【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】

11月30日に文化パルク城陽で開催される『第23回城陽市環境フォーラム』では、城陽生き物ガイドブック第6弾となる外来生物編をパネル展示にて製作発表し、来年2月の「京都環境フェスティバル」での完成披露と配布開始の予鈴としています。ガイドブックの性質上、表記や解説も簡略化が求められ、掲載予定の外来生物32種類の選定にも苦慮し、入りきらない内容に情報の信憑性の確認など最終稿は新年に持ち越すことで原版の紙上報告に至っています。そうしたことから、外来生物各種の詳細を記す機会と共に、文献記録としても貴重な郷土の生き物たちの変遷の経緯に関わる資料を残すことを多分に意識しての報告となりました。

前号の「毒流し」の漁法や「木津川水泳場」の閉鎖にまつわる思い出を語り、タナゴ類の仲間のキンタやニゴイのマジカなどの俗称に、様々な漁法を受け継いだナチュラリストの原点は、幼少の頃から川砂利採取に従事する父親に連れられての木津川通いでした。ドレージャーと呼ばれるどでかい砂利採掘の車が残した堀跡がウナギやスッポンの好漁場となっていて、牛肉の数倍の値が付いた天然スッポンは当時の生活の糧にもなっていました。山城大橋が開通する前の渡しの船頭もしていて、奈島浜から対岸の飯岡浜までは10円、自転車は30円と記憶しています。四季を通しての木津川詣での中でも、盆と正月は笠置から舟で下っての鯉漁で、和船の舳先から投網を打つ親父は憧れでした。

そんな昭和39年の正月、カモメの小群が飛来して感動しました。これが木津川におけるユリカモメの初認記録となりました。前年の5月にはスッポンモンドリにお腹の黄色いきれいなカメがかかり、それがアカミミガメの野外での初記録でした。これらは共に日本鳥学会と日本爬虫両棲類学会での研究発表で公式な記録となっています。天然記念物の淡水魚・イタセンパラの発見や日本一の大スッポン捕獲は自慢の全国ニュースですが、昭和51年に「木津川でタイが釣れた!」に続いて、「今度は熱帯魚!」と地方紙に写真掲載された記事も、外来魚のティラピアとブルーギル(写真①)の侵入記録を留める文献資料です。とはいえ、種類の限定もないこうした報道の在り方も問われるところで、以前には鳥の種類や生態など明らかな間違いを報じた記事も多々あり、これらが文献資料として残ることは誠に残念です。あまりにもお粗末な間違い映像も(写真②③)ご覧下さい。

今回のガイドブック・外来生物編製作に関連し、体験的裏付けを添えての報告で、あらためて生き物たちの地方名や変遷に関わる時代背景を残す必要性を感じています。クチナワ・ハメ・オンゴロにヘイタイゲンジ・カワラバシの、これらヘビにマムシ、モグラにミヤマクワガタ、コアジサシたち消えゆく地方名を次代に残したいものです。

今回の最終報告で取り上げられなかった外来生物たちの記載は、城陽市環境フォーラムでの掲示資料でご確認いただき、新年度の完成版をお待ち下さい。遅ればせながらの「被害甚大種」などカテゴリーの詳細と表記の解説にエピソード写真で綴る報告にお付き合い下さい。

◎外来生物概要

川漁師の親父の知識や経験でも言及できない分野では、文献資料や専門家への聴取調査で補い、「鳥類目録」同様に淡水魚でも精度の高い「生息リスト」作成を心がけてきました。そうした記載でのこだわりは、生息数や観察頻度など生息状況の基本資料として保護に役立つことを大義とし、絶滅傾向の指標と加害生物の要因に及びます。このことは、現在京都府のレッドデータブックで絶滅種に記載されているニッポンバラタナゴと近似種のタイリクバラタナゴでは、水質汚染など生息環境の悪化や肉食性の天敵による捕食などは両種を隔てるものではなく、餌の競合による駆逐も体の大きさに変わりはなく、数の優位性も在来種のニッポンバラタナゴと考えると、両者の盛衰は交雑による純血種の激減があげられます。

ボウフラ駆除の為に移入された蚊絶やし・カダヤシが、身近なメダカを絶滅危惧種へ追いやったとされる要因は、体が大きく稚魚で孵化する卵胎生で水質汚染にも強いという優位性があげられます。カダヤシに対してタイリクバラタナゴでは、近似種に置き換わるだけで生態系の影響も少ないものと思われがちですが、悠久の時を経て進化を続けてきた種の絶滅は生物学的見地からみると大変なことです。恐竜の絶滅は地球規模での環境の変化でしたが、現在はその大絶滅時代を上回る1日に100種が絶滅しているともいわれています。その多くは未知なる原生生物ですが、人類の経済活動や開発による環境破壊と共に、外来生物の移入で身近な生き物たちが目に見えて激減し、再生不可能な種の絶滅の危機を迎えています。

本来異種間の交雑個体には生殖能力がないのが通常で、ロバの雄と馬の雌を人工交配して両種の優良性を受け継いで誕生したラバも一代限りの家畜です。また、日本では雄のヒョウと雌のライオンの交雑種・レオポンが誕生し、ライオンとトラの交雑種のライガーやタイゴンなども創られましたが、倫理的見地から野生動物の人工交配は行われなくなりました。それでも野生化で、2006年にホッキョクグマとハイイログマの雑種が見つかり、地球温暖化による影響で生息地が重なったのが原因とされています。

