追悼の思い 像に込め/平等院・国宝の菩薩 模刻を奉納
彼岸会に合わせて模刻の開眼法要が執り行われた

平等院の国宝「雲中供養菩薩像」の1つ「南21号」を忠実に再現した模刻像が17日、同寺に奉納され、塔頭の浄土院(神居文彰住職)で開眼法要が営まれた。
雲中供養菩薩像は鳳凰堂内部にあり、本尊阿弥陀如来坐像を囲むように掛け並べられている。平安時代後期の作で、南北に半数ずつ、各像に1から26までの番号が付けられており、全部で52体ある。
制作したのは、岩手県一関市出身で、山形県にある東北芸術工科大学(山形県)修士1年の門田真実(もんでん・まこと)さん(23)。学部生4年次の卒業制作として手掛けたもの。コロナ禍で昨年中の奉納がかなわなかった。

雲中供養菩薩像の模刻(左から神居住職、柿田教授、門田さん)

東日本大震災10周年となった今年、模刻の開眼法要が浄土院春季彼岸会に合わせて行われた。神居住職による法要に続いて、門田さんが研究概要について解説し、指導に当たった柿田喜則教授が講話した。
模刻の制作にあたっては、完成後に同寺で仏として迎える約束が交わされたという。神居住職は「門田さんは11歳の時に震災に遭われたそうです。私たちは(東北と京都で)遠く離れていますが、目の前に思いが結実して仏になっています」と語り、追悼への思いを込めた。

■文化財保存 次世代へ

門田さんの解説の中で、模刻の制作過程で生まれた新たな見解について話があった。
雲中供養菩薩像の多くは、1材で頭体を作るか、別材にして挿し首にする形をとっているが、今回の「南21号」は、別材を膠(にかわ)で接着する「木口継ぎ」という技法がとられているという。
木口継ぎは強度が劣るため、採用されることが少ないが、あえて使われた理由は、彫りやすさを優先し、顔の向きを調整できる構造にして造形にこだわったのだろう…と門田さんは分析した。
実際の制作にあたり、頭・体通して1材で造仏することで、動きのある像を作る難しさを痛感したという。
門田さんは「震災を受けて、文化財への被害が具体的に見えたことは、私が文化財修復・保存の道に進もうと考えるきっかけの1つになった」と話していた。
指導担当の柿田教授は「自然災害が多い日本では、必ず次の震災が起こる。今はその前の段階にあるととらえて、準備しないといけない。歴史の物語を次の世代へ伝える役割が私たちにある」と述べた。