【第367号】郷土の自然財産・希少野生生物を駆逐する外来生物を考える

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【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】

2020年初頭から猛威を振るったコロナの影響は、フィールド派ナチュラリストの生活を一変させ、本分とする研究成果の発表の場が奪われ、環境問題の啓蒙活動もできない低迷期が続いてモチベーションを保つのもやっとの状態でした。ライフワークとする博物館に水族館や動物園のミュージアム巡りもできず、趣味を超えた生きがいとするローカル列車の旅も封印し、我が家名物・木津川産天然スッポン鍋を囲んでの懇親会も開催できない生活は川漁師を返上し、フィールド探査にも目標が描けず足が遠のきました。

年間最大行事と位置付ける所属学会での研究発表や京都環境フェスティバルでの活動報告も2019年度を最後に、2020年度には城陽環境パートナーシップ会議が製作予定していた「城陽生き物ガイドブック」シリーズ第3弾の昆虫編も見送られ、「城陽市環境フォーラム」も開催できる状況ではなかったのですが、城陽市と共催の最重要イベントでもあり、今回中止したら翌年以降の活動にも影響するとの熱い想いを受けてリモート配信での記念講演会開催を決定しました。

コロナ禍の暗い社会情勢の中、城陽市に飛来して明るい話題を提供してくれたコウノトリ・ひかりちゃんの話題がタイムリーと、会の顧問でもある脇坂英弥氏に古来より瑞祥の福鳥と崇められてきた特別天然記念物のコウノトリにまつわる講演をお願いし、城陽市の環境資料ともなる記録を残すことができました。やはり翌2021年もコロナ禍の影響でリモート配信となった第20回の節目となる城陽市環境フォーラムの記念講演では、京都工芸繊維大学の伊藤雅信教授に「昆虫に学ぶ城陽市の自然環境」をテーマにお話頂きました。2008年5月に城陽環境パートナーシップ会議主催の自然観察会の指導に来て頂いた木津川河川敷で、カイコの原種であるクワコを発見されたことから飛躍的な研究成果に発展した経緯があり、環境先進都市・城陽市の取り組みに最大級の賛辞と共に今回も郷土の環境資料となる記録が残されました。

筆者にとっての活動母体・城陽環境パートナーシップ会議のコロナ禍においての環境フォーラム開催の英断に、自慢のナチュラリスト仲間たちの協力を得て元気をもらい、フィールド派復活で日常生活が戻りました。この間、和束町の野生生物生息調査に携わり、新種登録されたナガレカマツカの発見や、コウモリ調査でも大きな成果を得ています。そしてようやく今年から京都環境フェスティバルも復活し、日本爬虫両棲類学会に日本鳥学会でも研究成果の発表で復活を願うロートルナチュラリストです。

まだまだコロナ禍以前のような忙しさには及びませんが、教育現場や環境イベントにもお声がかかって、配布資料や子供たちに披露する生きた教材の採集でテンションも上がりがぜん元気になりました。中でもガイドブックは喜ばれ大変重宝しています。有効活用と何より胸を張れる内容が自慢の城陽生き物ガイドブックも第6弾を迎え、11月30日の第23回城陽市環境フォーラムで完成披露致します。

前回に引き続いての外来生物の記載とトピックス写真解説をご覧下さい。

 

◎外来生物概要

生態系を撹乱する外来生物の深刻な被害も、人々が日常生活の中で実感することのない他人事としてなかなか理解を得られない反面、駆除に対しての根強い反論もあって外来生物と有害鳥獣を巡っての対策には法的な拘束と共に困難な問題が山積しています。たとえば、狩猟鳥のスズメやカラスといえども勝手に捕獲や飼育することはなりません。スズメのひな鳥を保護して自然に還した美談をSNSに投稿したタレントが書類送検された例など、「善意の不幸」と呼ばれる事例も多々あります。「ヒナ鳥を拾わないで」のキャンペーンも、時と場合、鳥の種類にもよりけりです。ツバメなら元の巣に戻し、希少な鳥類では京都府の指定獣医師に託しますが、それでもタカやフクロウなどの猛禽類の受け入れ病院はごく限られています。また、雨の夜に飛べないフクロウを見つけて動物病院に行くも断られ、何軒目かで処置頂いたものの高額な診察料を支払ったと聞きました。こうした行き違いを避けるためにも、先ずは公共機関の担当部署や110番への連絡で指示を仰いで対処いただくのが賢明です。

