【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
今年も早ひと月が過ぎ、ここに来てあらたなオミクロン株のまん延で、ようやく復活を果たし喜々としてフィールドを駆け巡るナチュラリストにとって、もうひとつのライフワークである観察会や講演会など啓蒙活動の場の消滅への影響を心配しています。
本紙新春号の「ナチュラリストの年賀状」での宣言通り、今年は昨年度のコロナ鬱による負の連鎖から脱却し、郷土の環境資料に貢献するフィールド調査の計画がモチベーションとなって、野鳥を中心に両生・爬虫類から水生生物まで新たな発見と成果を願って始動しています。そして、鉄道マニアでもあり、動物園や水族館に博物館などのミュージアム巡りが趣味を通りこした生き甲斐となっているナチュラリスト、実に2年ぶりにローカル列車の旅で秘境駅路線と私鉄や路面電車を楽しんできました。博物館に動物園・水族館も堪能し、ようやくコロナ鬱の呪縛から解放され、寒風の中のフィールド探査も充実の2022年1月、鳥人ナチュラリスト復帰のお年玉情報が相次いで届きました。
そのひとつが、世界的な希少鳥類のコウライアイサが宇治川に飛来した!とのビッグニュースで、各地から駆けつけたたくさんのバードウォッチャーたちと共に大珍鳥との出逢いを喜び合いました。当洛タイ新報でもいち早く取材いただき、1月12日付紙面でカラー写真6枚を配した詳細記事が大きく報じられています。こうしたマスコミ報道記事は将来にわたっての文献資料となる公式な記録で、筆者も京都府南部・南山城鳥類目録改訂版発表の折には添付資料として活用させていただきます。
こうした貴重な資料記事では、昨年も京都府初記録となるシラコバトが京田辺市で発見された報道がありましたが、今シーズンも同所で観察・撮影され、一過性の迷行記録ではなく越冬地としての再渡来なら全国でも例を見ない大発見です。昨シーズンも観察は断片的でしたが、思わぬ初夢朗報に神出鬼没の大珍鳥・シラコバトの追認に調査メンバーたちと奔走しています。
また、希少鳥類の保護を目的とした巣箱プロジェクトも始動し、レッドリストの猛禽類・チョウゲンボウにアオバズクなどを対象としたオリジナル巣箱の設置も始まりました。鳥類標識調査研修会では、昨年の宇治川河川敷に続いて京田辺市でも、レッドリストの珍鳥・アリスイを標識放鳥することができました。そして、ホオジロ科の小鳥のアオジが、環境省の鳥類観測ステーションがある新潟県の福島潟から渡来して越冬していることも分かりました。こうしたリカバリーと呼ばれる記録や、リターンと呼ばれる同一個体のシーズンをまたいだ再捕記録は、渡りのルート解明や生息環境など野鳥保護に直結する調査データを得る手段として、鳥類研究者をめざす後継者たちが学んでいます。
季節がら鳥類がメインのフィールド活動も、2月からは厳冬期に産卵するニホンアカガエルとヤマアカガエルに、カスミサンショウウオからヤマトサンショウウオに名称変更された京都府の希少野生生物の繁殖調査も組み入れ、コロナ鬱の2年間のうっぷんを晴らす調査で日本爬虫両棲類学会大会でも研究成果の発表ができることを願っています。
盛りだくさんの話題の中から、先ずは新年最初にふさわしい朗報・コウライアイサ飛来記録の発信です。宇治川の水鳥たちのフォトギャラリーと共にお楽しみ下さい。

◎宇治川水鳥ウォッチング

野鳥カメラマンの山中十郎さん撮影の写真で綴る宇治川に生息する水鳥たちのフォトレポートです。先ずはコウライアイサをご覧下さい。(写真①)
かなりスマートな体型で、オイカワを捕食する姿は、よく見られるカモたちと形態や生態的な相違が伺えます。かつては、カルガモやマガモが魚を捕食するからと有害駆除の申請が出されたという話も残っていますが、かれらは水中に潜ることもなく、植物食が基本の冤罪です。宇治川流域では、狩猟鳥に指定されているマガモ・カルガモ・コガモ(写真②)の御三家に、ヒドリガモ・オナガガモ・ヨシガモ・オカヨシガモ・ハシビロガモなどの外、オシドリ(写真③)とトモエガモ(写真④)のレッドリストの希少種たちの記録があります。
これら淡水ガモに対して、ホシハジロやキンクロハジロと共に潜水する海ガモの仲間のアイサ類では、パンダガモの愛称で呼ばれる小型のミコアイサ(写真⑤)に、ウミアイサ・カワアイサ(写真⑥)がいます。ミコアイサは南山城地方の各地で観察されていますが、ウミアイサでは宇治川最下流の三川合流辺りの記録だけで、カワアイサもかつては珍しかったものの20年程前から木津川で少数の越冬が確認され、2010年には宇治川で夏場にも観察され繁殖も期待されるようになって現在に至っています。
カワアイサとてレッドリストの希少水鳥ですが、近似種とはいえコウライアイサは別格です。高麗に由来する朝鮮半島北部から中国・ロシア南東部沿岸の限られた地域の森林地帯で、極少数の繁殖が記録されているだけの幻の鳥であり、国際自然保護連盟・IUCNのレッドリストでも絶滅危惧種に掲載されています。
そんな国際的希少鳥類のコウライアイサのペアが1986年に岐阜県の木曽川で発見され、当時の写真週刊誌が異例のスクープ写真として掲載したこともあって、全国の愛鳥家たちが珍鳥詣でに訪れました。こうした情報に、前年にも隣の揖斐川に飛来していたことや、全国ガンカモ一斉調査の折などに丁寧に観察されるようになり、以後コウライアイサの確認記録もぽつぽつと出てきました。
現在、ほぼ毎年全国から極少数の飛来情報が発信されますが、越冬地としての定期渡来とは程遠いものです。京都府でも1999年12月に北部の由良川でペアの観察記録がありますが、やはり一過性のものでした。今回の宇治川のコウライアイサでも、当初ペアの情報もありましたが、一時300人を超える人たちの観察記録からもメスの情報は消滅しています。カワアイサのメスとの誤認も、両者が並んだ写真⑦で相異を確認することができ、カワアイサはコウライアイサよりひと回り大きく、特徴的な頭部の冠毛や側面の鱗模様が見られない点などです。
実は城陽市でも2010年にコウライアイサのメスを木津川流れ橋周辺で観たとの情報がバードウォッチャーから寄せられ、確認に駆け付けたことがあります。単独観察で写真もない状況で、流域をくまなく探査するも見つからず、この当時から観察されだしたカワアイサとの誤認とも考えられ、公認記録とはできない参考記録として城陽市の鳥類目録にも記しています。こうした未公認の記録も今後の参考となる資料であり、とかく玉石混交の情報の中、貴重な記録の掘り起こしがナチュラリストの使命であると考えています。
久しぶりの天ケ瀬ダムから隠元橋・観月橋までの野鳥探査で、珍客のコウライアイサと共に、宇治川の住人たちとも再会することができました。魚食性の海鷹・ミサゴ(写真⑧)が宇治川に定着し、繁殖確認に奔走したのは20年以上も前のことでした。宇治市の鳥・カワセミ(写真⑨)制定から30年が経ち、近年のオオバン(写真⑩)の繁殖確認など、宇治川フィールドゆかりの鳥たちから元気をもらって鳥人ナチュラリストの一年が始まりました。

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