できる。税込1000円。