【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
5月に始まった令和の新時代、希少野生生物たちの保護と生息環境の保全に役立つことを願って作成を続けてきた「鳥類目録」と「野生生物生息リスト」も、郷土の自然財産の基礎資料たることを考えると、平成の改訂版にとどまらずに新規の詳細情報盛りだくさんのファイナル資料の完成を目指して気力充実の日々を過ごしています。
愛鳥月間の5月に令和の幕開けを迎え、頼もしい後継者・脇坂英弥君のサポーターとして野鳥調査に奔走し、ナチュラリストの鳥類分野でのお勤めからも解放されて気持ちの上でも一段落しました。今後は、野鳥資料に優るとも劣らない生き物全般の資料の充実と、目的とする保護に活かせる活用を考え、まだまだ自分でも出来ることがあるとの想いで元気にフィールド活動を続けられることを願っています。
気軽に始めたバードウォッチングで、幸運な数々の発見に恵まれ、しばしばマスコミで取り上げられたことが公的意義を有する野鳥の生息や生態記録の裏付けとなってきました。日々の観察記録の野鳥リストは、その都度追加と上書きを重ね、文献調査に聴取記録を添えた「鳥類目録」として1983年度より随時公表しています。
日本鳥学会に於いては、1999年度の東京大学大会で、それまでの南山城地方の5市6町1村と巨椋池干拓田や木津川、京阪奈丘陵など5フィールドの野鳥の生息状況を記した「南山城鳥類目録」を発表し、B5版36頁の冊子550部を作成して配布しています。京都府のレッドデータブックが刊行された2002年度の日本大学大会では、レッドリストに掲載された希少鳥類の詳細記録をはじめ、日本鳥学会大会を舞台に城陽市・宇治田原町、南山城村版など、その地に於ける野鳥の地方名・俗称や近年の増減傾向に特筆すべき記録など各地の特性を添え、バードウォッチャーから鳥類研究者までのニーズに応えられる資料としてきました。
宇治市の「市の鳥制定」の折には、都道府県鳥にみる制定カテゴリーに照らし合わせ、学術的・地域的に希少で貴重な種や身近で見られる野鳥たちにも生態系に於ける役割と農業被害など、当時の巨椋野外鳥類研究会の顧問の中村司・日本鳥学会会長に指導を仰ぎながら、文献記録の掘り起こしと共に側面からの情報も検討材料とした資料の作成で鳥類研究者としての大任を果たしました。また、現京田辺市の「薪誌」に於いても筆者の鳥類目録が記載され、近年の「城陽市生き物ハンドブック」まで、鳥類と共に哺乳類から両生・爬虫類に淡水魚に至る生息リストが陽の目をみています。
現在、和束町の野生生物生息調査に携わり、古くは1999年度版鳥類目録の記録に、隣接する南山城村と宇治田原町の近年の調査結果を参考に、環境生物研究会の仲間たちと共に楽しいフィールドワークを続けています。おそらくナチュラリストの最後のお勤めとなるであろう和束町の生き物調査で、自身でも納得のいく成果を天寿を全うされた鳥学会の父・中村司先生のご霊前に報告することを使命としている昨今です。
南山城鳥類目録の変遷は、恩師に見守られ、理解ある仲間たちの協力あっての賜物です。ナチュラリストの代名詞たる郷土の環境資料の話題にお付き合い下さい。

◎ナチュラリスト仲間の共有財産・鳥類目録

巨椋池干拓田のコミミズクの観察で日本鳥学会の門戸を叩くきっかけとなり、デビューとなる1987年の山梨大学大会でお世話になった大会委員長の中村司先生には、その後も巨椋野外鳥類研究会の顧問としてご指導いただいています。学会や関西でのご講演の折に、フィールド視察やナチュラリスト仲間の懇親会に来ていただきお話を伺うのを楽しみにしていました。
アマチュアの筆者にも分け隔てなく接していただき、研究発表に添える配布資料にも熱心に眼を通されて嬉しいお言葉をいただくのが常でした。その中でも、『我々鳥類学者がおよばない長期間の継続的な調査結果と地域の特性が分かる野鳥資料』と絶賛されたのが「南山城鳥類目録」で、誰もが望む資料でありながら現存稀有な鳥類目録の充実がライフワークに加わりました。
これまでに、日本鳥学会の大会に於いて10指に余る鳥類目録関連の研究発表を続けてきました。(写真①) 当初は講演資料の書類でしたが、中村司先生(写真②中央)に監修をいただき、富士鷹なすびさん(同左)にご提供いただいたイラストを配することで資料価値と活用範囲も飛躍的に向上しています。
2012年度の日本鳥学会百周年記念大会での記念撮影、大植登先生(左2)にとっても、1990年に当時の日本鳥学会会長で、「関西学研都市オオタカ保護問題」で総会決議の採択でお世話になった中村司先生は大恩人です。やはり30年来の鳥学会の共同発表者・上野きよ子さん(写真③)は、雅扇の名を有する書家であり、今回も鳥類目録の題字の担当で貢献です。
そして、日本動物植物専門学院生の脇坂英弥君と共に、ケリやコアジサシの調査に熱心に参加していた小学生に感動された中村司先生が、日本鳥類保護連盟の「子供鳥博士」に推薦していただき、ジュニアメンバー3名が栄誉に輝いたことがありました。あれから25年、かつての子供鳥博士・岡井勇樹君(写真④左)は、本物の鳥類博士となった脇坂英弥君(同右2)と共に自然観察会ではメイン講師を務めるナチュラリストの後継者として恩返しを果たしてくれています
最新版鳥類目録には、野鳥カメラマンの山中十郎さん(写真⑤右)から城陽環境PS会議に寄贈いただいた400種類に及ぶ野鳥写真を登録予定です。山中さんにはこれまでにも、城陽市生き物ハンドブックや宇治田原町・京都府のレッドデータブックの他、マスコミでも数多くの野鳥写真を提供いただく貴重な記録担当で、ファイナル資料の作成を機に何万点もの写真を託され、京都府レッドリストや城陽市・和束町の鳥類目録に活かします。
こうしたデータの管理は、野鳥識別能力に定評のある岡井勇樹君とお父さんの岡井昭憲先生(左2)、竹内康先生(右)が担当し、筆者の苦手なデスクワークのサポートをお願いしています。鳥類学者の脇坂英弥君は、筆者と共に編集責任者となることで、かつて中村司先生や山階鳥類研究所の米田重玄先生のお名前をお借りした監修者を兼任し、分類や解説などを担当します。
バードウィークの5月11日には、愛知県豊田市に於いて開催された日本野鳥の会主催の記念講演会で、バードリサーチの植田睦之博士(写真⑥左)と共に脇坂英弥君(同右)が招聘され、ケリの研究成果を発表しました。会場には名古屋在住のナチュラリスト仲間たちも駆け付けてくれ、超エリートの植田さんと肩を並べても何らそん色のない全国区となった脇坂センセイの講演に聞き入り喜び合いました。

昨年11月に90歳で天寿を全うされた中村司先生の遺影に、お世話になった愛弟子の成長と、先生ゆかりの鳥類目録の進展を報告しています。(写真⑦) これからも、天から見守ってくださる恩師に供養となる朗報発信を続けられることを願って、ロートルナチュラリストのフィールド探査全開の季節です。ご期待下さい。

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