【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
桜の季節も過ぎ、ムツゴロウ・畑正憲先生ご逝去から早、一年が経ちました。
結婚を機にムツゴロウ動物王国を後にし、生まれ故郷の城陽市に戻って郷土の野生動物と自然保護に貢献すべくムツゴロウイズム実践のローカルナチュラリストとしての活動の歴史も半世紀を迎えるまでになりました。
かつて北海道の国立公園・知床半島で国有林の伐採計画が明らかになった時、当時の林野庁のお歴々たちを前に『知床に残された原生林とそこに棲む絶滅に瀕した希少生物たちを、かけがえのない日本の宝として未来に残さねばならない!』と、口角泡を飛ばして開発に抗議するムツゴロウ先生の姿がよみがえります。シマフクロウやクマゲラ、オジロワシ・オオワシなど、知床に生息する「天然記念物の動物たち」の著者ならではの重みのある発言と、ナショナルトラスト運動の展開で注目された斜里町など自然保護団体の地道な活動成果が、今日の「世界自然遺産」へ登録に至った知床半島の史実に刻まれています。
ナチュラリストのライフワークとするフィールド活動も、「郷土の希少野生生物の保護とその生息環境の保全」に役立つ調査資料となることを願い、偉大な師匠にはこれまで幸運な発見と支援者たちに恵まれての胸を張れる功績の数々を報告してきました。それでもこの数年間はコロナ禍の活動ブランクもあり、古希を迎えて所属学会で発表できる研究成果などとうてい期待できないとの思いにフィールドの夢も描くことはできませんでしたが、ようやくナチュラリストの名に恥じない活動で充実の日々を送っています。
昨年の7月、関東の報道番組で桜の木に甚大な被害を与える外来昆虫の存在を知って気に留めていました。今年になって京都府でもその侵入が危惧されるクビアカツヤカミキリの講習会が1月18日に開催されるとあってすぐさま参加申し込みをしました。果たして、ブラックバスやアライグマなど、生態系を攪乱する外来生物の枠を超えた産業から経済、自然や文化に至る次元の異なる未知なるエイリアン昆虫の被害の実態や大変な防除対策などを学ぶ機会となり、「今、そこにある危機!」に向き合う決意を固めました。
桜と共に梅や桃にも被害が及び、ふるさと城陽市が誇る特産物への影響を考えると大変な打撃となります。早期の発見と防除が大前提で、先ずは危険なクビアカツヤカミキリの存在をアピールし、何より被害調査の早期実施が求められます。活動シーズンを前に、被害木ではフラスと呼ばれる幼虫が出す独特な糞と木くずの痕跡が見られるとのことで、とにもかくにも確認に奔走しました。見つからないことを願っての被害木調査は、2月の梅の季節に始まり、被害地の大阪府に奈良県、一部滋賀県の桜の名所も巡り、このGWで京都府南部・南山城地方全域でクビアカツヤカミキリの侵入は現在のところ見受けられないとの結論に至っています。
とはいえ、フラスと疑わしき写真の数々や、中には昨年に2匹を確認したとの情報も入り、それらの現場に駆け付けての聴取調査でも確証を得るに至らず、今後の継続調査の課題となる要注意項目は多々ありました。前回、講習会の参加と京都環境フェスティバルや地元のイベントでクビアカツヤカミキリを取りあげての解説に、多くの人たちの協力を得てこの危険な外来昆虫の存在と侵入の早期発見を願ってのパンフや資料映像も配布しての啓発活動を報告しました。当初はすぐにも当紙面での続編を予定していましたが、幸いなことに幼虫被害を確認できず、クビアカツヤカミキリの成虫が活動を始める6月からあらためての捕獲調査で再始動の予定です。
この間、地元城陽市議会や国会でもクビアカツヤカミキリ対策が取りあげられ、2月の16日には関西地方でも桜の季節を前に特集番組が放映され、大阪や和歌山の危機的状況が報じられました。マスコミ各紙も相次いで大きく紙面を割いての特集記事が掲載され、環境省と京都府に続いて、各市町村のホームページにもクビアカツヤカミキリの警告が掲げられ、城陽市の広報や農園冊子などにも取り上げられて当初の目的も達せられたものと胸をなでおろしています。
今後侵入が確認されても、その対策にはとても個人で対処できるものではないことは被害地の視察で痛感しています。先ずは被害を最小限に留める絶対条件の早期発見につながることを期待して、クビアカツヤカミキリの成虫を高槻市などで捕殺し、標本にして市町村の関係部署で現物をサンプル展示して頂くことも企画しているところです。
