【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
長引くコロナ禍のステイホームの最中にあって、ナチュラリストの活動成果を発表する機会も限られ、ライフワークとするフィールド探査も課題や目標も掲げられずに長らく空転状態が続いていました。また、趣味を超えた生き甲斐とする鉄道とミュージアム巡りも、各地の博物館や水族館などをローカル列車で訪ねるのをもうひとつのライフワークとしていましたが、2020年の正月に臨時夜行列車「ムーンライトながら」で東京の国立科学博物館と上野動物園などを巡って、信濃路から一番のお気に入りの秘境駅路線「飯田線」の鈍行列車を堪能して以来、鉄道の趣味も泣く泣く封印していました。
コロナ鬱たるステイホーム唯一の収穫は、古希を目前にしてあらためて人生を振り返る節目となったことです。かつて心筋梗塞に倒れ、死の淵を覗いたことから人生観も一変しました。半年間のリハビリ生活を経て復帰が叶ったとき、与えられた残りの人生をナチュラリストの自分でしかできない活動で郷土の環境資料への貢献を誓った想いがよみがえり、あれから15年の歳月で期待に応えられなかった課題を探して自身への戒めとエールとしたこの2年間でした。
かくして、過去40年にわたっての活動記録を取り出しては、今一度文献資料として次代に引き継ぐ算段を計る必要性を実感したものでした。以前のクロツラヘラサギに関連した報告では、当時は北朝鮮の無人島でのみ繁殖が知られている全世界で僅か200羽と推定される国際的な希少種であったことや、絶滅からの野生復活など夢物語と思われていた時代のコウノトリの人工繁殖の取り組みに、僅か30年前まで京都府で撮影されたオオタカの写真が一枚もない幻の鳥であり、生息が確認された関西学研都市の開発予定地の自然林23㌶が保全されたこと等々、今にして未来に託すキーワードがたくさん見受けられる資料にコロナ終焉のフィールド復帰にも夢が描けるようになりました。
依然コロナの暗雲は晴れませんが、もう二度とできない鳥類研究へのハードな取り組みと幸運な数々のフィールド成果に励まされて、ロートルナチュラリストも今年度はフィールドの鬼に徹してフル稼働の一年でありたいと願ってきました。そして、所属学会での研究発表を今年の年間最大行事に掲げて、鳥類と両生・爬虫類の調査と共に、生態系を攪乱する外来生物駆除を目的とする猟師にして二代目木津川川漁師のナチュラリスト、協力者たちと共に楽しいフィールド活動が始まっています。
早くも梅の便りが届く季節になって、今年の幸先の良いフィールドの便りの続編も、収まりきらない写真で綴る活動報告です。珍鳥ラッシュのフォトレポートにお付き合い下さい。

◎続・新年の活動日記から

前回、鴨猟の副産物で得られたヤマセミとカワアイサの放鳥、保護されたフクロウの話題をお届けしました。これらレッドリストに掲載されている希少鳥類たちの生息状況の把握は、今後の保護のための基礎データとなる公式な記録です。その後も準絶滅危惧種のトラツグミの放鳥と宇治市志津川で発見されたヤマセミの屍の情報が届けられています。
野鳥たちの住民登録ともいうべき「鳥類目録」の記録では、こうした屍確認や保護、鳥類標識調査のような捕獲による公式記録に対して、バードウォッチングによる観察には種の判別の真偽に写真や現認者の有無など公的要素が求められます。かつて捏造発覚した野鳥カメラマンの全国紙の記事など寂しい事件もありましたが、マスコミ報道は大衆の目を経た公的な意義のある文献資料となるものです。郷土の環境資料として特筆すべき野鳥の記録には、こうしたマスコミ報道が添えられることで全国の研究者への情報提供にもなります。
