【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】

今年は夏場の猛暑で家族から「フィールド禁止令!」の勧告を受けたロートルナチュラリスト、既に城陽市や近隣市町村に侵入も危惧されていた桜や梅・桃に壊滅的な被害を及ぼす侵略的外来生物の「クビアカツヤカミキリ」も認められず、平穏な秋を迎えて今年度「城陽パートナーシップ会議」が製作する城陽生き物ガイドブックシリーズの第6弾となる「外来生物編」の編集に取り組んでいます。

本来、鳥や爬虫・両生類に希少野生動物全般の保護を願ってのフィールドワークにおいて、生態系を撹乱する外来生物の存在と、環境の変化で激増した一部の動物たちによる被害の実態を目の当たりにし、罪なき生き物といえども自然財産を守る手段として駆除もやむなしの英断から、捕獲ライセンスを得てハンターの仲間入りをして十余年が経ちました。水辺の土手に穴をあけ、野菜の食害もあるヌートリアでは、食用にもされず報奨金もないために捕獲メリットがなく駆除も進んでいませんが、川漁師でもある筆者は漁具のモンドリを用いて地道に間引き活動を続けています。かつてはヌートリア専用罠を考案したのですが、製作材料費が高くついて断念した経緯がありました。いつの日か製品化され陽の目をあびることを期待したいものです。

さて、活動報告が滞って久しいナチュラリストですが、今年最重要課題として取り組んできたクビアカツヤカミキリの継続調査と対策では、自身でも納得できるシーズンを送ることができました。来シーズンに向けても啓発活動と現地調査で貢献できることを願っています。これまで、フィールド探査での幸運な発見に後押しされ、郷土の希少野生生物の保護に役立つ資料の蓄積で貢献してきたと自負するロートルナチュラリストが、外来生物問題を最後のお勤めと頑張っています。

連載再開の今回、生き物ガイドブック・外来生物編の紙上報告です。製作本編では見やすく簡略化した編集が求められ、個々の生き物たちの解説に数々のエピソードも割愛ですが、そんな四方山話で綴る外来生物と迷惑動物白書を記す機会としています。来る11月30日の「第23回城陽市環境フォーラム」で完成報告のガイドブック・外来生物編の原本となる報告にお付き合い下さい。

◎歓迎されないエイリアン生物~郷土の自然財産・希少野生生物を駆逐する外来生物を考える~

外来生物は、本来その地に生息していなかった生物が定着し、在来の生き物たちに悪影響を与え生態系を撹乱する存在として問題視されています。その多くは人為的な移入によるもので、海外からペットとして持ち込まれたものや、輸入品などに紛れ込んでの渡来の他、日本の在来種の国内への移入にも生態系への配慮から「国内外来種」と定められています。

日本列島が大陸から分離して1万年、弥生時代に稲作と共に渡来したと考えられているスズメや、奈良時代にダイコンなどの野菜と共に大陸から運ばれたとされるモンシロチョウも外来生物と考えられますが、現在、生態系や人間社会へ悪影響を与えているのは、江戸時代末期の開国によって人為的な移入や独自に侵入した生物たちであり、法律上の外来生物の定義も「明治以降に日本に導入された生物種」とあります。

野鳥では、日本で初めて確認された鳥が自然渡来であるならば、一過性の記録であっても日本の野鳥に記録されます。かたや元飼い鳥が野外で観察された記録を「籠抜け鳥」、その内繁殖が確認されたものを「帰化鳥」と表し野鳥とは区別しています。そんな人為的に移入された外来生物であっても、佐賀県鳥のカササギや埼玉県鳥のシラコバトに、京都市のミナミイシガメなどは文化財として保護すべき天然記念物に指定されています。

それでも、ミナミイシガメが京都市の天然記念物に指定されてから40年を経た今年の1月、本来外来生物であることなどを考慮して見直された結果、指定解除となりました。これまで飼育や売買の禁止はもちろん、調査のための一時捕獲でさえ京都市文化財保護課に赴いてその旨を申請し、市長の承認を経て許可証が発行されていました。こうした面倒な手続きに、夜行性で観察も難しいミナミイシガメを調査する研究者もなく、2003年当時カラー写真一枚無い状態でした。そして、京都府のレッドデータブックでも「準絶滅危惧種」の希少種として守られてきたミナミイシガメが、一転して生息地から駆除すべき存在となったことには想いも複雑です。

