【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】

まだまだフィールドの女神に愛されしナチュラリスト健在!…新種発見の朗報続編をお待ち下さい。…と、テンションMaxでお届けした前回の報告からひと月近くが経ちました。全国のナチュラリスト仲間からも励ましの便りが届き、久々にフィールドの鬼の復活で、和束町の生き物調査に花を添える新種の淡水魚・ナガレカマツカ発見!の公式発表もすぐのことと思われましたが、現実はそんなに甘いものではありませんでした。
地元・城陽市の木津川で天然記念物のイタセンパラを発見し、南山城村では絶滅寸前種のホトケドジョウにカワバタモロコなどの新発見が自慢のナチュラリストも、本来専門外である淡水魚の分野では多くの先生方にお世話になってきました。淡水魚の研究者・林博之先生とは、社会人講師として訪れた城陽高校で出会い、ちょうど歴史民俗資料館からの依頼で作成していた「木津川魚類リスト」に、当時国内外来種として定着しつつあるヌマチチブの最新情報追加の進言を受けたことに始まります。
以後今日まで四半世紀、やはりナチュラリストの川仲間・水野尚之先生共々、南山城各地の淡水魚調査に赴き、文献資料として残るマスコミ報道など数多くの胸を張れる成果を得てきました。もう15年も前の宇治田原町から委託された調査では、当時南山城地方で生息記録がない絶滅危惧種の「アカザ」の発見を目標にしましたが、早速、下見の林先生に先を越され、リベンジとばかりに絶滅寸前種の「スジシマドジョウ」の発見を果たした懐かしくも楽しい思い出がよみがえります。
そしてここでのエピソードが、このスジシマドジョウが平成18年に刊行された宇治田原町レッドデータブックに記載され、近年のDNA研究によって新種分類される「ヨドコガタ…?」の可能性があると研究者の目に止まり、遠方から大挙して何日間も調査に来られたといいます。後になって、発見者が筆者であることを知った研究者から連絡が入り、あらためて田原川支流のポイントを伝えて現地案内するとの申し出も、予算や日程の都合で叶わず、謎を残したまま環境省の「絶滅種」に掲載された経緯がありました。
鳥類研究者として宇治田原町の「野生生物生息環境調査」に携わり、両生・爬虫類から哺乳類や淡水魚、水棲昆虫まで調査対象を拡げたことで尽きることのないフィールドワークを楽しむことができ、様々な発見に後押しされて「南山城鳥類目録」に次いで「南山城野生生物生息リスト」の作成をライフワークとしてきました。「鳥は環境を測るモノサシ」であり、豊かな自然環境には多くの野生動物たちが生息できる「環境指標生物」の法則より、郷土の自然財産である生き物たちの記録を環境資料として次代に残すことをナチュラリストの使命と感じて活動を続けています。
宇治田原町と南山城村での野生生物生息調査の成果は、所属する日本鳥学会と日本爬虫両棲類学会の大会で配布資料を添えて発表し、毎年12月に開催される京都環境フェスティバルでの資料公開を年中行事としてきました。そして現在、宇治田原町と南山城村に隣接する和束町を舞台に生き物探査を楽しんでいます。ナチュラリストの最後の?お勤めの地となる和束町でのお宝生物発見!の白羽の矢が立ったのが、南山城地方では生息記録のない絶滅危惧種・スマヤツメでした。そして、その調査の過程で昨年新種に分類されたカマツカの仲間の生息の可能性が生まれ、暑い熱い夏が始まりました。
7月23日に和束川で捕獲したカマツカが、林先生によって新種のナガレカマツカと同定され、ワクワクの追認調査が始まるも…。思いのほか大変だった再発見までの記録と、新種の淡水魚を巡る思わぬエピソード・繋がりあう人の環の嬉しい再会物語を添えてお届けするフォトレポートにお付き合い下さい。

◎新種の淡水魚を追って

和束町で7月12日に開催された自然観察会に於いて、淡水魚の担当講師・林博之先生から昨年に新種登録されたナガレカマツカが生息する可能性があることを伺いました。和束町の生き物調査でも新たな発見で成果を残したいと熱望するナチュラリスト、淡水魚では南山城地方で生息記録のない絶滅危惧種・スナヤツメ発見の目標も、ギブアップ寸前のところでがぜんやる気スイッチON!未知なる魚をターゲットに暑い熱い川詣での日々が始まりました。
そうした7月の23日、ジュニアメンバー・松井優樹君(写真①右)との探査でようやくカマツカを捕獲することができ、林先生によってナガレカマツカであろうとのお墨付きをいただきました。和束町のお宝生物に、林先生とゆかりのアカザ(写真②上)とスジシマドジョウ(同下)に次いで、新種の淡水魚・ナガレカマツカ(同右)が加わりました。
翌日にはナガレカマツカの詳細を知るべく琵琶湖博物館に駆け付け、入館制限の整理券制も強行突破し、松田征也先生(写真③)と中井克樹先生を訪ねました。琵琶湖博物館の前身・琵琶湖文化館の館長だった松田尚一先生を、筆者の父親が木津川にもアユドジョウと呼ぶアユモドキがいると案内したことが縁でお世話になり、当時は展示されていないバックヤードのイタセンパラを見せていただいたことが後に木津川での発見につながりました。そして、お父様の後を継がれた淡水貝が専門の松田征也先生には、外来種かと思われた5㌢もある木津川産のシジミが在来のマシジミであったことや、干拓前の巨椋池に生息していた30㌢を超えるイケチョウガイが旧家に残されていて、その貴重性を解説いただき、以後のイベントや企画展で大いに役立ちました。
今回、突然のアポなし訪問にも快く対応頂き、厳重に保管されているナガレカマツカの標本を特別に見せていただきました。正直なところ、カマツカとの区別も自信はありませんでしたが、いくつかの識別ポイントを確認することができて大変参考になりました。もちろん門外不出の貴重な標本で、データと共に写真記録も叶いませんが、展示されたばかりのナガレカマツカの生体を中井克樹先生にご案内いただきました。(写真④⑤)
鈴鹿山系のニホンカモシカの保護活動で知り合った中井さんとは、1985年の阪神タイガースが日本一に輝いた日、みんなで六甲おろしを歌いながら祝杯を挙げた楽しい思い出がよみがえります。以後30数年を経て、我が家名物・木津川産天然スッポン鍋を囲む常連となり、度々当活動報告にも登場いただいています。一昨年には、新設のカメの展示コーナーで協力し、宇治田原町でのオリジナル網モンドリの水中映像の撮影時には、カジカガエルの鳴き声を確認し、希少種の生息記録の現認者にも登録です。
そんなお二人に応えるべく、ナガレカマツカの京都府での公式記録公表を託す林博之先生(写真⑥右)共々、あらゆる漁具を揃えて捕獲確認に挑み、ジュニアメンバーを伴って宇治田原町などにも探索の範囲を広げています。(写真⑦) 8月16日になってようやく念願の雌雄の採集に成功しましたが、その間の文献資料検索の過程に於いて、新種登録の研究者が先のイケチョウガイの所有者・木下富美さんのお孫さんの富永浩史さんであることが分かり、何という巡り合わせと驚きました。兵庫県在住の自慢のお孫さんの著書もいただいていた今年卒寿を迎えられる元気なおばあさんに、実に15年ぶりに引き合わせてくれたナガレカマツカでした。(写真⑧) 以下次号

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