【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
前回、『フィールド最盛期を迎え、川通いで手足の生傷が絶えないナチュラリスト、早朝から夜間まで、日々元気に走り回っています。』との報告から、もう二か月以上が経ってしまいました。
そんな中、9月16日についに川の中で釘のような尖った物を踏み抜く大ケガを負い、二週間の入院勧告を受け、今シーズンの水辺の生き物調査の終焉を迎えています。木津川川漁師の筆者に課せられた岐阜大学でのスッポン繁殖実験には何とか応えることができ、城陽パートナーシップ会議恒例の「今池川自然観察会」と、河川レンジャー主催・城陽市教育委員会後援の「とのっ子探検隊」では、水辺の生き物を実際に捕獲確認してその責を果たせたことはせめてもの慰めでした。
和束町の野生生物生息調査2年目を迎えた今年、鳥類と両生・爬虫類に続いて、淡水魚と水棲昆虫の調査に力を入れてきました。和束川では、絶滅寸前種のスジシマドジョウに絶滅危惧種のアカザを捕獲確認し、やはり絶滅危惧種のアブラハヤやメダカなど魚類リストも胸を張れる充実したものになってきました。
それでも、ロートルナチュラリストの最後のお勤めの地となるであろう和束町に於いて、特筆すべき生き物の新発見で有終の美を飾りたいとの想いで、可能性のある希少淡水魚を検索してスナヤツメに白羽の矢を立てました。かつて滋賀県の大戸川支流の清流で発見し、当時の琵琶湖文化館に持ち込んだ思い出の魚で、南山城地方では生息確認されていない京都府の絶滅危惧種です。
そうして挑んだ潜水調査で中耳炎となり、不運は重なり目の疾患でレーザー治療を受けること両眼で5回、7月末から9月3日までかかりました。その間、スマホの文字も見づらく、パソコンも控えなければならずで、身体が元気なだけにストレスが溜まります。また、外来生物バスターを名乗る罠猟師の筆者、免許更新の時期とも重なり、視力検査では冷や汗ものでなんとか合格してことなきを得ています。
この間の夏休みイベントも、申し込み初日に募集定員をオーバーし、280名もの参加者があった「太陽が丘・夜の昆虫採集会」も、心強い講師陣に支えられて滞りなく終えることができました。一昨年の「サイエンスキッズ夏祭り」に、中尾先生の紹介で参加した弟子入り志願の松井優樹君は、昨年には「日本爬虫両棲類学会」での研究発表に名を連ねる戦力に育ってくれ、今年の同イベントでは小学校4年生の相棒と「京都の生き物たち」の講座を担当しています。
更には、12年前の心筋梗塞発症以来定期検診を受けている循環器科でもひっかかり、カテーテル手術で入院の憂き目です。さすがにこれだけ重なっては元来のネアカ人間も家族やナチュラリスト仲間と関係者たちに多大な迷惑をかける結果となり凹んでいます。そんな背景での活動報告は、負の要素を感じさせないいつもの笑顔のフォトレポート・和束町の調査仲間の紹介でゲン直し第一弾です。
打たれ強いナチュラリストの完全復活序章となる報告にお付き合い下さい。

フォトアルバム・和束フィールドの調査仲間たち

【写真①】昨年来取り組んでいる和束町の野生生物生息調査は、2009年に当時の南山城村・笠置中学校の尾野和広校長先生(右)に環境学習指導に呼んでいただいた縁によるものです。この時の野外実習授業で、ヒメミズカマキリやマルガタゲンゴロウなど、京都府南部では生息記録のない絶滅危惧種の水棲昆虫を捕獲確認し、同じく絶滅種の再発見となったコガタノゲンゴロウを中学校に寄贈して飼育展示いただきました。所変わって和束町では、先ずは絶滅寸前種のスジシマドジョウに絶滅危惧種のアカザ、準絶滅危惧種のカジカガエルを捕獲確認し、現認者となっていただいて和束川の魚類リストに登録しています。

【写真②】和束町との関りは、2008年に城陽市で見つかった屍が幻の珍蛇・シロマダラであったとの新聞報道の日の朝、小西逸男さん(左)によって生体が初めて捕獲されたことが発端でした。その後もヒキガエルやヒダサンショウウオの卵塊の発見など、両生・爬虫類を中心に生物一般にわたる貴重な情報をいただいています。諸事情によって今回の調査への同行は叶いませんが、自身の観察記録を地図上にプロットし、やはり珍蛇・タカチホヘビの発見者で爬虫類担当の西森誉普さん(右)に想いを託しました。

【写真③】そして鳥類担当は、もう20数年来「日本鳥学会」での共同研究発表者仲間の、脇坂英弥君に岡井勇樹君、竹内康先生(左から)の不動のメンバーが中心です。環境省の標識足環を装着するバンディングと呼ばれる公式な生息記録となる鳥類標識調査も取り入れていますが、やはり野鳥調査の基本は視認観察のバードウォッチングです。和束川ではカジカガエルの鳴き声を聞きながらの定点観察で、幻の鳥となりつつあるヤマセミを期待しながら水鳥たちの確認です。また、隣接する南山城村境の丘陵地に、宇治田原町と麓を分ける鷲峰山の林道を巡っては森林性の野鳥を記録しています。
夜間にも、CDによる鳴き声調査で夜行性の鳥の確認に臨み。水田や平野部の少ない和束町でも思いの外多くの野鳥の生息を記録することができました。12月の京都環境フェスティバルで公表する「和束町鳥類目録」の完成をお待ち下さい。

【写真④】そして、最も古い付き合いの岡井昭憲先生(右)は、長男の勇樹君が小学校低学年の頃から筆者の指導する自然観察会に参加し、すぐさま天賦の才を発揮してケリやコアジサシの調査に貢献して日本鳥類保護連盟から「子ども鳥博士」の認定を受けたナチュラリストの後継者の父親です。コアな分野を持たない岡井先生を、鳥から魚からカメにカエルに昆虫などの調査に連れ回し、イベントには欠かせない存在となっています。
もうひとり、兵庫県三木市からイベントごとに兵庫県三木市から駆け付けてくれる田中寿樹さん(中)は、南山城村で絶滅種のコガタノゲンゴロウを発見した時に鑑定を願った水棲昆虫の専門家で、生物全般に造詣が深い田中さんとのフィールド調査では、これまでにさまざまな希少種を捕獲確認して大きな成果を得ています。太陽が丘で毎年2回開催される昆虫の観察会では、メイン講師を務められています。

【写真⑤】城陽PS会議の「生き物ハンドブック」も、改訂版にDVD版、ポスター版・希少生物に続いて、いよいよ植物版が12月の京都環境フェスティバルで完成披露されます。その立役者の山村元秀先生は、和束町の生物調査にも協力いただき、自然観察会では野草の解説を担当願っています。和束町の哺乳類から淡水魚の脊椎動物と水棲昆虫などのリスト化を進める中、山村先生には城陽市の姉妹版作成をお願いしたいものです。

【写真⑥】8月11日、ついに思い余って京都府レッドデータブックで絶滅危惧種のスナヤツメの解説をされている林博之先生(右)に泣きつきました。和束川での生息の可能性や生息ポイントをお尋ねし、林先生も京都府南部では確認されていないスナヤツメの、丹後地方での記録を参考に一日かけて一緒に散策していただきました。
林先生には、これまでもメダカの復活や外来魚・ティラピアの発生、宇治川のボラの遡上にカワバタモロコ・ホトケドジョウの発見の際に専門家としてのコメントをいただいています。スナヤツメ発見で恩返ししたいものです。

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