雲中供養菩薩像の模刻完成/平等院
奉納された雲中供養墓撮像「南20号」の模刻像

平等院の国宝「雲中供養菩薩像」の1つ「南20号」を忠実に再現した模刻像が19日、同寺に奉納され、塔頭の浄土院(神居文彰住職)で開眼法要が営まれた。
制作したのは、東京都に住む会社員の中村美緒さん(25)。東京藝術大学大学院修士課程(美術研究科文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室)の修了制作として、昨年4月から今年1月まで約10カ月かけ作られた。神居住職によると、雲中供養菩薩像の模刻は約20年ぶりという。
開眼法要は浄土院秋季彼岸会に合わせて行われ、檀信徒約100人が見守った。同法要に続き、中村さんによる模刻の解説が行われた。

技法などについて解説する中村さん

雲中供養菩薩像は鳳凰堂内部の長押(なげし)上の小壁(こかべ)に、本尊阿弥陀如来坐像を囲むように掛け並べられ、52体ある。平安時代後期の作で、南北に半数ずつあり、各像に1から26までの番号が付けられている。南20号は舞踊を舞う姿で、特に優美な造形と言われている。
中村さんは制作過程で分かった技法のうち特筆するものとして、一木からある程度彫り出した像を木目に沿って割り、内側をくり抜く「割矧」(わりはぎ)や、当時の作品としては珍しい差し込み式の頭部「挿首」(さしくび)について述べた。
割矧では、3Dデータ上での検討に加え原木像をつぶさに観察したところ、割れのラインが曲線になっていた。中村さんは通常のナタではなく丸ノミを用いることで、その曲線だけでなく、菩薩像の右足とその下にある雲の突起部分を避けている割れ方をほぼ再現することができたという。当時どのような道具が用いられたか分かっていないが、丸ノミの可能性が高まったことは「1つの発見ではないか」と中村さんは話した。

中村さん(手前右)同席の下、開眼法要が営まれた

模刻は、昨年1月に神居住職が同大学で集中講義を行った際に中村さんが打診し、住職が快諾。制作中には原木像を観察しに4度平等院を訪れた。完成が近づいた3度目には、原木像と模刻像を並べて詳細に見比べる機会を得た。その際、自作ではふっくらと造形していた頬が、実際には肉感がなかったことに気づいたという。「表現しきれないと感じていた。下から見てふっくら見えるようになっていた」と造形の妙を中村さんは振り返った。
模刻象は優秀な作品として同大学美術館が買い上げる話もあったが、先に平等院への奉納が決まっていたため断った。「人生でまたとない機会。奉納できてうれしい。美術館に収まるよりも、見てもらえる機会が多くなると思う」と声を弾ませた。
神居住職は、模刻象を今後「間近で見られる形で公開していきたい」としている。