【脇坂英弥(環境生物研究会・巨椋野外鳥類研究会)】
◆出発
「隣の席の人はいますか~」
学生の頃の修学旅行では、担任の先生やバスガイドさんからこんなアナウンスが車内に響いたものです。まさか大人になってから、このようなアナウンスを耳にするとは、懐かしいやら照れ臭いやら。4月21日、城陽環境パートナーシップ会議主催の自然学習研修会として、城陽市の大型バスで大阪府の「きしわだ自然資料館」へ訪問することになりました。参加者は期待を胸にバスへ乗り込みます。飲食は禁止ですよ、お手洗いは今のうちに行っておいてくださいね、主催者のスタッフの皆さんは参加者のお世話に多忙の様子です。今回私は初参加ながら講師として同乗させていただくことになりました。
きしわだ自然資料館には、何度もうかがっているし、何より資料館の風間美穂学芸員は日本鳥学会の研究仲間であり、兵庫県立大学大学院に在学時の後輩にあたります。中川宗孝先生にそのことをお伝えしたところ、自然学習会の講師という大役を担うことになり、嬉しいやら緊張するやら。これまで研修会としてどこへ見学に行ったのか、どんな学習を受けてきたのかと中川先生から聞き取り、頼れる後輩の風間学芸員にメールでやり取りしながら打ち合わせを重ね、いよいよ当日を迎えることになりました。
「みんな揃いましたね、では出発しま~す」
バスはスタート地点の城陽市役所をゆっくりと発進しました。目指すは「だんじり祭りの町・岸和田」です。
車内では城陽市役所環境課事務局の竹谷千代さんから注意事項とスケジュールの確認があり、その後は城陽環境パートナーシップ会議・自然部会の井手邦彦部長より施設の概要の説明がありました。そして中川先生の講話、脇坂の自己紹介と野鳥クイズへとプログラムは進んでいきます。移動中であっても決して時間を無駄にしない濃密なスケジュールですが、もちろん参加者は真剣な眼差しで話に聞き入っており、あまりの熱心さに圧倒されそうです。野鳥クイズが最終問題に差しかかるころに、バスはタイミングよく目的地である「きしわだ自然資料館」に到着しました。
◆館内見学
資料館の正面玄関を入ると、岸和田に生息する淡水魚や海水魚が展示されている水槽と、本日ご案内くださる風間美穂先生がお出迎えくださいました。バスの中で「風間先生とはどこそこでお世話になり…」「風間先生のご専門はカイツブリという鳥で…」(写真①)などなど、中川先生からも城陽市文化パルクの資料館のイベントでご協力いただいた風間先生の楽しいキャラ紹介もあったので、参加者の皆さんは初めて会ったとは思えないほど親近感を覚えてくださったようでした。
簡単な挨拶を済ませると、早速、館内の見学のスタートです。約30名の参加者を2チームに分けて、それぞれに資料館の解説スタッフがついてくださいました。最上階の3階には蕎原コレクションが展示されていますが、触ることのできる標本が展示されているのは、この資料館のおすすめポイントのひとつ。展示室に入るやいなや、ホッキョクグマとホワイトライオンが勇ましいポーズで展示されています。スタッフの方から「優しく触れてみてください!」とのアナウンスに、子供も大人も標本にそっとタッチ。迫力満点の猛獣に触れ、見た目だけでなく触感として哺乳類の毛並みや形を学習できました。
展示スペースには、ジャガーなどの肉食性の哺乳類が所狭しと展示されており、その迫力に感激です(写真②③)。「ゾウは大きすぎるので、子供のゾウだけ展示しています」という説明に、展示室は笑い声に包まれました(写真④)。
2階には、キシワダワニとモササウルスの骨格標本が展示されています。驚くことに太古の岸和田の地には、約60万年前にキシダワニ、約8000万~6500万年前にモササウルスが生息していたことが化石の分析結果から明らかになったとのこと。モササウルスと言えば、映画「ジュラシックワールド」にも登場した獰猛な海棲の爬虫類類です。国内に、しかも身近な大阪府の岸和田市に生息していたことを知り、当時の様子を想像するだけでロマンを感じずにはいられませんね(写真⑤)。