また、マナーの悪いカメラマンによる繁殖の妨げなども考慮に入れ、情報発信にも気をつかわなければなりませんが、みんなで温かく見守って観察や写真撮影できることを願っています。そして、外来生物の侵入や、シカに代表される特定種の過度の増加による生態系への影響を考えたとき、現在においては間引きや駆除はやむを得ない処置であり、合法的な狩猟や有害鳥獣駆除の実施も理解いただきたいと考えています。
今回、気楽なバードウォッチングでも、大きな発見があることを共に中学生のエコキッズ二人が証明してくれ、当紙面でも報道いただきました。先ずは1月17日、シュタイナー学校の中学2年生・松本光歩君が、京田辺市に隣接する精華町のため池にツクシガモ6羽が飛来していることを発見しました。京都府では稀な冬鳥としてレッドリストへの記載はありませんが、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧Ⅰ類Bに指定の全国的な希少鳥類です。松本君の先輩の福井惇一君を通じて連絡を受け、もう40年来の鳥仲間・秋井信幸さん(写真➀左2)も大津市から駆け付け、城陽環境パートナーシップ会議の野鳥調査班の仲間たちと共に確認しました。ランチも辞退してツクシガモの撮影に没頭された山中十郎さん(同右2)のベストショットは、ポストカードに作成予定です。(写真②)
続いて22日には、南城陽中学校1年生の中野響君が、学校裏の梅林に隣接する調整池でホオジロガモ(写真③中野響君撮影)を発見したからとの確認依頼の連絡が届きました。早速、翌早朝に今回も守口誠さん(写真④右)と西尾長太郎さんを借り出して、小雨降る中ホオジロガモのメスであることを確認してもらい、現認者の守口さんの写真提供で報道いただきました。
琵琶湖などで少数が観察される海鴨のホオジロガモが、山手の人工池で観察されることなど考えられないことで、「南山城鳥類目録1999」でも三川合流地点の八幡市での稀な記録が残るだけでした。城陽市鳥類目録には、木津川流れ橋の久御山町境で観察されたとの聴取記録があるだけの特例と記している、実に24年ぶりに公式記録となった京都府の準絶滅危惧種・ホオジロガモの発見記でした。
お手柄の中野響君(写真⑤左)は、筆者が指導する城陽市立富野小学校「生き物クラブ」出身の鳥少年で、福井惇一君(同中)と千田真大君(同右)共々後継者として期待のジュニアメンバーです。2月4日の城陽環境PS会議主催の古川野鳥観察会では、堂々の講師を勤めてくれます。同じく代表講師の田中義則さん(写真⑥中)には、鴨猟の現場にも同行し、この日の獲物のカワウをお借りして里の西保育園の園児たちへ披露のサプライズや、保護委託されたフクロウの記録撮影などでお手伝いいただく欠かせない相棒となっています。(写真⑦)
そして、ホオジロガモで野鳥撮影157種類目となった西尾長太郎さん(写真⑧右)は、城陽市で初記録となる野鳥を鴻ノ巣山で撮影されています。「城陽市鳥類目録」191種類目となる野鳥の紹介は、本紙での掲載を経てからあらためてということでご容赦下さい
早くも日本鳥学会大会参加の発表ネタを得た想いの2023年度好発進ですが、1999年に希少鳥類の保護放鳥の記録発表が縁で現在の鳥類調査の共同研究者に名を連ねているのが竹内康先生(写真⑨左)で、観察会の下見を兼ねてのんびりと古川の野鳥たちに新年のご挨拶です。鳥人ナチュラリスト復活宣言の今年、鳥学会大会が竹内先生の母校・金沢大学で開催されることもあって、2012年の東大大会以来の大会参加を約束しています。
鳥三昧の年明けですが、猟友会での行政委託を受けての専用罠や檻(写真⑩左)を用いてのアライグマの駆除に、今年のスッポン漁と併行して行うウナギ漁の罠として期待している本来はアナゴやイセエビ漁に用いられる大網籠(同右)も用意して、水ぬるむ季節到来を待ちかねているロートルナチュラリストです。フィールドの幸運がこれからも続くように願っていて下さい。