幻の淡水魚「イタセンパラ」復活へ/やましろ里山の会

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1974(昭和49)年に国の天然記念物(文化庁)に指定された淡水魚「イタセンパラ」を、木津川で復活させるプロジェクトを進めるNPO法人「やましろ里山の会」(大村幸正理事長)=京田辺市田辺深田=は22日、井手町の府立山城勤労者福祉センターで講演会を開いた。大阪市内の淀川下流域でイタセンパラの保全活動に関わる専門家の話に耳を傾け、復活への道を探った。
里山の会は「自然を大切にする仲間の輪を大きくする」をモットーに、任意団体として1996年に発足。京都府南山城地方の自然環境の保全や啓発活動を展開している。

イタセンパラのメス㊧とオス(やましろ里山の会が作成した冊子から)

イタセンパラ(板鮮腹)は、板状で平たい体をした色鮮やかな淀川水系のシンボルフィッシュ(大型タナゴ・体長は7~8㌢、最長12㌢)。オスは婚姻色で赤く染まり美しい。寿命は1~2年(ほとんどが1年)。川の本流と離れた場所にできる水たまり(タマリ、ワンドと呼ばれる)をすみかとし、イシガイやドブガイといった二枚貝に産卵する。国内希少野生動植物種(環境省)にも指定されている。
イタセンパラが生息するには小さく浅いタマリの存在が必須。ところが木津川では淀川の改修工事や川砂採取、ダム建設などで河床低下が起こり、適度に冠水するタマリが減少。棲む場所を追われ、2007年を最後に姿を消した。密漁や外来種の繁殖も絶滅の原因に挙げられる。
同会ではこれまで、2015年から木津川流域の土砂環境を整えようと竹蛇籠(たけじゃかご)を設置したり、17~19年には川の流れを制御する中聖牛計9基を置き、稚魚が集まりやすい環境を形成。伝統工法で自然への負荷も小さい手法で川の流れをコントロールし、聖牛の周囲にタマリもできた。20年の秋にはトヨタ自動車㈱の助成を受け、イタセンパラの保全・再生を願うパンフレットも作成するなど、復活へのプロセスを歩み始めている。
この日の講演会には、淀川水系イタセンパラ保全市民ネットワーク事務局長・環境省希少野生動植物種保存推進員の河合典彦さんを講師に迎えた。会のメンバーら約15人が木津川での今後の活動の参考にすべく、淀川のイタセンパラを絶滅の危機に追いやった河川環境の変化や、大阪市旭区の城北ワンド群を中心に展開している保全・再生活動についての河合さんの話に聴き入った。
河合さんは、ワンドの豊かな環境創出や河川生態系の健全性維持に必要な「洪水撹乱」が、治水安全度を高める河川整備によって喪失したことを挙げ、これがワンド環境を劣化させ、イタセンパラの生息に大きなダメージを与えたと指摘した。一方で治水対策も人間の生活には必要不可欠とし、豊かな自然と人間の住環境保全の両立について、模索の日々が続いていることを打ち明けた。
また淀川最大の城北ワンド群には13年10月、国土交通省淀川河川事務所と大阪府環境農林総合研究所の共同事業で、イタセンパラの成魚500個体を放流。18年には約2万個体に増えたことを報告。外来植物の除去や、4~11月の月2回、外来魚の駆除を実施しており、放流後の地道なタマリの環境維持が重要と伝えた。イタセンパラの産卵床である二枚貝を捕食するヌートリアの存在にも注意を呼び掛けた。
このほか、日本魚類学会の「放流ガイドライン」に沿って、木津川での復活に向けてのアドバイスも。最後に「環境保全にとって無関心が一番ダメ。関心を持ってもらう機会を作ることも必要」と付け加えた。

やましろ里山の会の活動を紹介するパネル展示

「木津川でイタセンパラの復活を目指す会」実行委員長の光田重幸さん(元同志社大学准教授)は「産卵床となるイシガイの上流域からの移動など、環境整備が必要。イシガイが産卵に耐えられるようになるには3~4年かかる」と、地道な活動が必要とした。
講演会場では、同会の活動を紹介するパネル展示も行われた。

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