木津川川開きの季節を迎え、5月のカレンダーは愛鳥週間恒例のバードウォッチングにサイエンスキッズ春祭り、太陽が丘・ファミリープールの水生昆虫観察会にカメとカエルの観察会、宇治田原川の生き物調査などナチュラリストの元気の源であるイベントが目白押しです。今後もクビアカツヤカミキリの情報にアンテナを張りめぐらし、最優先課題で取り組む覚悟のロートルナチュラリストの経過報告にお付き合い下さい。
地道な調査に同行願った盟友たちに、たくさんの貴重な情報をお届け頂いた協力者の方々、突然の来訪に快く対応頂いた枚方市・八幡市の担当官、そして城陽環境パートナーシップ会議の視察を受け入れて頂いた高槻市農林緑政課の方々に感謝してのフォトレポートです。限られた写真では伝えきれないことばかりで、併せてネット検索でクビアカツヤカミキリの被害の実態と防除対策の困難さを知って頂き、侵略的外来生物といえども罪なき生き物たちの駆除も致し方なしの現状をご理解頂く機会となることを願っています。
◎クビアカツヤカミキリ本格調査への経緯
昨年7月9日、ナチュラリストの資料映像集「外来生物」にヒットしたBS・TBS「噂の!東京マガジン」の番組で、埼玉県行田市でのクビアカツヤカミキリの被害が報告されていました。桜の木に産卵し、幼虫が内部を喰い荒らし枯死させるとのことで、成虫捕獲に懸賞金を出したり、200本もの木を伐採して拡大を防ぐなど、これまでの外来生物の被害とは異なり対策には緊急を要するものとして注目していました。そして、今年の2月16日にNHK「かんさい熱視線」で「桜が喰われる 外来カミキリムシの被害」と題した特集が放映され、大阪府の狭山市や高槻市の悲惨な現状が報告されていました。(写真①)
1月18日の京都府と環境省の講習会に参加し、最新の被害地と防除対策法などを学んで、講師の宗實久義先生から冬期でもフラスの痕跡を見つけられるとのアドバイスを頂き、地元城陽市の木津川堤防の三ヶ所の桜づつみから手当たり次第に調査を始めました。(写真②③④⑤) タイムリーな2月3日の京都環境フェスティバルではクビアカツヤカミキリの啓発ポスターを公示し、続いて11日の城陽さんさんフェスタでは外来生物の展示コーナーで紹介しています。(写真⑥⑦)
城陽市の梅まつりを前に、盟友たちの協力を得て関係団体に環境省の啓発チラシや資料映像も作成し、侵入への警告と情報の提供を呼びかけました。(写真⑧⑨) 市議会でも3月8日に本城隆志市議(写真⑩) がこの問題を取り上げ、3月26日には国会中継でも大阪府出身議員のクビアカツヤカミキリの被害状況が放映され、マスコミ各紙も桜の季節を前に大きく紙面を割いて報じています。城陽市に続いて被害地の大阪府枚方市や奈良市に隣接する地域の桜の名所を巡り、枚方市と八幡市の市役所にも被害状況の最新情報を求めて訪ねました。そして、最も深刻な被害の高槻市には、城陽パートナーシップ会議の大野会長・芦原副会長に山岡部会長、本城運営委員共々4月4日に視察に訪れ、市役所農林緑政課の担当官・川邉正英さんと古田大輔さんには現地案内を頂きフラスや伐採跡の説明など大変お世話になりました。あらためてクビアカツヤカミキリの防波堤たる使命を確認しています。(写真⑪⑫⑬⑭⑮)
詳細はあらためても、昨年131本の桜の木を伐採し、その費用は1500万円といいます。さらには伐採条件の悪い老木の見積もりが600万円もし、防護ネットをかけるにも枝分かれした大木では不可能とのことで、ボランティアの人海作戦での防御作業も役に立ちません。伐採木も幼虫駆除のためにチップに粉砕しての処理や、伐採後の根元もシートで覆って厳重な監視が必要との現状を知れば、早期発見して被害を最小限に留めなければならないことが分かります。
ましてや梅や桃など、果樹栽培に至っては死活問題です。延べ30人からの盟友たちとの花見ならぬ樹皮観察に続いて、木津川川漁師にして罠猟師のナチュラリストが外来種バスターに衣替えです。車窓にクビアカツヤカミキリの警告ポスターを貼り付け、5mに伸びる虫網持参で奈良県や高槻市の被害地を巡り、JAや自然博物館にも足を運んで情報を仕入れましたが、幸いにも?発見できず、来月もこのまま沈静化して徒労に終われば何よりです。(写真⑯⑰)
これまでの調査エリアや協力者たち、寄せられた情報などは次回にでもあらためて紹介するとして、最後に伐採を免れ幼虫の拡散を防ぐネット防御の画像をご覧下さい。奈良県葛城市の当麻寺山門前の桜で、北崎茂樹様からご提供頂きました。やはりクビアカツヤカミキリが侵入したドイツでは、被害木の伐採で事なきを得たと聞きますが、こうした努力が報われることを願うばかりです。(写真⑱)