そして1階の研修室に進むと、本日のメインイベントである「チリメンモンスター体験」の準備が整えてありました。研修室に広がる磯の香り。これは大量のチリメンジャコから漂うものです。このチリメンジャコは選別をしておらず、この中から「レアな魚介類を探す」というのがミッションだと説明を受けました。「チリモン」の愛称で人気を博しているこのイベントの一番人気は、なんといっても「タツノオトシゴ」。それ以外にもタコやイカ、タチウオ、カワハギなど、人気キャラが隠れているかもしれないとなると、徐々にテンションが上がってきます。大きなトレイに山盛りにされたチリメンジャコから、お気に入りのレアキャラを探すのは大人も子供も関係ありません。もちろん知的好奇心の旺盛な参加者は、近くを通るスタッフを捕まえては「これは何ですか?」との質問攻撃を浴びせ、研修室は活気に溢れています。最後に、自分だけのコレクションをカードにお気に入りのチリモンを貼りつけ、オリジナルカードの完成です。夏休みの自由研究でもおなじみになった「チリメンモンスター」発祥の地で、思い出深いお土産を持って帰っていただけました(写真⑥⑦)。
この日に使ったチリメンジャコは2017年11月に大阪湾で水揚げされたものでしたが、その中から記録されたのは、カタクチイワシ、エソ、タチウオ、フグ、カサゴ、ハタ、アジ、テンジクダイ、ダルマガレイ、イソギンポ、カワハギ、ベラ、サバ、ヨウジウオ、クロサギ、ギンポ、コチ、チゴダラ、ホウボウ、ニジギンポ、イカ、タコ、コブシガニ、シャコの24種類。風間先生がホワイトボードに書き込みながら、それぞれの種類のモンスターを解説してくださいました(写真⑧)。
◆岸和田漁港
資料館での見学が終わると玄関先で記念撮影をパチリ(写真⑨)。そしてバスに乗り込み、引き続いて風間先生のご案内で次の目的地である岸和田漁港へ移動しました。
海風の心地いい漁港では、地元の漁師さんが底引き網で水揚げしたばかりの魚介類を見せてくださいました。大きな籠には、アカエイ、イシガニ、テッポウエビ、シャコ、アカガイ、ヒトデなどがびっしり。これら水族館や鮮魚店でしかお目にかかれない魚介類を、ワイルドにバサッと広げて観察しました。海のない城陽市民には物珍しいものばかりで、参加者は大はしゃぎです。勇敢な参加者は素手で、恐々の参加者はトングで触れながら、魚介類の観察をじっくり堪能できたのでした(写真⑩⑪)。
楽しかった自然学習会もいよいよエンデイングの時間を迎えました。名残惜しくも、お世話になった資料館のスタッフの方々に大きな拍手でお礼を述べました。
帰りのバスでは、井手部長の考案されたネイチャークイズに挑戦。間もなく、バスは城陽市役所の駐車場に到着。参加者の皆さんは疲れた様子も見せず、笑顔で帰路につかれました。城陽市では体験できない「海の生態系」について学ぶ機会を設定し、たいへん有意義な研修会の大任を果たせてホッとしています。参加者の皆さん、本当にお疲れ様でした。これからの自然観察会と研修会も楽しみですね。
◆アフターファイブはケリ調査へ
解散のあと、用事のために足早に家路へ急いだ私ですが、中川先生と兵庫県からお越しの田中寿樹さんは、その後にケリの調査のために久御山町へ直行し、そしてケリの営巣状況を調査したというのですから驚きです。アフターファイブの時間も決して無駄にせず、私の研究のサポートのためにフィールド調査に臨まれたおふたりには頭が下がります。
田んぼには田んぼの生態系があります。人が作り出した田んぼという環境は、今では多くの生き物がすみつき、そして激しい生存競争を繰り広げている貴重なハビタット(生息地)です。城陽市、宇治市、京田辺市、久御山町の田んぼには、ケリとタマシギが巣作りと産卵のためにやってきます。今シーズンはこの2種の繁殖生態をきちんと調査しなくてはなりません。
そしてもうひとつ、忘れてはならないのがクヌギ村に現れた「幻の珍鳥・ミゾゴイ」の繁殖確認調査です。昨年に無人カメラに映ったミゾゴイが城陽市の森林に営巣していたとなれば、これほどホットなニュースはありません。まだ未解明部分の多いミゾゴイの生態解明に貢献できる観察記録を収集することも課題です。
4月28日に中川先生、竹内康先生、脇坂の3名でおこなった夜間調査では、残念ながらミゾゴイの鳴き声はありませんでしたが、それに代わって「ゴロスケホッホー」と闇夜の森に響く声の主がありました。そうです、想定していなかったフクロウの声を確認するという幸運に恵まれたのでした。声を聞いてしまっては無視することもできません。城陽市のフクロウの分布調査や繁殖場所の整備といった新たな活動テーマが生まれたことは言うまでもありません
ケリ、タマシギ、ミゾゴイ、フクロウ…。令和元年は、昼夜関係なく野鳥を追いかける、そんな研究者冥利につきる一年が過ごせる予感がしています。城陽パートナーシップ会議の皆さんのご理解と協力を得て、中川宗孝先生を中心に、岡井昭憲先生、勇樹さん親子に竹内康先生共々鳥類分野の資料化も着々と進んでいます。これからの続報にも、どうぞご期待ください。