【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
昨シーズン、冬期2ヶ月間の滞在をみたコウノトリ・ひかりちゃんも、今年は僅か12日間で城陽市を後に飛び去ってしまいました。ひかりちゃんへの想い入れは、フィールドの夢を失いかけていたロートルナチュラリストに、天が与えてくれた未来につなぐべく課題と受け止め、自身でも納得できる記録を残すことを目標に日々観察を続けてきました。
もう30数年も前、巨椋池干拓田のコミミズクの研究で日本鳥学会の門を叩き、フクロウにオオタカ、コアジサシにシギ・チドリ類など希少鳥類の調査と学会発表を続けてきた鳥人ナチュラリストも、特別天然記念物のコウノトリは別格の憧れの存在でした。学生時代に出会った畑正憲先生の「われら動物みな兄弟」と「天然記念物の動物たち」の著書に感銘を受け、後に「ムツゴロウ動物王国」の住人として偉大なる師匠から学んだムツゴロウイズムが、ナチュラリストとして活動する現在に活かされています。
当時からの天然記念物の動物たちへの関心は、絶滅の危機にある希少野生生物たちの現状を知ることとなり、ほどなくして絶滅に至ったトキとコウノトリには胸を痛め、危機的状況にあるアホウドリやタンチョウなどの保護対策が実ることを切に願っていました。そうして迎えた1995年、「日本鳥類標識協会」の大会が豊岡市で開催され、現在の「コウノトリの郷公園」でロシア産の個体の人工繁殖が進められている実情が公開され、間近で見る憧れの天然記念物・コウノトリに胸が高鳴ったのを覚えています。
そして翌年の「1996年度日本鳥学会・沖縄国際大学大会」においては、現コウノトリの郷公園園長の江崎保男先生による「コウノトリの野生復帰プロジェクト」の講演があり、絶滅からの復活が現実となる日に夢を馳せて待ち望んでいました。こうした思い出をよみがえらせてくれたのがひかりちゃんであり、2005年のコウノトリ放鳥以来14年目にしてふるさと城陽で福鳥との再会が叶い、およそ考えられない環境下での厳冬期を過ごした嬉しい結果は、今後の長期滞在から定着、繁殖へと夢が拡がります。
こうした思い出の歴史に添えるエピソードに、昨年の「第19回城陽市環境フォーラム」で「コウノトリが教えてくれた城陽市の生物多様性」と題した講演で報告いただいた脇坂英弥君の活躍がありました。脇坂君が21歳の時に、ケリの研究発表で初登壇したのがこの時の豊岡の鳥類標識協会と沖縄の鳥学会の両大会で、共に学会最年少講演の栄誉を得ています。そして後年、兵庫県立大学大学院においてケリの研究で博士号を得た時の指導教官が、当時日本鳥学会の会長職にあった江崎保男・コウノトリの郷公園園長という巡り合わせです。
縁あるコウノトリから元気をもらって、今年も脇坂英弥君共々ケリと希少鳥類たちの調査に奔走しています。今シーズンの一番の成果であるひかりちゃん効果で判明した複数羽の目撃情報の検証でその責を果たせたものと自負しています。コウノトリが結ぶ人の環から、名簿登録に至った個体が片手を超えたことは特筆すべき記録です。
頼もしきカメラマンとたくさんの協力者たちから寄せられた情報に助けられ、今年も胸を張れるコウノトリの記録を留めることができました。昨年は3月の声を聞いてもコウノトリ情報が届けられ、上空通過や足環が確認できない一過性の残念な未公認記録でした。引き続き緊急出動に備えていますが、先ずは携帯ででも写真記録を残していただくことと、可能な限り足環の確認をお願いしています。
まだまだコロナ禍の憂鬱なニュースが多い中、幸せを運んでくれる福鳥の話題でコロナ終焉の春も近いものと信じてのフォトレポートにお付き合い下さい。

◎コウノトリ日記

城陽市でひかりちゃんが発見された前日の1月28日、京都市右京区嵯峨野の広沢の池に1羽のコウノトリが飛来しました。そして遅れること2時間ほどでもう一羽が飛来して2羽のコウノトリが調査仲間の山中十郎さんによって記録されました。(写真①)  明らかに大きさが違い、これだけ個体差があるのは異様にも思われました。
その後の標識足環から、大きい方はコウノトリ郷公園で2018年に放たれたオスであることが分かり背中のGPS発信機も確認できます。(写真②) かたや小さい方は足環の読み取りが難しく、該当する個体にたどりつけませんでした。そして翌19日、今度は池に舞い降りることもない3羽のコウノトリが上空を旋回するのが見られ、桂川の方面に飛び去ったといいます。
やはり昨年、広沢の池では過去15年間で1羽の上空通過記録しかなかったコウノトリが2羽飛来し、飛翔写真の足環から1羽は島根県雲南市生まれの2歳のオスであることがわかりました。(写真③) 野鳥カメラマンの山中十郎さんをもってしても、遠くや光線のかげん、泥の汚れなどによって足環の判別は難しいものです。
今回、そんな高倍率のカメラや望遠鏡でも読み取れなかったニューフェイスの足環判別にまつわる深イイ話がありました。2月7日に住宅地の電柱上に止まるコウノトリ(写真④)が発見され、電波塔の定位置で羽を休めるひかりちゃんとは別個体確認!とばかりに大急ぎで駆け付けるも、足環の汚れと見上げる角度による光線の反射で判別できず、奥田睦和さん撮影の画像のズームでも同じでした。そんな折、コウノトリが止まる電柱前の福田智都子さん(写真⑤右)宅の、二階からの撮影の申し出の快諾を得て、奥田睦和さん(同左⑥)共々右脚の赤と黒、左脚の黒と黄色を確認し、豊岡の森川巣搭生まれの2歳になるメス、J0251を登録しました。(写真⑦)
今やスマホ写真のデータに、日付と共に位置情報も記される為、時系列でのコウノトリ調査のそれぞれの記録でもって、城陽市にひかりちゃん以外にも飛来していることが田部富男さん(写真⑧右2)と田中義則さん(同左2)の報告によって実証され、西尾長太郎さんも写真でとらえられています。これら一斉移動の記録も、脇坂英弥君(同左)が活用してくれることでしょう。

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