【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】

今年も記録的な猛暑の夏を迎え、思い描いたフィールド活動ができなかった反動もあって、雑多な生き物たち総点検でナチュラリスト復活の季節を過ごしています。

ようやくコロナの呪縛からも解放され、今年は日本鳥学会大会に参加し、久しぶりに全国の研究者たちとの懇親会を楽しみにジュニアメンバーの福井惇一君の研究発表を目標にしてきましたが、大学受験を控えた福井君の負担を考え学会デビューを先送りしました。やはりもうひとつの年間最大行事と位置付ける12月の日本爬虫両棲類学会・東邦大学大会でも懇親会が復活し、こちらにはぜひとも参加して3年ぶりの科学博物館など首都圏のミュージアム巡りと旧友たちとの再会を楽しみにしているところです。

今年は4月に大恩あるムツゴロウ・畑正憲先生の訃報が届き、喪が明けた6月末を経ても梅雨明け宣言には程遠い心境で、体調不良も重なっておよそらしからぬ生活でこれまでのように生き物情報が届けられても即座に対応できずにいました。それでも、6月24日に完成披露をみた「城陽環境パートナーシップ会議」製作の「城陽の宝もの 生き物ガイドブック・さかな編」関連のイベントや協力者諸氏への挨拶回りで元気をもらい、夏休み恒例の三大イベントを乗り切ってようやくライフワークとするミュージアム巡りと列車の旅を楽しむ余裕も出てきました。

当連載と共に、活動報告の「ライン爆弾」が途絶えたナチュラリスト仲間たちにはご心配をおかけし、フィールド復帰後もなかなか胸を張れる成果を得られず朗報発信できずにいましたが、ようやく身の周りも落ち着いて生き物最新トピックスに活動母体・城陽環境PS会議の話題などをお届けできるまでに至りました。「生き物ガイドブック・さかな編」の完成と記念講演や今池川での観察会、珍蛇・タカチホヘビの発見を本紙でも報じて頂きましたが、当事者としてあらためての補足報告も含めての連載再開です。

かつての「夏の申し子」も、無理がきかない歳を迎えたと実感の今夏、子供たちの笑顔がフィールド探査の励みとなってまだまだ自分にしか出来ない使命があると思い直して、ふるさとの生き物総点検の最新情報で保護に役立つことを願っています。これまで、内容的にもかなり自己本位な表現があって、掲載写真や人物紹介の敬称などでも不適切と感じられた方もおられると思いますが、コンプライアンスに抵触しない範囲で変わらぬ紙面報告となることをご了承いただき、これからも手前味噌なナチュラリストのフィールド日記にお付き合い願えればと考えております。

今回、魚類リストと最新情報を詰め込んだガイドブックの完成で、次代に引き継ぐファイナル資料を残して責を果たせたものと安堵しています。淡水魚調査はセミリタイアとなるナチュラリストが、お世話になった方々への感謝の想いを込めてのフォトレポート第一弾、ナチュラリストのふるさとの魚と人々との関わりを振り返るよもやま話をお届けします。

◎郷土の淡水魚ファイナル資料「生き物ガイドブック・さかな編」完成!

 

城陽環境パートナーシップ会議では、郷土の希少野生生物の保護と生息環境の保全を目的に『城陽の宝物 生き物ハンドブック』を2010年に作成しました。それまでの郷土の環境資料としての「鳥類目録」や「野生生物生息リスト」の充実を目標に、広く市民に情報提供を呼び掛けた「生き物住民登録」で、脊椎動物の哺乳類から淡水魚に昆虫まで、各分野の専門家の先生方の監修を経て完成しています。その後も継続調査の成果に新たな情報も寄せられ、2014年にハンドブック改訂版と共にDVD版の製作に取り掛かり、オオタカのハンティングやフクロウの巣立ち、シマヘビがクサガメの卵を掘り出して捕食する貴重な生態映像の数々を収録して好評を博しました。

