奈倉有里さんが受賞/宇治市 第32回紫式部文学賞
紫式部文学賞を受賞した奈倉さんと受賞作『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』

宇治市は6日、第32回紫式部文学賞の受賞作品に、ロシア文学者・奈倉有里さん(39)の『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』(イースト・プレス、2021年)を選んだ、と発表した。贈呈式は、同日発表された紫式部市民文化賞と合わせて、11月27日(日)午後1時30分から、宇治市文化センター小ホールで行われる。
奈倉さんは1982年東京都生まれ。19歳の時、留学のためロシアへ単身渡航。08年、日本人として初めて、ロシア国立ゴーリキー文学大学を卒業。東京大学大学院で博士号(文学)を取得。研究分野はロシア詩、現代ロシア文学。ミハイル・シーシキン『手紙』など訳書多数。
今回の受賞作は、自身の留学体験記をベースにしたノンフィクション。個性的な学生や教授たちとの出会いを回想しつつ、周辺国との紛争を含めたロシアの社会情勢と、そこで暮らす人々の想いを、文学研究者の視点から綴った作品。
この日、源氏物語ミュージアム講座室で開かれた記者発表で、選考委員会の鈴木貞美委員長(国際日本文化研究センター名誉教授)は「読み物として楽しく読める一方、ロシアでの国際情勢や文化が浮き彫りになってくるような素晴らしいエッセイになっている」と絶賛した。
奈倉さんは「トルストイが好きで、雪が好きで、ロシアに行って詩が大好きになりました。文学は、社会の閉塞感や恐ろしい戦火の予感を察知し描きとる可能性を持つものであることも学んできました。そして今、その恐怖を乗り越えていくのもまた、言葉の役割なのだと痛感しています」とコメントを寄せた。
紫式部文学賞は、宇治市が「源氏物語」宇治十帖の主要舞台であることから、市民文化の向上や女性文学の発展を目指して1991年に創設した。
作者が女性であること、昨年1年間に刊行された日本語の作品であることが要件で、受賞者にはクリスタル像と副賞100万円が贈られる。
今回は、昨年1年間に発表された小説28点、随筆9点、評論など4点、詩集など14点、ノンフィクション1点、翻訳その他2点の合計58点から選考した。