【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
キャッチコピー「春は城陽から」の梅まつりが、今年も2月23日から青谷梅林で始まります。ナチュラリストにとっても、梅のつぼみのほころびを愛でながら、ウグイスの初音を求めてのフィールド探索は、冬眠から目覚めた生き物たちとの再会を思い描いて心が弾む『春到来!』を実感する待ち望んだ季節です。
今や日本爬虫両棲類学会での研究発表を年間最大行事と位置付けるナチュラリストは、ダルマガエルとヒキガエルに代表される京都府南部のカエル類全般の生息状況を明らかにし、一昨年に記録更新された日本一の大スッポンのリベンジを果たして胸を張って今年度の大会に臨みたいと願っています。本来はシーズンオフの正月も、野鳥調査のかたわら産卵時期が早いアカガエル類の予備調査として卵塊の発見に努めてきた結果、2月の第一週に城陽市と宇治田原町で確認することができ、次いで京田辺市と和束町・木津川市でも産卵を確認しています。
春告げ鳥のウグイスが、それまでの地鳴きから「ホーホケキョ」ときれいにさえずる第一声を初音・はつねと呼び、古来より春の風物詩として和歌にも詠まれてきました。城陽市の木津川河川敷では例年3月1日で、青谷梅林の梅まつりにウグイスたちも初音のエールを贈っています。是非、耳を傾けてご確認いただきたいものです。
こうしたウグイスの初音前線は、夏鳥のツバメの渡来前線から桜の開花前線へと引き継がれ、水温む季節は生命の輝きに満ちた世界へと移ろいます。そして、全国のカエルの研究者たちによる全国一斉調査から、ニホンアカガエルとヤマアカガエルの「産卵前線」も見えてきました。昨年来、雪が降る中、氷の張った池や防護柵で入れない田んぼの水辺を散策して歩いた継続調査の果てに確認した産卵は、関西でも最も早い時期の記録となって報われています。
かたや野鳥分野では、頼もしき鳥仲間たちに全権委任して楽しみながらの野鳥の生息調査ながら、希少鳥類たちの確認ラッシュに思わぬ大珍鳥の出現もあって話題に事欠かないホットな冬を過ごしました。相変わらずはかどらない「鳥類目録」の改訂と「野生生物生息リスト」の集計に時間をとられながらも、フィールドと共にミュージアム巡りに観察会やイベントにと奔走するナチュラリストの、厳冬期の活動の一端を紹介する機会としています。
新年度を待たず、夏休みの「夜の昆虫観察会」や「水辺の生き物採集」の嬉しい依頼も届いています。シーズン本番に向けてテンションもMaxのナチュラリスト、シーズンオフ?のホットなフォトレポートにお付き合い下さい。
◎写真で綴る活動報告
初めに、小学校三年生にして昨秋の日本爬虫両棲類学会大会の研究発表に名を連ねた松井優樹君(写真①中)は、今年も週末ごとの調査やイベントに参加し、学校が早く終わる平日もフィールド調査に同行して貴重な戦力に育っています。そして、やはり小学生の頃から野鳥の標識調査に参加し、日本鳥類保護連盟から「子ども鳥博士」に認定された経歴のはえぬき・岡井勇樹君(同右)は、野鳥調査と共に自然観察会の指導を託しています。
1月26日に宇治田原町でアカガエルの産卵調査の折に優樹君と見つけた希少鳥類のアオシギ(写真②撮影・岡林猛氏)も、頼もしい後継者による追認で記録にも重みがでました。ちなみに、もう20年余りも前に田原川でアオシギを発見した時、東京の森岡照明さんや愛知県の山形則男さんといった高名な野鳥カメラマンたちが撮影に来られたことでもその希少性が伺えるでことしょう。
もうひとつの珍鳥情報は、城陽生きもの調査隊所有の青谷「くぬぎ村」で、昨年に自動カメラで撮られたミゾゴイというサギの仲間です。世界で千羽に満たないといわれる森林性の夏鳥で、周辺で営巣している可能性もあり、やはり自慢の愛弟子で鳥類学者の脇坂英弥君(写真③中央)を中心に調査が進められていいます。古巣の調査も始まり、今年の渡来を心待ちにしています。あらためてのミゾゴイ報告をお待ち下さい。
1月27日には鳥類標識調査見学会が開催され、他では公開されていないカスミ網による捕獲状況や環境省の金属足環の装着を披露しました。優樹君(同左2)にとっては和束町に次いでの二度目、幸運の青い鳥・ルリビタキがかかってにっこりです。この日の午後、巨椋池干拓田のケリの調査を変更して宇治田原町のアオシギ探査に出向き、脇坂英弥君と竹内康先生、岡井昭憲先生たち共同研究者全員で確認でき、ミゾゴイ調査に幸先の良いスタートとなりました。
脇坂英弥君(写真④中央)は、2月3日の城陽環境PS会議主催の古川観察会にも兵庫県の田中寿樹さん(同左)と共にメイン講師を務め、地元の鳥垣咲子さん共々実りある観察会を演出してくれています。もう20年近く続く古川自然観察会、29人の参加者との記念撮影の写真に、絶滅危惧種・クイナの記録が添えられてホッと一息です。(写真⑤)
午後のアフターの調査は、全国一斉シギ・チドリ類の調査を託された脇坂君が、正月に巨椋池干拓田でエリマキシギの幼鳥を観察した追認で、日本初?の越冬記録を実証すべく探しましたが、残念ながら全国規模の記録に添えることはできませんでした。それでも、一過性の迷鳥記録とはいえ、鳥類目録に貴重な情報記録が加わりました。現在、鳥類目録の改訂を進めている和束町の調査でも、クイナにオオタカ・ハヤブサにアオバト・トラツグミ・クロジ・オオアカゲラといった絶滅に瀕する希少鳥類たちの現認者に鳥類学者の脇坂君が名を連ねることによる資料価値はたいそうなものと感謝しています。
木津川マラソン開催の時期、名古屋からの遠来の友を迎えてもこの季節は野鳥観察です。木津川で引き揚げた86㌢のオオサンショウウオの取材を機に35年来の付き合いのプレスマンの川崎宏三さん(写真⑥右)には、かつての日本鳥学会の相棒の上野きよ子さん(同中)共々宇治川の水鳥たちを案内し、オシドリをゆっくり観てもらいました。マラソン前夜祭のスッポン鍋を囲む激励会のエピソードはスッポン編に譲るとして、これら鳥に関する雑多な情報は大なり小なり尽きることはありません。
アカガエルの卵塊確認に続いて、2月3日には早くも死んで間もないヤマカガシの屍を優樹君が発見しました。(写真⑦⑧) これまでの1月17日のシマヘビと1月30日のアオダイショウに次ぐ記録で、冬眠中にイノシシやアライグマの被害に遭ったものと推測しています。将来が楽しみな9歳の愛弟子が、これらフィールドで得た成果を携えて、学会の研究発表に登壇できる日まで元気でいたいと願う今日この頃です。共に成長を見守って下さい。