同様のことでは、外来生物といえどもむやみに捕獲や殺傷することは禁止されていて、ワニガメやカミツキガメが釣れた時、リリースは厳禁ですが移動も禁止されています。最近もブラックバスを生きたまま車で運んでいて40万円の罰金が科せられました。その場で殺すのも動物愛護法で50万円以下の罰金刑と法の矛盾もありますが、やはり先ずは警察などへの通報で、緊急避難的処置で警察や府の担当部署へ持ち込むこととなります。

かつては国や学者が推奨して日本に持ち込んだ有益生物も、期待を裏切って有害生物となったのが外来生物であり、その被害は在来種との競合による駆逐や捕食、感染症や寄生虫の媒体に、種によっては咬傷や毒性の危険の他、農業被害や家屋の破壊など生態系の撹乱だけではなく環境や人間社会にも大きな影響を与えている現実があります。そんな外来生物にも、日本国内の他の地域から移入された在来種を「国内外来種」と呼んでいます。北海道では1970年頃からペットとして持ち込まれたカブトムシが野外で繁殖するようになり、現在では道北や道東に広く分布しています。これがたとえ絶滅が危惧される希少生物の保護手段であったとしても、本来の生息地外への人為的な移入はリスクがともない推奨できるものではありません。

そんな「国内外来種」、木津川におけるヌマチチブの記載に、近年確認されるようになったソウシチョウ、逆に見られなくなりつつあるホソオチョウをご覧下さい。

〇ヌマチチブ 要注目種 全長7~15cm
ヌマチチブは食用魚として捕獲され、塩焼きやから揚げ、吸い物やつくだ煮の原料とされています。木津川では1995年頃から確認されるようになり、日本の他の地域から琵琶湖に持ち込まれたものが宇治川水系から広がった国内外来種であることもDNA研究によって知られています。支流でも見られるようになった繁殖力旺盛なヌマチチブの今後の動向が注目されています。

△ソウシチョウ 被害危惧種 全長15cm
古く江戸時代から飼い鳥として輸入され、雌雄で鳴き交わす「相思鳥」が名前の由来で、日中国交正常化にともない輸入が激増した1980年代からペット販売業者の遺棄などで定着しました。雑食性で、天然自然林に生息するためウグイスやオオルリなどへの影響が危惧されていて、特定外来生物に指定され「日本の侵略的外来生物ワースト100」の選定種にもなっています。城陽市では、2020年に鴻ノ巣山で確認されて以来増加傾向にあることが報告されています。

×ホソオチョウ 要注目種 全翅長25~35mm
朝鮮半島原産のホソオチョウが木津川で発見されたのは1993年のことでした。蝶マニアが韓国から違法に持ち込んだものが放たれ、その子孫が人為的に各地に移入されたと考えられています。城陽市の木津川堤防には幼虫の食草であるウマノスズクサが生え、ホソオチョウに適した環境でかつてはたくさん観察できましたが近年はめったに見られなくなりました。目に見えた被害もないきれいな蝶であっても、在来種への影響を考えるとやはり生息定着には否定的な結論となります。

写真
①ヌマチチブ
②ソウシチョウ
③自然観察会で確認されたときは大歓声をあびたきれいな蝶も残念な外来種でした。
④自慢の鳥友・富士鷹なすびさんのイラストによるヒナ鳥のキャンペーンポスター。
⑤猛禽類の救護を受け入れる数少ない京都府指定の大和動物病院・高橋尚男先生とは、希少鳥類の保護放鳥記録も十指に余ります。
⑥警察署からの鑑定依頼では、密猟された野鳥の他、カミツキガメにワニガメ、イグアナでは計4回引き取っています。
⑦京都環境フェスティバルがコロナ禍から復活し、城陽環境パートナーシップ会議の活動成果のこのうえない発表の場と位置付けて今回も盟友たちと参加しました。
⑧同じく運営委員の水野尚之・京大名誉教授には、ワニガメを引き取って飼育観察を願った経緯から、2013年の環境フォーラムで外来生物問題を取り上げています。
⑨コロナ禍の中開催された城陽市環境フォーラムで、リモートで記念講演を頂いた伊藤雅信・京都工芸繊維大学教授。
⑩脇坂英弥君の野鳥のDNA解析の指導教官だった伊藤雅信先生を、当時の京都市の天然記念物・ミナミイシガメの調査にも駆り出して貴重な戦力に。
⑪ナチュラリスト仲間たちとスッポン鍋を囲んで生き物談義が弾む懇親会が何よりの楽しみ。城陽生き物ハンドブック製作で監修頂いた各分野の名だたる先生方と。
⑫ガイドブック・外来生物編と共に生き物ハンドブックDVD版の改訂にも着手しています。

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