同じような事例は滋賀県と北海道でもありました。昭和の初期、当時の農林省水産局が輸入し放流を推奨したアメリカ原産のウチダザリガニを、滋賀県では淡海湖に放して地元のシンボル・タンカイザリガニと称して80年間大切に保護してきましたが、近年になってやはり外来種として駆除の対象となり対立が続いているというものです。かたや台湾原産のコジュケイでは、大正時代に狩猟鳥として移入されましたが、同じく80年を経てこちらは日本の生態系に組み込まれた野鳥とみなされて市民権を得た経緯があります。

哺乳類では、1910年にマングースがハブの天敵として沖縄や奄美大島に放たれましたが、期待を裏切り琉球の希少在来生物たちを捕食して絶滅の淵に追いやりました。淡水魚でもボウフラ退治の蚊絶やし・カダヤシの放流は身近なメダカを絶滅危惧種へと駆逐しました。その他、食用に輸入されたウシガエルとその餌としてのアメリカザリガニ、釣りブームの負の遺産・ブラックバスに元ペットが野外で大繁殖したアカミミガメにアライグマ、これら侵略的外来生物たちの甚大な経済的被害は深刻です。こうした歴史に学び、自然財産である希少野生生物の保護は最優先課題ですが、同時にこれら外来生物の被害防除と駆除対策が緊急を要する命題であることが分かります。以下次号に。

◎外来生物概要
京都府では当初、レッドデータブックで希少生物と共に「要注目外来種」を記載していましたが、2005年より『外来生物リスト』として「被害甚大種」「被害危惧種」「準被害危惧種」「要注目種」と「情報不足種」に分類し、これら外来種と新たな侵入生物の情報収集に努めてきました。『入れない・捨てない・拡げない』の外来種被害予防3原則の啓発資料で、アライグマやヒアリ、アメリカナマズなどの被害の実態と、困難な駆除の現状から初期防除の大切さを知り理解を求めるものです。

そうした基本分類に観察頻度などの表記を付し、城陽市に関わりがある外来生物のリストの作成と主な外来生物32種類を選定してこれまで同様の形式でガイドブックを製作します。今回の外来生物編は鳥類から魚類に昆虫など分野が広いこともあって多くの人たちの協力を得て作成しています。そんな中から話題のミナミイシガメの記載と外来生物のトピックス写真解説をご覧下さい。

△ミナミイシガメ 要注目種 甲長15~20cm
2024年1月、京都市の天然記念物を指定解除となったミナミイシガメは、それまでの捕獲や飼育も禁止され保護されてきた京都府レッドデータブック・準絶滅危惧種の希少種が、生態系を攪乱する外来生物として駆除の対象に一転しました。そもそも中国や後に別種とされた沖縄県に生息するミナミイシガメが、京都市の一部に局所的に分布していること自体移入種であることを裏付けるものと思われますが、平安京の遣唐使渡来説などのロマンもあってか、唯一の生きた文化財の天然記念物に指定されたのは1983年のことでした。元来夜行性で観察も困難なうえ、天然記念物であるために調査の手続きや扱いの問題もあって長らくの空白期間がありましたが、近年のDNA研究の進展もあっての時代の流れで外来生物を浮き彫りにした結果となりました。昔から木津川水系で捕獲されていたミナミイシガメの大半はヤエヤマイシガメと改められた沖縄産であり、極まれに大陸産のミナミイシガメも記録されています。

写真
①DNA汚染と呼ばれるミナミイシガメ(左)とクサガメ(上)の交雑個体(右)見つかる!
②ヌートリアは長い巣穴を掘り、堤防や水田の畔に被害を及ぼす。
③漁具のモンドリでヌートリア捕獲も、鋭い歯で喰い破り脱することもしばしば。
④モンドリの獲物には、外来種のブラックバス・ブルーギルにウシガエルも。
⑤課せられた使命といえども、罪なき外来生物たちの駆除には心が痛む。
⑥駆除したアカミミガメを堆肥として有効利用する試みもなされている。
⑦外来生物が与える生態系の破壊と農業被害などを訴える啓発資料をフル活用。
⑧啓蒙活動では飼育が認められているアカミミガメの里親募集も行っている。
⑨捕獲したアライグマは、生きた教材として啓蒙活動にもひと役買っている。
⑩毛色の異なったアライグマの鑑定。病気などではなく色素欠乏の個体と判定。
⑪迷惑生物の相談窓口にも。時にマムシも緊急避難的処置の特例で引き取りに。
⑫スズメバチの巣の駆除では、殺虫剤を使わず珍味の蜂の仔を得ている