黒田夏子さん『組曲 わすれこうじ』受賞/第31回紫式部文学賞
第31回紫式部文学賞を受賞した黒田夏子さん(©新潮社)と受賞作『組曲 わすれこうじ』

宇治市は13日、第31回紫式部文学賞に作家・黒田夏子さん(84)=東京都=の『組曲 わすれこうじ』(新潮社、2020年)、紫式部市民文化賞には上田邦夫さん(67)=同市宇治蓮華=の回顧録『屋根裏から出囃子が聞こえる〈地域寄席奮闘記〉』を選んだ、と発表した。贈呈式は11月7日(日)、宇治市文化センターで行われる予定。
紫式部文学賞に輝いた黒田夏子さんは、東京生まれ。早稲田大学教育学部在学中に同人誌「砂城」創刊に参加。卒業後は教員・事務員・校正者などとして働きながら執筆を続け、1963年「毬」で第63回読売短編小説賞。2012年「abさんご(100枚版)」で第24回早稲田文学新人賞、13年同作で第148回芥川賞を受賞。
『組曲 わすれこうじ』は、2014年から20年まで文芸各誌に発表された17作品から成り、各作品が音楽の組曲のように響き合う。芥川賞受賞後初となる「新作小説集」だ。「早くに両親を失った語り手が、戦後、急速に血縁の結び付きが薄れてゆくなか、海岸の自家の別荘で、『二代前の血統』に引きとられ、『養育がかり』と六人ほどで暮らした幼い日々の記憶をたどる」(鈴木貞美選考委員長)。
松村淳子市長から受賞作の発表があった後、鈴木選考委員長(文芸評論家、国際日本文化研究センター名誉教授)は「『abさんご』と格段に違う境地。1つの事件と言っていい、言葉の技と文を作っている。一人称小説でありながら『私』の語が出てこない。横書きだが片仮名を用いず、ラクダ、桜などの名称も和語で説明される。和語と漢語の、この語り口は比類がない。日本の文芸史上、非常に画期的。小説界全体がストーリーテリングに走っているが、こういう挑戦があっていい。『源氏物語』も和歌のレトリックが地の文に溶け込んでいるなど、かなりの冒険だった。紫式部文学賞であってこその受賞だ」と評した。
黒田さんは「文学賞には、文学の大先輩のお名前を冠したものも多いのですが、ほとんどが近現代の作家であって、このように千年前などという飛び抜けて古い時代の先達のものは他に聞きません。それで、なんだか急に大きな文学史の流れの中に呼び込んでいただけたような気分で、日を追うにつれ、だんだんにうれしさが増してきているところでございます」などと受賞の言葉を寄せた。
文学賞は推薦55作品から、市民文化賞は応募40作品から選ばれた。

■上田邦夫さんが受賞/紫式部市民文化賞

第31回紫式部市民文化賞を受賞した上田邦夫さん

宇治市は13日、第31回紫式部市民文化賞に上田邦夫さん(67)=同市宇治蓮華=の回顧録『屋根裏から出囃子が聞こえる〈地域寄席奮闘記〉』を選んだ。
松村市長が受賞作を発表した後、選考委員長の山路興造さん(元京都市歴史資料館長)は同作品を、「自宅を新築した時に屋根裏部屋を40席の寄席にした。プロの落語家の出演で100回続いた。小説でも研究でもない、実際にやったことの奮戦記」と紹介。「聞く方もやる方も楽しみにした。宇治市民の、いろいろな形での文化がある。文章もテンポ良く面白い」と評した。
題材になったのは「尾長猫寄席」。上田さんは、「幼い頃、私を『笑い』の世界へ誘ってくれたのは、明治生まれの厳格な祖父でした。以来、漫才や落語、狂言、喜劇や都々逸など『笑い』を含んだ芸能に興味が広がっていきました。なかでも『落語』のもつ世界観や人間描写、言葉の豊かさに魅了され、30年前、自ら宇治の地で落語会を主催するに至り、その『落語会』は17年、100回を数えておりました。作品の受賞にあたり、100回もの長きにわたり支えてくれた家族や友人、安い出演料に文句も言わず出演していただいた噺家のみなさん、足を運び笑っていただいた、延べ7000人に及ぶお客様に感謝するとともに、お選びいただきました選考委員の先生方には深く感謝申し上げます」と受賞の言葉を寄せた。
また、同賞選考委員特別賞には、代々百々(だいだいもも)さん(71)=宇治市南陵町=の小説『ソクのいた日』、野田公彦さん(76)=宇治市木幡=の紀行文『頼政道を歩く』の2作品が選ばれた。山路選考委員長は『ソク~』について「応募のあった小説作品で、群を抜いて面白かった」と、『頼政道~』について「身近な有名人を丹念に掘り下げており、感銘を受けた」と評した。