こうした外来種のタイリクバラタナゴは、本来出会うことのないニッポンバラタナゴとはごく近い種であったため、両者は競合することもなく共存と雑種の発生の結果、タイリクバラタナゴだけを駆除する手立てがないことを表しています。交雑種にも繁殖能力があり、ハーフからクォーターへと雑種化が進んでニッポンバラタナゴの純血種の激減から絶滅を招いたDNA汚染は、深い教訓を残しています。

ちなみに絶滅のカテゴリーでは、生息環境の消滅による判断と、過去50年間生息が確認されていない種が対象です。2008年に南山城村で発見した絶滅種・コガタノゲンゴロウ(写真④右上)では、京都府で74年ぶりとなる記録でした。また、深泥池で15年間生息が確認されず絶滅が心配されていたヒメミズカマキリ(同左)や野生絶滅と思われていたカワバタモロコ(写真⑤)も南山城村の調査で発見し、京都水族館で飼育展示されました。新たな侵入生物の調査といえども、こうした希少野生生物発見の可能性があることがフィールドワークのモチベーションとなっています。

◎選定基準と表記

城陽市における生息の目安を、◎多い・○普通・△少ない・×極少で表しています。

また京都府での選定基準では、被害甚大種・被害が大きく緊急に対策が必要な外来生物。被害危惧種・被害があり対策が必要な外来生物。準被害危惧種・今後被害が予想され対策検討が必要な外来生物。要注目種・今後の動向を注意すべき外来生物。情報不足種・情報が不足している外来生物と分類しています。

その影響度からは、大(A)・影響の範囲や規模が甚大で回復が困難なもの。中(B)・影響の範囲や規模が中程度であるもの。小(C)・影響が見られるも範囲や規模が小さいもの。不明(D)・影響の範囲や規模に関するデータが少なく不明なものとし、確認の度合いで定着(a)・繁殖定着が確認されている種。不明(b)・生息確認されている繁殖不明種。未定着(c)・生息確認されている非繁殖種。未確認(d)・今後侵入の可能性がある種を組み合わせて表記しています。

当然、京都府と城陽市では個々の外来生物の生息状況が違うので表記も異なります。外来生物といえども被害がないに等しいものもいれば、在来生物の中にも一部の被害甚大な種がいます。激増したシカやイノシシ(写真⑥)、スズメバチやマムシなど危険生物も含めての対策と駆除の実施は緊急を要する課題です。これからも共に見守ってまいりましょう。

◎アメリカザリガニ(写真⑦)  Aa被害甚大種 甲長8~14cm

ウシガエルの餌として一緒に輸入されたアメリカザリガニは、観賞用として広まり、野外でも急速に分布を拡げました。初輸入から数年後には旧木津町での記録もあり、「エビガニ」の俗称で食用にされていた時代もありました。本来の外来生物は在来種を駆逐することで知られていますが、当時から京都府にはニホンザリガニは生息せず、若いアメリカザリガニの個体と見誤ったものです。ペットとして人気の高いアメリカザリガニは、2023年6月より規制緩和の「特定外来生物」に指定して飼育が認められています。

◎シベリアイタチ(写真⑧) Aa被害危惧種 頭胴長 ♂28~39cm ♀25~30cm
毛皮目的で日本に輸入されたシベリアイタチは、チョウセンイタチと呼ばれ、ロシアから東ヨーロッパ、中国・台湾まで広く分布し、長崎県対馬に自然分布している個体群は絶滅危惧種に指定されています。体が小さいニホンイタチはシベリアイタチに駆逐され、現在ではめったに見られない絶滅危惧種となっています。都会から郊外の里山まで分布を拡げたシベリアイタチの直接的な被害は、家屋への侵入による騒音や糞尿の悪臭ですが、罠にかかったときなどに発する「最後っ屁」は強烈で注意が必要です。また、同じく外来生物のドブネズミ・クマネズミの天敵としての側面もあります。

△ソウシチョウ(写真⑨) CB 被害危惧種 全長15cm
古く江戸時代から飼い鳥として輸入され、雌雄で鳴き交わす「相思鳥」が名前の由来で、日中国交正常化にともない輸入が激増した1980年代からペット販売業者の遺棄などで定着しました。雑食性で、天然自然林に生息するためウグイスやオオルリなどへの影響が危惧されていて、特定外来生物に指定され「日本の侵略的外来生物ワースト100」の選定種にもなっています。

△アカハネオンブバッタ(写真⑩) Bb   体長♂20~25mm ♀40~43mm
2023年10月、城陽市立富野小学校の児童によって日本では沖縄県に生息するアカハネオンブバッタが隣接する田んぼで捕獲確認されました。その名の通り、羽が赤い以外在来のオンブバッタとほとんど変わらない小さな南方系の外来昆虫は、地球温暖化とは無関係な密航によって大阪湾から近隣に拡がったとされています。八幡市では既に数年前から定着が知られていて、滋賀県の南部一帯まで侵出しているとのことです。在来のオンブバッタも野菜や花の害虫とされていますが、農業被害に及ばないことを祈るばかりです。