イエローテープの先へ/コロナ撃退に行動経済学「ナッジ」応用
宇治市役所1階正面玄関で毅然と方向を示すイエローテープ

新型コロナウイルス対策に手洗いと消毒の励行が叫ばれる中、「行動経済学のナッジ」に基づいた取り組みが、この分野で先行する宇治市で始まり、府県境をまたぎ他市町に広がりを見せている。人が出入りする玄関や通用口に設置された消毒液の足元には、数歩手前から行き先を指し示し、導くイエローテープを貼り付け、人間の意識・無意識に強く訴える。手洗所にはナッジを活用した、一風変わったメッセージを貼付し、ここでも手洗いの徹底に向けた仕掛けを施す。今後は、公共交通機関、商業施設などでの普及に期待を寄せている。
宇治市では、新型コロナウイルス感染症対策本部が5日、庁舎1階正面玄関をはじめ、全棟の出入口7カ所すべてに、数歩手前から消毒液へ誘導する矢印を示したイエローテープを貼り付けて、行動経済学のナッジ理論を応用したアピールを開始した。
拡大防止が叫ばれ、非日常のムードが世を覆う中、「消毒液が実際にどれぐらい使われているのだろう」と、以前からナッジに注目する市職員の柴田浩久さんが問題意識を持ち、地下入り口での実施率を調べた。短時間の比較とはいえ、施行前はゼロだった実行者は、テープを貼った当日には数人が消毒液を噴霧、手をこすった。
取り組みを主導する藤田佳也・市健康長寿部長は「以前と比べ、液体の減りが早くなった」と手応えを実感。「がん検診率が低く推移するなど課題に対し、アピールの効果を上げるためのナッジ理論に前から注目していた」と狙いを据え、手洗所(トイレ)では洗面台の壁面に「となりの人は石鹸で手を洗っていますか」「石鹸手洗いが自分と次の人を守ります!」など、あまり見掛けないメッセージ(コピー)を手書きで添え、使用者の思考を引き付けて、実践を促している。
ナッジ理論に基づけば、▽手書きで人間味を出す▽14文字以内―などのメッセージ(コピー)は、インパクトが強く、見る人の心に刺さるという。
藤田部長は「紙をピンクにするなどの色使い、文言もまめに替えるなどして、一瞬何?と思わせる、気持ちをくすぐっている。人の慣れ=馴化(じゅんか)を防ぐには、ポスターも、まめに仕様を替えるのがよい」とひも解く。「来庁者のほとんどが素通りする中、やらなあかん、と思うきっかけづくり。市職員から感染者を出してはいけないとの思いも強い」と、手洗いに対する自覚、危機感を強調する。

京田辺市役所2階通用口に施されるナッジ

イエローテープ作戦は、今月中旬に京田辺市がスタートさせるなど、数週間のうちに全国10市町以上に広がり、小泉環境大臣がブログで宇治市の実践を紹介するなどますます浸透。柴田さんは「情報があふれる中、感染しないためにどうするのか…、が大事。感染しないための行動をとることで、自分たちがウイルスを制圧できる。今後、公共交通機関やショッピングセンターなどで行われるのが理想。実施率が10%から20%に上がれば、ウイルスの持ち込み、運搬はかなり減る」と期待を寄せている。