【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
「令和」の新時代を迎えました。
日頃は「自然界のメッセンジャー」を豪語し、野生生物の保護と自然環境保全を声高に提唱するナチュラリストも、福祉や教育問題など、人間社会の重要課題に優先すべきものでないことは重々心得ています。社会的弱者に優しい文化的で心豊かな人々の暮らしから、「郷土の自然財産」として希少生物の保護と生息環境保全の意識が育まれる「令和・ニッポン」であることを期待しています。
5月10日から始まる愛鳥週間に6月の環境月間も、平和な社会にこそ根付くイベントであることを考えると、ナチュラリストの活動も平和運動としての再スタートです。愛鳥週間恒例の「城陽パートナーシップ会議」主催の自然観察会は、5月12日の日曜日に山城大橋下の木津川河川敷で9時から開催されます。翌週19日には、今年も太陽が丘公園ファミリープールの水抜き跡で、水棲昆虫調査観察会です。
6月も、もう20年来第一土曜日に開催してきた城陽市のカエルの観察会に、生物調査に携わっている相楽郡和束町の第3回自然観察会、城陽市・今池川の水辺の生き物観察会にホタルの観賞会と続きます。この間、理科教育の先生方の研修会に聴き取り調査懇談会、「南山城鳥類目録」完成報告フォーラムと、多忙なイベントの合間もフィールド探査に待望のスッポン漁も最盛期を迎えます。
元号が変われど、ナチュラリストのライフワークは昭和の時代から変わらぬスタイルで始動しました。フィールドノートの平成・最終ページにはフクロウの鳴き声確認を、令和の見開きにはペア標識したケリの観察を記しています。新しいページにもたくさんの生き物たちの記録が綴られることを願う新時代の初報告は、令和の時代に再会したい平成のお宝生物たちの記録から雑多な話題をお届けします。

◎瑞祥の霊亀・蓑亀と南山城のお宝生物たち

先ずは元号に名を遺す南山城ゆかりのお宝生物の話題です。
ナチュラリストの活動母体・城陽環境パートナーシップ会議が2010年に作成した「城陽生き物ハンドブック」の裏表紙と、昨年度の「城陽生き物ガイドブック・希少生物編」で、1999年に木津川で見つかった蓑亀・ミノガメを紹介しています。(写真①②蓑亀発見のマスコミ報道がきっかけで、関連学会に招かれて報告したのが本格調査への始まりでした。)
甲羅に緑毛が生えたイシガメは、古来より瑞祥の霊亀・蓑亀と呼ばれ、中国では龍・鳳凰・麒麟と共に四大幻獣神と崇められているたいそうな生き物でした。仏教の経典でも角のあるウサギと共にあり得ない例え「亀毛兎角」と称され、日本でも幻の生き物・ミノガメを食べて二百歳まで生きた三井寺の和尚の伝説や、水戸光圀が偕楽園の池に放して愛でた話などと共に、蓑亀の出現で元号が霊亀や宝亀などに改められたとあります。
また、蓑亀と共にアルビノと呼ばれる色素異常の突然変異個体の白いカメやスッポンの他、甲らに「大宝・天平」の文字が浮き出た亀の発見などでも改元されています。大化に次ぐ白雉・はくちの元号も、神の使徒とされる白い生き物の出現に由来する白キジが帝に献上されたことに由来しています。
木津川での蓑亀発見に続いて、日本一の大スッポンを捕獲し、平安神宮の神苑と呼ばれる池の調査ではやはりアルビノの黄金のスッポンを引き揚げています。唯一無二の日本一!の称号と、自然界では100万分の1とも云われる天文学的数値の突然変異の、後天的・先天的な奇跡のご利益を得て、次なるは幻のUMA・ツチノコ発見でロートルナチュラリスト有終の美を飾りたいものです。令和の新時代にも、これら奇跡の生命を射たお宝生物たちとの幸運な出会を祈願しています。(写真③④白蛇のループタイに兎の毛を使用した蓑亀と黄金のスッポン、ツチノコたちオーダーメイドのお宝生物グッズに囲まれ、再び日本一の大スッポンリベンジ!の宣言です。)
平成元年の1989年、マスコミで「フィールドの女神に愛されしナチュラリスト…」と紹介されたことが幸運の呼び水となって、野鳥分野のみならず、たくさんの希少生物の発見に恵まれてきました。コミミズクにオオタカ、ケリにシギ・チドリ類にコアジサシなど、所属学会で研究発表をしてきた野鳥の生態と保護活動の成果と共に、木津川での天然記念物の淡水魚・イタセンパラ発見のニュースが全国に発信されています。(写真⑤専門家をしてパフォーマーの虚偽と思われた大発見も、警告管板があだとなり、密漁によって絶滅の憂き目に…)
以後、当時の日本動物植物専門学院の野外実習授業や小中学校の野外学習指導、各種団体の自然観察会に於いても数多くの幸運な発見に恵まれ、貴重な公式記録の数々を残すことができました。10年ごとに大きな周期を迎え、カメ類の研究者の仲間入りのきっかけとなった1999年の木津川の蓑亀に続いて、平安神宮でも黄金のスッポンの他、京都市の天然記念物・ミナミイシガメの生息・繁殖の確認に、30㌢ものウンキュウと呼ばれるイシガメとクサガメの巨大交雑個体を見つけています。
2009年には、日本画の上村淳之先生の「花鳥の郷」プロジェクトに招聘されたことに始まる南山城村の生物調査で、絶滅種のコガタノゲンゴロウの74年ぶりとなる再発見に代表される幸運な発見が相次ぎました。京都府では野生絶滅とされていたカワバタモロコに、京都府南部では初となるホトケドジョウの絶滅寸前種2種類の生息確認は特筆ものです。当時、南山城地方では公式な生息記録がなかったアズマヒキガエルやアナグマから、観察会で求愛行動・ディスプレイが確認されたクマタカ、中学生の野外実習授業で捕獲したヒメミズカマキリでは10数年前の深泥池を最後に京都府では確認が途絶えていました。(写真⑥⑦上村淳之先生の白蛇御卓布のご利益で、コガタノゲンゴロウにヒメミズカマキリはじめ、南山城村に生息するたくさんの希少生物たちを記録することができました。)
やはりその前年に、珍蛇御三家のタカチホヘビ・ジムグリに次いで発見したシロマダラや、京都府の希少野生生物に指定の絶滅寸前種のダルマガエルの再発見と城陽市古川へのボラの遡上、更にはハクビシンなど外来生物の増加傾向に被害状況といった記録を留めてきました。これら平成の30年間の継続調査の記録を基にした「南山城鳥類目録」と「野生生物生息リスト」の改訂作業も終了し、最新2019年度版の公開ももうすぐです。10年周期のバイオリズムも最高潮の今年、ツチノコ発見の懸賞金総額3億円の使い道を考えている昨今です。
平成最後のフィールド調査は、脇坂英弥君(写真⑧右)に竹内康先生、岡井昭憲先生たち20年来の鳥仲間とケリの標識調査で締めくくりです。そして、和束町では待望のヤマセミと再会し、宇治田原町のフクロウに祝福されて令和の新時代を迎えました。(写真⑨) だまだロートルとは云わせない、気力充実のローカルナチュラリストからの朗報発信にご期待下さい。

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