【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】

郷土の希少野生生物の保護と生息環境の保全を掲げ、フィールド探査と啓蒙活動をライフワークとしてきたナチュラリストも、近年のコロナ禍による活動停滞は大変な痛手でした。絶滅の危機にあるレッドリストに記載の生き物たちの生息状況はもちろん、生態系を攪乱する外来生物の侵入や被害の把握は緊急課題であり、こうした環境資料として不可欠な調査記録も期待に応えられるものではありませんでした。
そんな中、和束町の野生生物生息調査に携わり、2021年3月に完成した「生き物ガイドブック」に新種登録された淡水魚・ナガレカマツカの京都府初記録を添えることができました。こうして発見者の林博之先生と水野尚之先生と共に、城陽環境パートナーシップ会議でもシリーズ第5弾となる今年度のガイドブックに「さかな編」を選定し、6月の完成披露イベントから11月25日の「第22回城陽市環境フォーラム」でのパネル展示と解説で、長いコロナ禍の呪縛からの解放にひと役かってくれました。
それでも、これからのフィールド探査で、淡水魚の調査はもちろん、これまで記録されていない未確認種の発見や、希少野生生物におけるあらたな知見も期待できないのが現状で寂しい限りです。和束町の調査では、京都府南部では公式な記録がないブッポウソウとオオコノハズクの発見に、スナヤツメの生息実証を願っていましたが、ついぞ確認することはできませんでした。これまで、宇治田原町や南山城村の野生生物生息調査でも目標に掲げていましたが、報われることなく30数年が経ちました。
そんな幻の鳥・ブッポウソウは、オオタカ・コアジサシ・タマシギ・ヒメアマツバメと共に京都府の条例で希少野生生物に指定されていて、唯一、南山城地方では確認されておらず、他の4種類はヒメアマツバメの保護放鳥を含む鳥類標識調査の公式な記録を残しています。それだけに、せめて視認観察による記録を添えて鳥人ナチュラリストの有終の美を飾りたいと願っていましたが、今年になって井手町の万灯呂山で撮影されたとの情報が入り、渡りの途中の一過性の記録といえども来シーズンに向けて希望が持てる朗報でした。
そして、城陽市で初めてアカハネオンブバッタが確認され、外来生物の生息状況の把握を掲げるナチュラリストの使命感もあってフィールド調査に繰り出しました。ようやく本来のライフスタイルに戻って生き物たちを楽しむ余裕もでて、また気持ちも新たに郷土の環境資料に取り組む想いも募りました。来年度に予定しているガイドブック第6弾・外来生物編作成にも力が入ります。
アカハネオンブバッタ発見の相乗効果もあって、近年になく充実した年の瀬を迎えています。感性豊かで好奇心旺盛な少年期に、自身で捕えた虫たちへの想いは特別なものであることが伝わってきます。身近なバッタ採りが生き物観察の入門編となって、様々な生き物たちを見つけてくれることでしょう。懐かしいお宝昆虫の写真も取り出して振り返る虫たちのトピックスにお付き合い下さい。

