【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
愛鳥月間の5月、年中行事として定着してきたバードウィークの探鳥会も、コロナ禍の影響で二年連続して開催中止となりました。そしてもうひとつ、「NHKさわやか自然百景」で南山城地方を代表する環境示準鳥として白羽の矢が立った「ケリ」の取材が、今年も見送られることになって最優先課題とする目標の消滅に肩を落としています。
巨椋池干拓田のケリの研究で博士号を得た脇坂英弥君にとって、自身の研究成果を最新映像で記録され全国に紹介される機会とあって準備段階から力が入りっていました。昨年早々に東京から来られた取材スタッフの方々も、行政や農業関係機関への協力要請も済ませて、今年こそケリの繁殖生態を余すことなく記録すべく久御山町での撮影協力の依頼メールが届いたのは3月半ばのことでした。
そして4月に入り、大阪で猛威を奮いだしたコロナウィルスの影響を考慮して、今年も『さわやか自然百景の取材が急きょ中止となりました。』との残念な連絡を受けた7日には、北海道の義母の訃報が追い打ちをかける事態となって、その後のケリの調査も自然と棚上げになっていました。そんな折、ケリの調査協力者から相次ぐ孵化の情報提供などは届いていましたが、小学校のグラウンドでケリが営巣したと、本来の農耕地以外の特異な環境での繁殖事例の連絡を受けて駆け付けました。
果たして、5月12日付当紙面に於いて、久御山町の東角小学校で町の鳥・ケリが産卵し、外敵被害に遭って残された卵が無事に孵化することを望む発見者の子供たちの願いが大きく紙面を割いて報道されました。そしてその翌日の続報に、新展開を迎えた続々報と、愛鳥週間にタイムリーな三連発の記事を発信していただき、ナチュラリストの本分である郷土の自然財産・野生生物保護の啓蒙活動の一端を果たすことができました。
愛鳥思想といえども、過度の保護や法に抵触する諸問題などもからんで、マスコミ報道のあり方も問われるところです。前回紹介した環境省などの愛鳥月間キャンペーン『見つけてもそのままに!』の真逆で、飛べない綿毛のフクロウの保護飼育を美談として放映しているニュースもありました。
今回、放棄された卵の孵化を望む子供たちの期待に応えるべく動き出し、無事に雛鳥が誕生し、ケリ博士の脇坂英弥先生を迎えて、環境省の標識足環を装着して一緒に放鳥できる日が来ることを願って綴る愛鳥月間トピックス続編です。ようやく不完全燃焼も解消し、笑顔復活の活動報告にお付き合い下さい。

◎野鳥フォトレポート

「日本動物植物専門学院」時代の自慢の教え子で、後に巨椋池干拓田のケリの研究で博士号を取得した脇坂英弥君(写真①中)とは、日本鳥学会と日本鳥類標識協会で数多くの研究発表を続けてきました。1999年度に学会発表した「南山城鳥類目録」の改訂版を重ねて、現在は脇坂君のサポーターとしてケリと共にタマシギやオオタカなど京都府の希少野生生物の生息調査を続けています。
写真②は鳥類目録の裏表紙に配した調査対象種のケリとタマシギのイラストで、有名な富士鷹なすびさんの作品です。資料写真の③は、ケリの子育ての時期に見られる威嚇姿勢で、城陽環境パートナーシップ会議・自然部会の調査員・西尾長太郎さんの作品です。これらの協力者に支えられ、多くの情報提供者の支援があって実りあるフィールド活動を続けてこられました。
もう30年も前、長岡京市の長法寺小学校の屋上でケリが営巣し、特異な繁殖はマスコミでも大きく取りあげられました。孵化しても餌が得られない状況に、避難場所を設け水と餌を供給して見守りました。この時は孵化した4雛の内2羽が生き残り、約ひと月後に無事野外放鳥に至りました。その後も京田辺市の培良中学校での事例がありましたが、繁殖地の田んぼに隣接する環境から、孵化後に雛鳥を地面に降ろすことで親鳥に導かれ無事事なきを得ています。
こうした極端な繁殖例は子育て経験のない若いケリと思われ、一昨年の城陽市での駐車場や今回の小学校のグラウンドでの営巣・産卵のペアも同様かと推測しています。耕作によって巣卵が破壊されると、あらためて繁殖する習性があり、これまで再々産卵までを確認しています。
今回、サッカーのクラブ活動で巣が見つかった時、既にカラスと思われる被害で無事な卵はひとつだけでしたが、親鳥が戻ってくることを願ってコーンでバリケードを作り、注意書きで呼びかける処置がとられていました。たったひとつ残された卵に願いを込め、心優しい発見者のエコキッズたちと記録の写真撮影です。(写真④⑤)
こうした状況での孵化はほぼ絶望的も、子供たちに芽生えた郷土の鳥への想いに報いるべく、翌日に城陽環境PS会議から山中十郎さん撮影のケリの絵はがき2種と日本鳥類保護連盟の最新版機関誌に掲載されている脇坂英弥君のケリの記事を進呈すべく赴くや、新たに1卵だけの巣が見つかり、再産卵の巣で繁殖の期待も高まりました。(写真⑥)
結果的には放棄されたのですが、その3日前に傷病鳥獣の窓口となっている筆者のもとに抱卵中のキジが草刈り機の事故に遭ったとの報告を受けて駆け付けるも絶命、屍は標本に、卵は西口昌弘さん(写真⑦右)と久保田明子さん(同左)に託して孵化にチャレンジしてもらっています。優美でヘビをも捕える勇猛な日本の国鳥・キジの営巣は草むらで、10個ほどの卵を産む多産系でメスのみが抱卵します。 卵の大きさはケリよりも小さく、斑紋もありません。(写真⑧撮影・山中十郎氏 写真⑨撮影・井手邦彦氏)
かくして、一縷の望みにかけてケリの卵も持ち込みました。レース鳩150羽を育てる愛鳥家の西口さん、キジの卵はチャボとハトに抱かせて、ケリの卵二つは孵卵器に託されました。GWにはコウノトリ仲間の呉松暁美さん(写真⑩右)から、防鳥ネットにかかっているケリの情報をいただき、ジュニアメンバーの千田真大君(同左)と共に屍回収に出向いています。
事故にて命尽きたケリへの供養が、奇跡の命誕生に活かされて欲しいものです。6月の初旬、歓喜の報告を届けられること願ってやまないナチュラリスト、愛鳥月間野鳥四方山話は、まだまだ続きます。

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