【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
2月に入り暦の上では春を迎えた立春の4日、それまでの寒さが嘘のような暖かな陽差しの中「城陽環境パートナーシップ会議」主催の古川野鳥観察会が開催されました。
餌が乏しくなる季節、野鳥たちの越冬地としての自然環境は生態系を語るうえで大きな意味をもっています。野鳥の多くは渡りをすることで知られていますが、一年中観られる留鳥のヒヨドリたちも、夏と冬では別個体群であることが分かってきました。
日本で繁殖するツバメは、東南アジアなど南方で冬越しをする夏鳥であり、カモの仲間はシベリアなど北方で繁殖し、氷雪におおわれる冬期に日本に飛来する冬鳥です。また、シギ類の多くは、北の繁殖地から南の越冬地に渡る季節の春と秋に、中継地として一時的に羽を休める旅鳥に分類されています。
これら野鳥たちは餌環境によって棲み分けをしていて、自然豊かな変化に富んだ環境には多くの生き物たちが生息できる指標生物の原理です。こうして食物連鎖の頂点に位置する猛禽類や水質汚染の番人と称されるカワセミなどは環境示準評価も高く、生態系を撹乱する外来種のドバトにカラスやムクドリなどはマイナス要因の多い低ランクに位置しています。
雑食性で体が大きいカラスの群れが見られるところは餌も豊富と思われますが、その分、他の野鳥たちへの直接的な圧力となり、共生できる種類や数が限られることが分かります。また、緑豊かな森林といえども、植林された杉林などは野鳥にとっては不向きな環境であり、鳥たちが観察できるその背景にある自然環境や生態を知ることで、保護に役立つ資料にもなり得ます。
こうした野鳥観察の記録が、大変希少な鳥たちの発見や、季節や環境など生態的にも重要な様々な発見の可能性があるバードウォッチングは、自然保護活動への第一歩となる趣味であり、欧米諸国ではゴルフバッグに双眼鏡を忍ばせてプレーの合間に野鳥観察を楽しんでいるといいます。バードウォッチング発祥の国はイギリスで、狩猟が盛んな時代に野の鳥を愛でる高尚な趣味として貴族の間で広まったといわれ、シェークスピアの戯曲の中にも「バーディング」の名前で登場します。
バードウォッチング人口が300万人で、国民の20人に1人がバードウォッチャーというイギリスでは、鳥類標識調査や傷病鳥の救護など研究と保護活動に携わる人たちを特に「バーダー」と称して区別されています。鳥類研究と野鳥保護先進国のイギリスに対し、日本国内最大の自然保護団体である「日本野鳥の会」の会員数が5万人であることを考えると寂しい限りですが、こうした活動も地方の活性化による底辺の拡がりが潮流となって実を結ぶものと期待されています。
郷土の自然財産である希少野生生物の保護と生息環境の保全を願うナチュラリストにとって、「城陽環境パートナーシップ会議」主催による自然観察会の開催は「シンク・グローバル、アクト・ローカル!」実践の場であり、生まれ育ったふるさとの生き物たちの記録を後継者たちによって次代に引き継いでもらいたいと願っています。そんな想いが込められた冬期恒例「古川野鳥観察会」、たくさんの参加者たちに野鳥の魅力の一端を伝えることができた充実の啓蒙活動のイベントのフォトレポートをお届けします。
◎古川野鳥観察会から
『環境先進都市宣言!』の城陽市の片翼を担う活動と自負する城陽環境PS会議に於いて、年間3回の自然観察会を、郷土の野生生物の生息調査を兼ねたイベントとして開催してきました。例年2月に開催している古川流域の野鳥を中心とした観察会では、古くは1997年度から「城陽生きもの調査隊」のバードウォッチングや、環境学習指導の一環で古川小学校や西城陽中学校など周辺の学校の野外実習に赴いて観察してきました。
かつて野鳥の宝庫・巨椋池干拓田で野鳥観察を始めた1983年、公害ニッポンの名残を留めたヘドロ臭漂う古川にも、多くの水鳥たちが見られたことに驚いたものです。巨椋池干拓田を流れる古川を遡って城陽市に至る水系が、野鳥たちにとっては貴重な生息地であり、本流と水辺のヨシ原や雑草木、隣接する農耕地で1年を通して100種類を上回る野鳥を確認し、特筆すべき希少鳥類も10指に余りました。こうした基本台帳を元に観察会用の鳥類リストを作成して、参加者と共に追認記録を重ねてきました。
そして今年の観察会は参加者45名を数える盛会となって、用意した配布資料のガイドブックも1組1冊限定でポストカードも品切れ状態の嬉しい悲鳴です。(写真①②) それでも、カワセミ(写真③撮影・福井惇一君)を望遠鏡でゆっくり観てもらうことができ、レッドリストに掲載されているチョウゲンボウ(写真④)やクサシギ(写真⑤撮影・千田真大君)・ホオアカ(写真⑥撮影・福井惇一君)などの希少鳥類はじめ、早くもさえずりだしたヒバリの春告唄を添えた計35種類の確認は胸を張れる記録です。さらに、本来は旅鳥の準絶滅危惧種・アオアシシギ(写真⑦撮影…田中義則氏)が昨年からの厳冬期も古川で見られ、全国的にも稀で貴重な越冬記録のお土産まで追加されました。
こうしたイベントにたくさん参加してほしい年代のエコキッズ達と、次回の観察会での再会を約束しての記念撮影です。(写真⑧⑨) これまで観察会講師には、ナチュラリストの自慢の愛弟子・脇坂英弥君と岡井勇樹君たち権威あるアドバイザーが勤めてくれていましたが、今回の観察会には城陽環境PS会議が次代を託した期待のジュニアメンバーの中高生たちを講師陣に大抜擢しています。代表講師こそ田中義則さん(写真⑩左2)ですが、福井惇一君(同左)と中野響君(同左)が見つけた野鳥を望遠鏡でとらえて解説し、千田真大君(右2)は写真撮影での記録担当で、それぞれの責任を立派に果たしてくれました。
観察会アフターで一番に駆け付けたのは、当紙面でも報道された青谷梅林に隣接する調整池に飛来した準絶滅危惧種のホオジロガモの確認です。公式な記録では25年ぶりとなるお手柄の南城陽中学校1年生の中野響君は、筆者が指導する城陽市立富野小学校の生き物クラブの出身で、後輩たちに嬉しい報告ができます。また、千田真大君(写真⑪右)も南城陽中学校3年生だった昨年6月、守口誠さん(同中)から写真撮影の指導で訪れた梅林で、初めて撮影した鳥が本来は冬鳥のホオアカで繁殖の可能性もある大変貴重なビギナーズラックの発見でした。
ちなみに守口さんも2021年に古川でオオハシシギ(写真⑫撮影・岡井勇樹氏)を発見され、その年の観察会で参加者に披露することができ、「城陽市鳥類目録」にコウノトリに次いで210種類目として追加掲載されています。そして、今年になって西尾長太郎さんによって鴻ノ巣山で撮影された野鳥が、城陽市の211種類目となる新たな種であることが専門家への問い合わせで判明しました。
フィールドの賑わいが、コロナ終焉への予兆であることを願っています。次回、続報をお待ち下さい。