また2018年度からはハンディタイプのガイドブックとして「希少生物編」に始まり、「植物編」「昆虫編」「キノコ編」に今年度の「さかな編」まで、コロナで中断した2020年度を除いて毎年製作発表を続けています。そしてシリーズ第六弾となる来年度も、外来生物と有害鳥獣にスポットを当てた編集で、環境保全のためには生態系を攪乱するこれらの生物の駆除が不可欠であることを知っていただく機会にしたいと考えているところです。

所属学会での研究発表は個人的な成果も、「城陽環境パートナーシップ会議」を活動母体に自然観察会の開催やこうした郷土の動植物全般にわたる生息状況の基礎資料を製作し、保護に役立つ活動に従事しているとの自負がナチュラリストの誇りです。それでも、古希を過ぎたロートルナチュラリストにとって、あと何年フィールド活動に奔走し、どれだけの成果が期待できるかを考えれば寂しくなる昨今です。そんな中、多くの人たちの協力を得て完成したガイドブックは何よりの励みとなりました。

1990年に木津川で天然記念物の淡水魚・イタセンパラを発見したのを機に魚類調査に携わり、それまで未確認種や野生絶滅と思われていた希少種の発見などの幸運にも恵まれて、胸を張れる郷土の淡水魚生息リストを発表してきました。古くは「城陽市歴史民俗資料館」の要請に応えて、木津川漁業協同組合の役員だった父親を通じての関係資料や聴取調査と共に文献記録を掘り起こして木津川水系の当時の魚類リストと過去に記録のある種類をまとめ、今回のガイドブックにも活かされています。

特筆すべき記録では、アカザやホトケドジョウといった京都府南部で未確認だった希少種を捕獲確認し、野生絶滅と思われていたカワバタモロコも再発見しています。宇治田原町のレッドデータブックに写真掲載の絶滅寸前種・スジシマドジョウでは、後にDNA解析により新種分類されて環境省が絶滅種に掲載した「ヨドコガタスジシマドジョウ?」の可能性があると、専門家が大挙して現地調査に訪れたというエピソードもあります。

近年では、2020年に和束川で新種登録されたナガレカマツカを発見しましたが、二代目木津川川漁師を冠とするナチュラリストも所詮はアマチュアで、公式記録には淡水魚の研究者の協力が不可欠です。話は戻って、木津川でイタセンパラを発見した時のこと、全国紙の毎日新聞で報じられたにも関わらず専門家は否定的で、おっかけ取材の朝日新聞の記者に『99%あり得ない。他のタナゴ類の誤認。』や、淀川での密漁個体のパフォーマンスを匂わす発言まであり、即座に現物を持参して当時の琵琶湖文化館へ赴き実証しています。

翌日には大阪からイタセンパラの大家のK先生が来られ、調査協力の要請を受けて大掛かりな保護対策の調査が始まりました。もはや出番はなくなりましたが、産卵床となるイシガイにナンバーを刻印するなど、どの分野でも科学的データの集積と解析が必要で、何より専門家による鑑定や報告書が公式記録の手順で、アドバイザーの存在が大きな意味をもつことを学びました。こうした結果、鳥類研究以来基本ひとりのフィールドワークの節目には、現認者となる仲間を伴い専門家の先生方との交流につとめました。

京都府レッドデータブックの淡水魚の執筆者・林博之先生とは、城陽高校に社会人講師として招かれた折に知り合い、以後、クロメダカの復活やアカザの発見、ホトケドジョウの鑑定にアフリカの熱帯魚・ティラピアの調査など、四半世紀にわたってナチュラリストの淡水魚調査を支えてくれた頼もしき相棒によって今回のガイドブック・さかな編が完成しています。2020年の和束町の調査で新種のナガレカマツカを共に発見したもう一人の相棒の城陽PS会議・運営委員の水野尚之・京大名誉教授も名を連ね、木津川・宇治川の両漁業組合と共に協力者のお名前を表記して功労に応えています。市民配布の時期も終えましたが、市外の方も城陽市役所環境課窓口にお越しいただければ進呈致しますので是非「読者特権」を行使して手に入れて下さい。(つづく)