◎虫たちは身近な生き物観察の入門編

本紙12月7日版で、富野小学校・生き物クラブの活動で外来種のアカハネオンブバッタが見つかった記事が掲載されました。もう3年近くも前に大阪の研究者から問い合わせがあり、以後、子供たちとの野外実習や観察会でも注意してきましたが、特徴的な赤い羽根のオンブバッタを確認できないままいつしか気にもとめなくなっていました。そんな折、学校近くの休耕田で4年生の堀井陽太君がアカハネオンブバッタを見つけました。未知の外来バッタの知識と幸運な発見は、将来が楽しみな子ども虫博士として期待しています。
そして、本家のオンブバッタへの影響が懸念されるアカハネの侵入は気になるところで、ここでは約半数を占めていました。京都府自然環境保全課への問い合わせで、すでに八幡市で淀川沿いに侵入した個体群の繫殖定着が2019年に報告されていて、広範囲に生息している可能性もあります。早速、園児たちとの虫採り教室の五里五里の丘など4か所を慌てて確認に行きましたが、時期的にも捕獲数は少ないもののすべて在来種でした。京田辺市や井手町から南部域もジュニアメンバーたちと調べましたが発見できず、アカハネオンブバッタが定着している奈良県近くの木津川市恭仁小学校近くの農地で、12月10日に3匹の内1匹を確認して今シーズンの調査を終えています。来シーズン、子ども虫博士の発見記にみんなで生息詳細マップを作成して記録を残したいと考えています。
また、情報をいただいた滋賀県では、南部一帯から近江八幡市辺りまで拡がり、彦根市に及ぶ勢いとの報告を受けています。その彦根市で、やはり虫少年による発見記が届いています。城南小学校3年生の永池柊斗君がピンクのショウリョウバッタを捕獲し湖北野鳥センターに持ち込みました。古来より幸運を呼ぶ瑞祥の生き物と称される「白飛蝗」と「紅飛蝗」、農家の厄介者も紅白のバッタは祠に祀って豊作祈願をしたということです。ここで展示されている宇治田原町産の黄金のアマガエルは、アルビノと呼ばれる色素異常の突然変異ですが、白いトノサマバッタやピンクのショウリョウバッタは色素変異個体?で極まれに見られるとのことでこちらも来シーズンに向けての楽しみのひとつとなりました。
さて、本来昆虫は専門外のナチュラリストですが、南山城村において京都府で絶滅種とされていたコガタノゲンゴロウを再発見し、京都府では深泥池で20年前の記録があるだけのヒメミズカマキリや夜久野町など北部で生息記録のあるマルガタゲンゴロウなどの幸運な発見もあって昆虫の観察会にもお呼びがかかるようになりました。今年も太陽が丘のファミリープールでの水生昆虫観察会に、夏休み恒例の夜の昆虫採集観察会は毎回大人気を博しています。子供たちと一緒にギンヤンマのヤゴやカブトムシ・クワガタムシをゲットし、里の西保育園の100人の孫たちの笑顔と歓声に包まれて楽しい虫探しで元気をもらっています。
感性豊かで好奇心旺盛な子供たちにとって、身近な虫たちの観察から生き物への興味が拡がり、命や自然を考えるきっかけとなって自然保護への理解を深めてくれることを願っています。引き続き、活動日記とお宝昆虫たちのフォトレポートをご覧下さい。
かつて地球温暖化による生息地の拡大とされるヒラズゲンセイ(写真①)という南方系の甲虫が見つかり、ガイドブック・希少野生生物編で紹介しています。そして、同じく南方系のアカハネオンブバッタ(写真②)が10月17日、城陽市立富野小学校・生き物クラブの堀井陽太君(写真③右)によって発見されましたが、こちらは沖縄などからの自然渡来ではなく、人為的な移入による「国内外来種」とされています。京都府初記録ではありませんでしたが、外来種といえども貴重な記録です。
何より、子供たちにとって自分で捕えた虫たちは自慢のお宝生物です。昨年はマイマイカブリやオオゴキブリの発見で盛り上がった里の西保育園の野外教室、今年も年少さんがモンシロチョウをゲットし、年中さんはトンボも捕れるまでに成長しています。そして、五里五里の丘の池では先ず見ることもできないミズカマキリ発見!のお手柄がありました。(写真④⑤)
太陽が丘・ファミリープールでの水棲昆虫観察会の目玉はギンヤンマのでっかいヤゴです。(写真⑥⑦) 今年は府民スポーツ広場・みどりが丘で開催された夜の昆虫採集観察会では、コカブトにヘビトンボ(写真⑧)も見られました。申し込み初日に定員オーバーとなる人気の要因は、参加者全員にいきわたるカブトムシ・クワガタムシ(写真⑨)の戦利品で、2021年度製作の城陽生き物ガイドブック・昆虫編も配布して有効活用しています。(写真⑩)
活動母体の城陽環境パートナーシップ会議のジュニアメンバーに登録してフィールド調査に同行の富野小学校・生き物クラブの森田好幸君(写真⑪右)は、コウモリ調査の洞窟に棲むオオゲジゲジ(写真⑫)さえ飼育したいと10匹ほど捕獲するも、帰りの車の中ですべて逃亡。以後、同乗者には口をつむんで出現なきことを祈っている昨今です。こんな虫好きなジュニアたちと来シーズン、アカハネオンブバッタ調査で滋賀県にも遠征し、彦根の永池柊斗君(写真⑬)を訪ねて一緒に自然界の宝探し・紅飛蝗(写真⑭)を再発見したいものです。