【第307号】フィールドの新学期…超低速発進Go!

B!

【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
自然界の規則正しいサイクルにあって、南方で冬越しを終えたツバメたちの「ニッポン渡来前線」を追って列島を北上する「桜前線」は、野鳥たちが恋歌を奏でるシンフォニーの幕開けステージとなって、生命育む季節の到来を告げています。
野鳥と自然環境の保全を目的として制定された「愛鳥週間」は、当初はアメリカに倣って4月10日のバードディの一日だけでしたが、日本の風土に則して一ヶ月間遅らせ、日曜日を含むバードウィークとしました。そして近年には、5月を「愛鳥月間」として全国各地でバードウォッチングはじめ様々なイベントが開催されています。
かつては年賀状に、『今年もトリ年!毎日がバードディ♪』と記していた鳥人ナチュラリストも、いまや爬虫・両生類に淡水魚、外来生物がメインの宗旨替えで、鳥類分野は頼もしき後継者たちにセンターの座を譲っています。2月11日の「城陽環境パートナーシップ会議」主催の「古川自然観察会」こそ例年通り開催することができましたが、以後はコロナウイルス騒動の余波を受け、6月6日の観察会までの中止と、以後のイベントも未定の憂き目です。
毎年、繁殖期を迎えたケリの調査に臨む4月、ピカピカの一年生たちの笑顔と新学期を迎えた子供たちの歓声に元気をもらっていたナチュラリストも、単独・短時間を心掛けた寂しいフィールド活動で一日も早く日常生活が戻ることを願っています。福鳥・コウノトリの話題が途絶えた4月、赤丸の上からの×印が痛ましいカレンダーを振り返り、緊急事態宣言下での活動報告の記録を留める機会としています。
京都府の絶滅危惧種・オオタカでは、保護放鳥に次いで抱卵中の巣も見つかりました! 同じく絶滅危惧種の猛禽類・チョウゲンボウの営巣も確認され、アリスイなどの珍鳥情報に、鳥類標識調査でもシベリアが繁殖地の冬鳥・シロハラのリターン記録と、2008年巨椋池干拓田生まれのケリが彦根市で見つかるリカバリー記録など、愛鳥週間に向けて全国に発信する朗報ネタも盛りだくさんです。
歓迎されない毒グモの発見も、コロナウイルスの憂鬱なニュースの比ではないでしょう。そんな雑多な生き物トピックスと低速発進した活動報告にお付き合い下さい。

◎4月を振り返って

本紙において相次いで報道された4月16日付・オオタカの保護放鳥の朗報と、25日付・ハイイロゴケグモの警告記事の補足説明です。
やはり2年前のGWに、城陽市青谷でセアカゴケグモらしきクモが溝掃除中に見つかったとの報告を受け、鑑定と引取りに行きました。果たして、当時かなり騒がれていた毒グモのセアカゴケグモで、市役所に持ち込み、府の指導を受けて駆除したことがありました。
今回、城陽市立寺田南小学校近くの畑で見つかり、知り合いを介して鑑定依頼があったのは、やはり毒性があってセアカゴケグモに比べて極めて珍しいハイイロゴケグモでした。市役所から府の担当部署に連絡を入れ、咬まれても重症化することはないものの、病院に行くなどの処置の警告と殺虫剤より踏みつぶすなどでの駆除で対処してほしいとのことでした。あらためて全国的にも珍しい希少?毒グモをご覧頂き、ご注意下さい。(写真①②) 背中の斑紋とお腹の模様で識別ができ、写真の♀で小指の爪ほどの大きさ、♂は極小です。
対して、食物連鎖の頂点に位置する猛禽類のオオタカは、豊かな生態系の象徴として京都府の条例でも希少野生生物に指定されている貴重な保護鳥です。15日の午前、文化パルク城陽から市役所環境課を通じて、飛べずにいるタカらしき鳥がいるので来て欲しいとの一報が入りました。もう10年も前、やはり文パルから連絡をいただき、冬鳥のツグミの仲間・シロハラの屍を回収し、鳥インフルエンザの疑いもあって府の振興局に届けています。
状況から窓に激突したものと思われますが、天敵のカラスやネコの二次被害も考えられ、早急な保護が求められます。あいにくすぐに駆け付けられない状況にあり、傷病鳥といえども鋭い鈎爪での攻撃や、何より状況次第では緊急な救護処置を要する事態です。連絡をいただいた浜崎課長さんに、視界を遮る布などを被せ、暗くした段ボール箱に保護して京都府の鳥獣救護指定獣医師・高橋尚男先生の大和動物病院への搬送をお願いしました。
こうして、城陽環境PS会議の窓口・環境課の盟友たちの素早い対応と連携に、高橋尚男先生・将哉先生の治療によって元気を回復したオオタカ(写真③)は、翌日には無事野外に放たれました。これまでにも、高橋先生親子には希少鳥類の公式記録に華を添えるオオタカにチョウゲンボウ、フクロウにアオバズク、京都府の鳥・オオミズナギドリなどの保護の際にお世話になり、ムササビやワニガメなど、過去30年間に亘って貴重な文献資料となるマスコミ報道にも数えられないほど登場いただいています。
さて、悪名高きカラスでは、城陽環境PS会議を通じて「北部コミセンのテニスコートのライトにカラスが巣を架けたので撤去して欲しい」との申し出があり、環境課から担当部署へ伝えています。(写真④) そして、今年も愛鳥月間を前に、「城陽生き物ハンドブック」の野鳥イラストでもお世話になっている富士鷹なすびさんの啓発ポスターが届きました。(写真⑤) シジュウカラのかわいい雛鳥のイラストに、「飛べないヒナ鳥を見つけてもそのままに…」とのメッセージが添えられています。
環境省と日本野鳥の会など環境団体の愛鳥キャンペーンに、企業の協賛を得て毎年作成されているポスターですが、実際に弱々しい産毛の残る雛鳥を見捨てられないのも人情です。スズメの仔を保護し、飼っていたタレントが摘発された事件など、善意の不幸を招く法の壁もまた考えものです。現在も悪しき風習として密猟が絶えないメジロなどの和鳥の飼育やツグミに代表されるヤキトリへの罰則と戒めこそ優先すべき保護政策でしょう。
野鳥保護に不可欠な生態解明の手段である鳥類標識調査も、かわいそう…との感情論で理解を得られない人や、生息環境の悪化によって繁殖難民となった特定生物を対象とした巣箱架けも本来の生態系回復に則さないとの声も囁かれる中、マイウェイの保護活動を続けています。4月5日に脇坂英弥君と岡井昭憲先生と共に始動したケリの調査も、環境省・山階鳥類研究所からの鳥類標識調査・自粛要請で中断を余儀なくされています。(写真⑥⑦)
また、和束町をメインに、ムササビにアオバズク、アオゲラにコウモリなども対象とした万能巣箱の設置計画も、憎っくきコロナウイルスによって来シーズンまで持ち越しです。(写真⑧) それでも、待ちに待ったベストシーズンを迎えて、サイレントなフィールド活動でコロナ鬱払拭の日々を送るナチュラリストです。(以下、次号)

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