【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
今年もあっという間に一年が過ぎようとしています。
相変わらずのコロナ禍の中、ナチュラリストの活動母体「城陽環境パートナーシップ会議」の年間最大行事である「第21回城陽市環境フォーラム」を三年ぶりに通常開催できたことは来年に向けての何よりの希望の光となって元気をもらっています。
この二年間、ナチュラリストにとっての活動の場が制限され、消化不良のおよそらしからぬ停滞生活でフィールドの夢も遠のいていましたが、アフター・環境フォーラムの相乗効果テキメンの嬉しい成果のご報告でやっと日常生活が戻りつつあるのを実感している昨今です。11月5日に文化パルク城陽で開催された環境フォーラムでは、まだまだコロナの影響もあって積極的な動員もかけずに臨み、城陽市の環境先進都市宣言を受けての『カーボンニュートラルに向けて』のメインテーマも決して一般受けするものではなかったでしょうが、それでも350名もの熱心な人たちが足を運ぶ盛会となりました。
本来、環境イベントとして開催することにこそ意義があるとの持論を展開し、フィールド調査の成果発表の場としてのコーナー設置でナチュラリストの責を果たしてきましたが、やはり多くの人たち見守られての賜物であることを再認識した素晴らしい環境フォーラムでした。そして、その後は週末ごとにジュニアメンバーたちと繰り出し、平日もナチュラリスト仲間からの情報に奔走するかつてのフィールド派ナチュラリスト復活の日常が戻ってきました!
何より嬉しい久々となるフィールド調査の成果は、新種の淡水魚・ナガレカマツカの発見が自慢の和束町・野生生物生息リストに、新たに「ユビナガコウモリ」という希少種を追加掲載できたことです。笠置町に隣接する奈良県の東洋コウモリ博物館で鑑定いただき、京都府レッドデータブックでは最も絶滅の危機にある最高ランクの「絶滅寸前種」に掲載されていて、2010年に京都市右京区の隧道で発見された記録に次ぐものであることが分かりました。
フィールド探査と共にライフワークのミュージアム巡りでは、名古屋市野鳥観察館と弥冨野鳥園への研修や外来生物水族館の視察に赴き、琵琶湖の田園地帯に飛来したカナダヅルの情報に現地に駆け付け、その足で佐川美術館の「水木しげる展」を堪能しています。また、今年のお正月に宇治川で発見され大きな話題となった世界的珍鳥・コウライアイサが今シーズンも飛来したとの朗報も届いて、日々充実の師走を過ごしています。
コロナ禍で長い空転の時期を脱し、やっと本来のライフスタイルでフィールドの最新情報をお届けし、身近な環境問題への取り組みにも青写真が描けるまでになりました。ひと足早いコロナ終焉宣言、歓喜のフォトレポートにお付き合い下さい。

◎超多忙な活動日記

先ずは福井惇一君撮影のユビナガコウモリ(写真➀)をご覧下さい。自然洞窟や廃坑跡などの生息環境の悪化による減少と夜行性から、イエコウモリと呼ばれる身近なアブラコウモリ以外は全て希少種であり、ほとんど見る機会も無いのが通常です。捕獲調査には環境省や京都府の認可が必要で、家屋に棲みついて鳴き声や糞害の主のアブラコウモリでも、外来生物のアライグマやハクビシンの駆除とは異なり追い出しの排除が基本です。
それだけに、写真撮影だけでの種の同定は難しく、東洋コウモリ博物館に持ち込んで鑑定をお願いしています。京都府レッドデータブックの執筆者で博物館理事長の前田喜四雄・奈良教育大学名誉教授は、我が家名物・木津川産天然スッポンの鍋の会にもご夫婦で招待の間柄で、和束町の生物調査を機に博物館主催のコウモリ観察会にも参加してアドバイスを受けています。以前の調査では、その特徴的な顔つきからキクガシラコウモリとひと回り小さいコキクガシラコウモリを確認しましたが、他の種類の生息の可能性もあって博物館の奥村一枝さんに同行調査をお願いしていましたがやはりコロナの影響で中止となった経緯がありました。
コウモリの語源は、井戸を守るイモリに家を守るヤモリと同様に、川の守のカワモリがコウモリとなった説が一般的です。西洋では吸血鬼・ドラキュラのしもべとしてダークなイメージも、日本や中国では「幸守」「幸盛り」として縁起の良い神秘の生き物とされてきましたが、近年のコロナ菌媒体の宿主とされ、見る目も変わってきています。また、中華料理の蚊の目のスープはコウモリの糞からの採取に起因した「蚊欲」語源説など昆虫食が主流を占める中、チスイコウモリにウオクイコウモリ、フルーツバットと呼ばれるオオコウモリなど世界で約950種類・日本では35種類が知られ哺乳類の2割を占める大所帯です。
京都府レッドデータブックも2002年から2015年の改訂版に続いて、新たな改訂版が刊行されます。かつて公式な記録が少なく「絶滅寸前種」の最高ランクに掲載されていたキクガシラコウモリは、「準絶滅危惧種」へと2ランクダウンとなり、最新2022年度版ではランク外となっています。こうしたレッドリストの生き物たちが指定解除されることは、絶滅の危機にあった希少生物の生息が安定個体数に回復したことに他なりません。今回のユビナガコウモリの発見も、『当時は絶滅寸前種の大発見だったんだぞ!』と笑顔で指定解除の報告ができる日がくることを願うばかりです。
郷土の環境資料たる希少野生生物の生息状況の把握と、自然環境の保全につながる啓蒙活動にあと何年取り組めるかを考えると気持ちも曇天もようですが、ナチュラリスト仲間と将来が楽しみなジュニアメンバーたちから元気をもらって、これからも紙面に収まり切らない活動報告で期待に応えられる朗報をお届けしたいと願っています。野鳥カメラマンの山中十郎さん撮影の宇治川の珍鳥・コウライアイサ(写真②③右)と、滋賀県に迷鳥として初飛来した優美なカナダヅルのペア?の解説のいらない記録写真(④⑤)を添えて彩としています。
10月2日の南山城村での自然観察で、サブ講師として活躍してくれたジュニアメンバーたち3人には、来年2月4日の城陽環境PS会議主催の冬季恒例・古川野鳥観察会での講師の大役を担うべくミュージアム巡りの研修の場を楽しみ学んで、フィールド調査にも活かしてくれることを期待しています。(写真⑥⑦⑧) 来年度を見据えた環境フォーラムの企画候補で視察に訪れた外来生物の花園水族館の話題など、まだまだ報告ネタ満載の嬉しい悲鳴で年末を迎えているナチュラリストです。続報をお待ち下さい。