【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
コロナウィルス騒動から解放され、フィールド復帰を果たしたナチュラリストが、リアルタイムの生き物讃歌を報告できる喜びを実感しています。
野鳥や野生動物たちの繁殖の季節迎え、脇坂英弥君から提供された「万能巣箱」でムササビやリス、コウモリなどを期待して、アオバズクにアオゲラ、さらにはオシドリにブッポウソウと夢が拡がる巣箱調査を今年度の課題のひとつにしていました。4月1日、現在の主要調査地である和束町教育委員会・町史編さん室に万能巣箱を持ち込み、設置を予定している山林や神社など地権者への協力要請をお願いした矢先、コロナ緊急事態宣言で中断を余儀なくされました。
4月3・4日を最後に、脇坂君の研究対象・ケリの標識調査と共に、京都府の希少野生生物に指定のタマシギ・コアジサシ・オオタカの繁殖調査も環境省・山階鳥類研究所からの自粛要請でできなくなり、ジュニアメンバーとの気楽なフィールド探査も控えなければならず、せめて一日に2時間だけの後ろめたい単独活動も、その成果よりストレスが上回るおよそ生来の楽天家とは程遠い寂しい生活を送ってきました。
それだけに、解除後のフィールド活動のありがたみを実感し、あれもこれもと新たな課題と夢が拡がっています。約50日ぶりにケリの標識調査と希少鳥類の生息調査を再開でき、ジュニアメンバーとはスナヤツメを求めて和束川にくり出しました。
生物の専門知識もなかった文系の筆者が、これまで数々の幸運な発見に恵まれてきたのも、叶わぬ夢とあきらめず、実現可能な目標としてフィールド探査を楽しんできた結果の副産物であり、あと何年続けられるか分からないロートルナチュラリストが、自然界の宝探しの魅力を天賦の才に恵まれたたのもしきジュニアたちに伝えています。一日も早く自然観察会や生き物関係のイベント復活が待たれる中、和束町の町史編さん室主催の自然観察会が7月12日に開催決定され、鳥類・両生爬虫類から淡水魚に昆虫や植物分野まで、幅広い専門家たちが集ってコロナ騒動の厄払いの楽しい観察会で新たなスタートにしたいと考えています。
フィールド謳歌の見返り・生足に刻まれた痛かゆい大小の傷口が、今年も変わらぬ夏の到来を告げています。やっと心底笑顔の活動報告で鳥獣虫魚の話題発信できることに感謝してお届けする、生き物讃歌四方山話・続編のフォトレポートをご覧下さい。
◎フィールド調査復活!
シベリアを繁殖地とし、巨椋池干拓田に冬鳥として飛来するコミミズクを顔の特徴で個体識別していた筆者、毎年同じ個体が越冬しているとの自説の実証の為、環境庁の鳥類標識調査員・バンダーのライセンスを修得したのは1987年のことでした。以来、環境庁・鳥類観測宇治川2級ステーションの調査員として鳥類調査に携わり、南山城地方の郷土の環境資料たる鳥類目録の作成をライフワークにして今日に至っています。
これら胸を張れる記録の中でも、京都府の条例で希少野生生物種に指定されている鳥類5種類の内、オオタカにコアジサシ・タマシギへの標識記録の他、飼い猫が捕らえてきて新田辺動物病院に持ち込まれたヒメクロウミツバメの標識保護放鳥記録があります。そして、もう一種類のブッポウソウ(写真①山中十郎氏撮影)は、南山城地方では公式な記録がないものの、渡りの際の通過と思われる情報が僅かながらあって、岡山県での巣箱繁殖に倣って和束町でも…と秘かな期待を寄せています。
コウノトリが縁で「城陽環境パートナーシップ会議」の野鳥調査員として仲間入りをし、脇坂英弥君のこれら希少鳥類の調査研究に参加希望の京田辺市の中学生・福井惇一君(写真②左)と日野田星君(同右)から、早速、希少種の発見に次ぐ発見の貴重な記録が矢継ぎ早に届いて驚きました。熱心な鳥少年たちには、2012年の日本鳥学会100周年記念大会に於いて、初めて中学生に門戸が開かれた時の研究発表の資料も取り出してきて、南山城の鳥類目録を継ぐ金の卵に入れ込んでいます。
ようやく脇坂君とも合流し、本格調査開始直前に日野田君のケガによる離脱は残念でしたが、福井君とはチョウゲンボウの巣立ちまでを確認し、オオタカにタマシギの繁殖調査にコアジサシの探査など、週の半分は顔を合わせて情報交換を続けています。(写真③) そして、福井君からの情報は野鳥に留まらず、普賢寺川フィールドで見つけたヘビやスッポンまでも実際に捕えてくれています。そのひとつ、カラスヘビでは日本最大級と報じられた松井優樹君の記録を上回る166㌢の大物でした。(写真④)
その優樹君と中川幾久夫・木津川漁協支部長(写真⑤中)と共に出かけたスッポン漁では、かろうじて1匹を引き揚げ面目躍如です。スナヤツメを求めての和束川では、絶滅寸前種のスジシマドジョウに絶滅危惧種のアカザなどを捕獲確認して、記録後はもちろんリリースしています。カジカガエルも鳴き声確認し、和束町の野生生物生息調査のメンバーに新規登録を果たした福井惇一君君でした。(写真⑥⑦) 野鳥でも、絶滅危惧種のサンショウクイを観察し、この季節の生息確認は繁殖定着を裏付ける大変貴重な記録が追加されました。
自粛中から週末にはお父さんに和束川や南山城村へフィールド探査に連れてもらっていた松井優樹君は、京大の研究者に捕獲した両生・爬虫類の生体提供で貢献です。(写真⑧)筆者が鷲峰山で捕獲したヒキガエルのDNA解析により、アズマヒキガエルにさらにはニホンヒキガエルとのハイブリッドの存在を明らかにしてくれた福山伊吹君(同左)に、実験後は標本にしないで生きたまま返却希望の申し入れの優樹君でした。
もう10年も前の日本爬虫両棲類学会・慶応大学大会で目に止まった小中学生だった福山兄弟が、共に京大に進んで少年期の夢を叶えようとしています。当時の福山兄弟に重なる自慢のジュニアたちも、それぞれの夢に向かって羽ばたいて欲しいと願っている昨今です。そして福山伊吹君の弟・亮部君と同期の大学院生で、ヘビの研究者・森哲先生から調査協力の要請があったのが、カメを研究対象に選んだ石田武大君(写真⑨右)でした。
研究が足止めされた不運を補えるサポート隊として、少しでも役立てたらと願っています。6月末からの本格調査を今から楽しみにしている復活ナチュラリストです。