【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】

コロナ禍に揺れた2020年もいよいよカウントダウンを迎えました。
今年の元旦は未明からアイドル・ひかりちゃんのもとに駆け付け、日の出と共に目覚めた彼女を独り占めの幸福感に酔いしれました。…との艶っぽい表現にはまるでそぐわないロートルナチュラリストも、優雅なコウノトリへの憧れとその希少性を知る鳥類研究者としてひかりちゃんへの想いも格別で、毎日がデート気分のルンルンのお正月を送っていました。
生まれ故郷の城陽の地に「瑞祥の福鳥」と称される国の天然記念物のコウノトリが飛来し、餌が乏しい季節に越冬するという考えられない事態に、鳥人ナチュラリストの血が騒ぎ、アイドル鳥の追っかけが始まります。日本では野生絶滅から復活した全国注視の希少鳥類で、標識足環から福井県の人工繁殖施設で生まれ育って放鳥された「ひかりちゃん」の愛称を持つことなどの話題性から、野鳥保護や自然環境保全の啓蒙活動に最適な題材でもあり、その越冬生態の調査記録は欠かすことのできない資料です。かくして、母校・城陽中学校の校歌にも詠われる「鴻ノ巣山」に歴史ロマンの提言を添えて、当紙面でのコウノトリ報告は計10回を数えました。
ひかりちゃんの詳細滞在記と共に、徳島の野外営巣生まれのコウノトリの藍ちゃん・和ちゃん姉妹の飛来の確認など、貴重な文献資料を残すことができて何よりでした。時同じくして猛威をふるったコロナの影響で、ひかりちゃんの飛来先の千葉県房総半島への追っかけや、藍ちゃんたちの生まれ故郷への視察にコウノトリの郷公園への報告などの予定をことごとく断念せざるをえない状況となり、続編執筆ができずに悔いが残る年でもありました。
新たな年には、コウノトリの新章編をお届けできることを願い、コロナ禍に揺れた2020年を振り返っての生き物トピックスをお届けします。文責と出展がはっきりとした公的意義の大きいマスコミに於いて、フィールド活動の成果を公表する場をいただき感謝しております。来るべき新年も、ご期待に応えるべく頑張ります。
今年も一年間ご愛読いただきありがとうございました。良いお年を。

◎2020年の生き物トピックス

今シーズンも優雅なコウノトリの姿がふるさと地で見られますように…。澤江里恵子さん撮影のベストショットは、局所的分布をする外来生物・タウナギの捕食シーンで、他に類を見ない貴重な生態写真です。(写真①)
淡水魚では、和束町に於いて新種登録されたナガレカマツカ(写真②)を発見し、コロナ禍の憂鬱を吹き飛ばしました! 口ヒゲが長いなどの特徴も、カマツカとの識別は難しい…。
同じく和束町で昨年来取り組んでいるコウモリ調査では、一般的なアブラコウモリ・イエコウモリに加え、絶滅寸前種のコキクガシラコウモリ(写真③東洋蝙蝠研究所展示標本)など3種類の生息を確認することができました。(写真④)
鳥類では、京都府の希少野生生物に指定されているタマシギの雛鳥への標識に成功し、昨年、京都府に0報告のリベンジを果たしました。(写真⑤) 同じく希少種のオオタカとチョウゲンボウ(写真⑥)の繁殖を見守り、無事巣立ちを確認しています。また、城陽市で絶滅危惧種のヒクイナの雛鳥(写真⑦)が保護され、冬鳥のシロハラのリターン記録(写真⑧)と共に特筆すべき記録が加わりました。
その他、爬虫類では、日本最大級のシマヘビや公式記録No.2のアオダイショウ、珍蛇・シロマダラの記録に、21年間を経て再捕獲のクサガメの記録などを報告してきましたが、木津川川漁師の代名詞・スッポンでは、やはりコロナの影響で岐阜大学での繁殖実験の研究が中止となり、スッポン漁の大義名分が無くなったことと、鍋の会も開催できない状況とあって今ひとつ盛り上がりに欠けたシーズンでした。
それでも、岐阜大学での研究に寄与し、晴れてお役御免となったスッポンたちを、食用とはせずに名古屋の川原神社に奉納した昨年に続いて、今年も30㌢級の大物スッポン雌雄計4匹を冬眠前の10月18日に奉納してきました。(写真⑨) かつて日本最大級のスッポンがいる有名な亀の神社を訪れ、木津川で観察した大物こそ日本一との確信を得たのはもう10年余りも前のことでした。そして、筆者の捕獲した大物は「兵庫県立人と自然の博物館」で研究標本とされている現在、この川原神社の池の主の大きさが大変気になるところです。
今年、唯一開催できた我が家名物・木津川産スッポン鍋の会は、2月2日の「木津川マラソン」に参加の名古屋の川崎宏三さん(写真⑩右2)と広島の日比野政彦さん(同左)の激励会だけでしたが、当日もマラソン前にコウノトリ・ひかりちゃんに会いに行って福鳥に願掛けしています。(写真⑪) ちなみに、日比野さんは日本野鳥の会の広島県の元支部長で、川崎さんは野鳥や生き物の取材を受けてきたプレスマンであり、共にその希少性を知る2人にひかりちゃんの紹介は喜んでもらいました。
その30数年来の友人・川崎さん夫妻と共に、日本最大級のスッポンが生息する川原神社に参拝し、伊藤宮司さん(写真⑫左)と一緒に繁殖場も設置されている弁天池に放生して今年のスッポン納めとしています。高級食材の難を逃れて神の使徒となった川原神社のスッポンたちと亀グッズのお守り(写真⑬)のご利益で、日本一の大スッポン捕獲のリベンジを果たせる日も近いものと信じています。朗報発信にご期待ください。

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